公の営造物の設置・管理に基づく損害賠償責任
- ●意義
公の営造物の設置・管理に基づく損害についての国・公共団体の賠償責任(国家賠償法2条)。
- 概要
このような責任は本法制定以前にも,民法717条において認められていた。しかし,国家賠償法2条は,(1)「公の営造物」概念を採用し,「土地の工作物」概念よりも対象を広げ,また,(2)免責条項を取り入れなかった点に特徴がある。
では,(2)は過失責任を意味するか。この点,1条においては国・公共団体の過失が要求されるが,2条においては過失は不要であると解する。なぜなら,税金を徴収し,公の営造物を設置し,それを管理している以上,その安全性を担保する高度の注意義務があり,これに必ず過失を要求するのは国民の信頼を裏切ることになるからである。
- ▲要件
△(1)「公の営造物」
:公の用に供されている有体物
=公物
⊃動産
∵条文文言「その他の・・・」
≠行政法学上の「営造物」
=物的施設+人的スタッフ
>民法717条「工作物」
¬⊃動産
・具体例
◎→橋,空港,自衛隊の砲弾,公用車,郵便局職員の椅子,拳銃
×→国有林野,市営住宅,防空壕(戦後)
△(2)設置・管理の瑕疵に基づいて損害が発生すること
・「設置・管理」
先発的瑕疵→設置
後発的瑕疵→管理
=事実上の設置・管理+法律等に基づく設置・管理
∵↑から安全義務が生じる
- ?設置・管理について公権力の行使の性質が認められる場合,1条を適用すべきではないか
- 2条を適用すべきである。わざわざ2条から「公権力の行使」の場合を抽出すべき必要はないし,2条は1条の特則であると考えることができる。
・「瑕疵」
:営造物が通常有すべき安全性を欠いていること
=無過失責任=客観説(客観的物的欠陥説)
★「設置・管理の瑕疵の判断枠組みと国賠2条の性質」最判昭45・8・20(高知落石)
<理由>
本件道路には
(1)(2)従来山側から屡々落石があり、さらに崩土さえも何回かあつたのであるから、いつなんどき落石や崩土が起こるかも知れず、本件道路を通行する人および車はたえずその危険におびやかされていた
にもかかわらず、
(3)道路管理者においては、「落石注意」等の標識を立て、あるいは竹竿の先に赤の布切をつけて立て、これによつて通行車に対し注意を促す等の処置を講じたにすぎず、本件道路の右のような危険性に対して防護柵または防護覆を設置し、あるいは山側に金網を張るとか、常時山地斜面部分を調査して、落下しそうな岩石があるときは、これを除去し、崩土の起こるおそれのあるときは、事前に通行止めをする等の措置をとつたことはない
<結論>
設置・管理者(国)に過失がある。
国家賠償法二条一項の営造物の設置または管理の瑕疵とは、営造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいい、これに基づく国および公共団体の賠償責任については、その過失の存在を必要としない。
「過失の存在を必要としない」というにもかかわらず,予見可能性・回避可能性を要件にするのは矛盾に思える。が,無過失責任があくまで原則であり,要件の存在は過失責任への「接近(芝池)」である。
・判断基準
=基本的には総合考慮だけど,敢えて示せば↓
(1)危険性の存在
=通常予測しうる危険
≠水深15センチの用水溝(最判昭53・1・22)
(2)(1)に対する予見可能性
=危険性の存在が通常予測できること
≠不可抗力←台風とか
- ?誰の予見可能性なのか
- 設置・管理者である。したがって,一般の国民よりも,専門的知見に優れていると考えられるから,その基準によって判断される。
- ?その基準によって判断されるとして,どの程度の予見可能性があればよいのか
- いつ・どこで・どのような危険が発生するのかという具体的な予見可能性は必ずしも必要でなく,少なくとも,いつくらいに・どのあたりで・どのくらいの危険が発生するのかという抽象的な予見可能性が存在すればよい。後者の予見可能性が存在すれば,結果回避の行動をとるに充分な動機となるからである。
被害者の行動が予測できない場合,予見可能性は否定される
∵用法違反は守備範囲外(守備範囲論)
→ガードレールから転落死事件
→プールは誘惑的存在事件
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(3)(2)による回避可能性
「金がないから無理」←普通は考えられない
∵金のかからない対策は多く存在する
ex.道路が危険なら通行止めにする
ただ,極端な金額ではさすがに期待可能性なし
「時間がないから無理」←まあありうる
→赤色灯転倒事件
→大型車放置事件
「技術的に無理」←本当に無理かは総合判断
→プラットホーム転落両足切断事件
→大阪城外堀転落溺死事件
- 河川管理の特殊性
2条の特徴は,その文言において河川を含めている点にある。だが,水害防止には多大な費用がかかり,天災であるがゆえに完全に防止できるものではないなど,その特殊事情も考慮する必要がある。
=金も時間もかかるし,社会的にも技術的にも難しい
- ?未改修河川に求められる安全性はどのようなものか
- 過渡的な安全性である。治水事業には財政的・時間的・社会的・技術的制約が存在し,また水害は天災であるがゆえに,完全に防止することは困難である。このため,河川管理については結果としての安全性ではなく,プロセスとしての安全性で足りるとせざるをえない。そのプロセスとしての安全性,すなわち過渡的な安全性は,河川管理の一般的水準ないし社会通念に照らして相当であるかを基に判断される。
- ?では改修済の河川に求められる安全性はどのようなものか
- 改修済の河川といえども,やはり完全に水害を防止できるものではない。したがって,この場合も未改修河川と同様,プロセスとして安全性が確保できていればよい。ただし,改修(整備)に対応できると考えられた水害を防止できない場合,営造物責任は免れえない。
- 供用関連瑕疵
物的には瑕疵がない場合でも,その運用によって生じる瑕疵(機能的瑕疵)も考えられる。
→騒音,振動,排ガス・・・
ただ,本来は適法な運用によっているのだから,判断として用いられるのは受忍限度である。
- ◆効果
◇損害賠償責任(1項)
◇求償権(2項)