共同被告人の証拠

共同被告人とは,別個の刑事事件が併合審理された場合のそれぞれの被告人のことをいう。併合審理自体は,証拠共通等のメリットがあるが,他方で,それぞれの被告人の利害が相反し,かえってデメリットとなることもある。ということで,併合審理は諸事情を考慮し,メリットが大きい場合において行われる(313条1項)。また,共犯と共同被告人はイコールではなく,被告人らをつなぐかすがいとなるのは共通する証拠である。
証拠が共通するとはいっても,元来あるのは法律関係の個別性である。それゆえ,検察官は各被告人に共通の証拠の取調べを請求することも,また個別に異なる証拠の取調を請求することもできる。
そして,被告人間の利害が対立するようになれば,弁論を分離する必要がある(313条2項)。


  • 共同被告人の供述

XとYが共同被告人の関係にあるとき,Xの供述がYの証拠に用いられるのは①Xが証人として供述する場合,②Xが共同被告人として供述する場合,③Xの公判廷外における供述が用いられる場合,が考えられる。


1 共同被告人の証人適格
  =Xの証人としての供述をYの証拠として用いうるかという問題
  ↑ない
    ∵黙秘権
    ∵被告人と証人という立場は相容れない
    →弁論分離の必要

?そのような都合に応じて弁論は分離できるか
形式的にはできることになる。ただ,被告人という立場では黙秘権があるのに,証人という立場ではそれがないのでは実質的に黙秘権が剥奪されたに等しい。しかし,法は何人でも承認適格を有するとし(143条〜),146条により有罪判決を受けるおそれのある事項については証言を拒否することができるのであるから,なお「自己に不利益な供述を強要(憲法38条1項)」されているとはいえない。


2 共同被告人の公判廷における供述
  =Xの供述・黙秘権(311条1項)とYの反対尋問権(311条3項)の対立問題

?Yの反対尋問がXの黙秘権行使により遂げられなかった場合にも,Xの供述は証拠能力を有するか
Yが証人として供述するか,被告人として供述するかで黙秘権の有無の違いがあるから,Xとしてはこの立場の問題が重要であるようにも思える。しかし,実際問題Yがそれぞれの立場で供述内容を変えることはまれだし,共同審理の際に各被告人はそれぞれ反対尋問の機会が与えられているのだから,Xの供述は証拠能力は有する。


3 公判期日外の供述
  =Xの公判廷外の供述は,Yにとって①誰の②どのような証拠なのかという問題
    →①〜〜〜の,②伝聞証拠
      ②→Xの同意が必要(326条)

?YにとってXの立場は共同被告人なのか,それとも第三者なのかの違いにより,321条以下の適用法条をどれにすべきかが問題となる
YにとってXは共同被告人だが,元来あるのは法律関係の個別性であり,それにより反対尋問権も認められている(311条3項)。ということは,YにとってXは第三者であるから,Xの公判廷外の供述はYにとって第三者の伝聞証拠であり,Yの同意(326条)のほかに,321条1項の要件が満たされなければ,証拠能力が認められない。
  • 共犯者の供述の自白性

XとYが共犯関係にあると考えられているとき,Xが「僕たち2人がやりました」と言った場合,その言はYにとって第三者の供述なのか,それとも共犯者の自白なのかが問題になる。供述であれば,補強証拠は不要,自白であれば,補強証拠が必要になる。

★「共犯者の自白」最判昭51・10・28百選86
<事実>
被告人Xと,共同被告人ABらは偽装交通事故保険金騙取に関する罪でそれぞれ有罪。共謀の事実はABの供述によって認定され,Xはこれを否定し続けた。
<判断>
共犯者2名以上の自白によって被告人を有罪としても憲法38条3項に違反しない。しかも,本件では共犯者らの自白のみによって被告人の犯罪事実を認定したわけでもない。
(岸,岸上裁判官補足意見)
共犯者の自白に補強証拠の存在を必要とする法理を憲法38条3項の解釈に持ち込むことは本来の趣旨に沿わなく,自白した共犯者らは相互に自白が補強されて有罪とされるのに,被告人は自白していないため処罰を免れるという不均衡をもたらす。
(団藤裁判官補足意見)
共犯者の自白は本人の自白(憲法38条3項)に含まれるから補強証拠を要する。問題は,共犯者の自白が相互に補強証拠となるかであるが,なりうる。なぜなら,共犯者の自白は,格別の主体による別個・独立のもので,2人以上のものの自白が一致するときは,誤判の危険はうすらぐことになるからである。共犯者の自白が相互に補強証拠にならないというのは行き過ぎで,それは自由心証の問題として解決されるべきである。
<整理>
問題は2つ,①共犯者の自白は「本人の自白(憲法38条3項)」かどうか(+補強証拠の要否),本人の自白であるとして②共犯者2名の自白が相互に補強し合って,被告人の有罪を導くことができるか(共犯者の自白の補強証拠の適格性)。
多数意見は①本人の自白ではない(→補強証拠は不要(岸,岸上裁判官補足意見))とした。これに対して団藤は①本人の自白に含まれる(→補強証拠が必要),②できる,とする。
すなわち,
多数意見「共犯者の自白は本人の自白じゃないから,被告人を即有罪にできる」
団藤「共犯者の自白は本人の自白だから,補強証拠を要する。といっても,その補強証拠は他の共犯者の自白でよい。つまり,本件ではA(B)の自白がB(A)の自白を補強する」
→同じ結論。