憲法訴訟

  • ●意義

憲法問題が争点となる訴訟。学問上の概念。

  • 概要

かつて,人権保障は議会によってなされるのが最も民主主義に適うと考えられていた。選挙によって選ばれた代表者が,仮に人権を制限するとしても,それが適当でなければ再び選挙で選ばれることはないはずである(法治主義)。しかし,ヒトラーは民主的に選挙された独裁者であった。この歴史的反省により,人権保障は適切な法律によってなされる必要があり(法の支配),それを審査するための第三者機関が必要であると考えられるに至った。この点,裁判所は官吏によって構成される非民主的機関であるため,元来このような審査権は与えられていなかった。だが,三権分立の手前,裁判所に立法・行政権の行為に対する統制権が与えられないのは妥当でないし,それを認めることが憲法最高法規性を確保する手段にもなる。このため,わが憲法は81条において法律等が憲法に適合するかしないかを決定する権限,すなわち違憲審査権を裁判所に与えることになったのである。
では,この違憲審査権は具体的事件との関係で司法権に付随して認められるものなのか,それとも,具体的事件から離れて一般的抽象的に認められているものなのか。この点,一般的抽象的に認められていると解するには,何らかの具他的規定が必要なはずである。しかし,憲法にはそのような規定はないし,そもそも81条は「司法」の章に存在するため,違憲審査権は司法権の行使の範囲内で認められていると解される。そして,司法権の行使には具体的な法律上の争訟が必要である。したがって,違憲審査権は具体的事件に付随して行使される付随的審査権である。

1)一切の法律・命令・規則・処分(81条)
2)条約

?なぜ条約が81条に入っていないのか
整合的に考えれば,条約が憲法に優越するからであるとすることもできる。98条2項の文言,及び憲法の国際協調主義も,この考えを補強するに足る。しかし,憲法に反する条約が締結された場合,憲法改正より容易な手続により実質的に憲法が改正されてしまうことになり,国民主権の原理に反する。この点,条約はそれ自体国際法としての性質を持つが,国内では国内法としての性質を持つため,条約は81条の「法律」に含まれるからであると解する。
?では,すべての条約に違憲審査権は及ぶか
そうともいえない。高度の政治性を持った条約を裁判所が違憲審査をすることは,司法権の行使が使命とされる裁判所にとってなじまない。裁判所は,国民に対して直接責任を追った国会・内閣の判断を尊重すべき場合もある(統治行為)。

3)立法不作為
  →cf.国賠1条
  立法作為・不作為違憲要件>国賠1条違法要件
    ∵51条「政治的責任」

★「らい予防法廃止不作為」熊本地判平13・5・11
<事実>
http://www.hansenkokubai.com/slide/index.html
<判断>
国会議員の立法行為・立法不作為は,立法の内容が憲法の一義的な文言に違反しているにもかかわらず国会があえて当該立法を行うというごとき,容易に想定し難いような例外的な場合でない限り,国賠1条の違法の評価を受けない(最判昭60・11・21)が,本件の場合はこの例外的な場合にあたる。

・原則
  付随的違憲審査制のため,なるべく,
    →当該事件の解決に必要な限りで憲法判断が行われる(憲法判断回避ルール)
    →法令の解釈を合憲的方向に持っていく(合憲限定解釈)


・方法
  ・法令違憲
    →尊属,議員定数,薬局,森林法,郵便損賠免除
  ・適用違憲
    ①合憲解釈不可能
    ②合憲解釈可能だが,違憲的に適用された
    ③法令は合憲だが,違憲的に適用された
      →家永教科書「検閲」

適用違憲といえども,①②③の順で,法令の違憲性が低まるということにすぎない。最も高いのは「法令違憲」。


・効力

?判決がある法律を違憲とした場合,具体的にはどのような効力を持つか
この点,法的安定性の面を考慮すれば,法律は無効となり,それが一般的効力をも有するとすべきである。このように解さなければ,ある事件では合憲で,ある事件では違憲という適用上の矛盾が生じえ,法の下の平等に反する。しかしながら,付随的違憲審査制の建前上,①違憲審査権は具体的事件に必要な限りにおいてのみ行使されるべきであり,また,②一般効を認めることは消極的立法作用であり,国会の単独立法原則を侵すことになる。したがって,違憲判決は個別的効力しか有しないと解する。ただ,このように解しても,前出の法の下の平等の問題解決にはならない。このため,国会は違憲判決を尊重し,速やかに法律の改廃手続きをするか,政府によって,法律の不執行が定められるべきである。これらの措置がとられなければ,立法不作為として,国家賠償法1条の違法要件の材料になるものと考えられる。