伝聞法則

  • ●意義

伝聞証拠には証拠能力を認めないルール(刑事訴訟法320条1項,憲法37条2項)。
○伝聞証拠
  :反対尋問をしえない供述証拠
    ↑趣旨の反対
○非伝聞
  :一見伝聞証拠だが,要証事実との関係上伝聞証拠ではないもの

★「百聞は一見にしかず」最決昭59・12・21百選94
<事実>
新宿騒乱事件である1審の証人として出廷した警察官が,現行犯逮捕されたアマチュアカメラマンから得た写真,報道機関から任意提出された写真につき入手先等について職務上の秘密を理由に証言を拒絶。このため,これら証拠に対し伝聞法則適用が問題になった。弁護人らは写真は見るものによって異なった印象を生む可能性を否定できないから,撮影者に撮影の情況等を証言させることが必要,すなわち伝聞法則の適用を受ける供述証拠と見るべき,と主張。
<判断>
現場写真は非供述証拠に属し,当該写真自体またはその他の証拠により事件との関連性を認めうる限り証拠能力を具備する。
<整理>
昭和,全共闘,アナログ。

★「静止画キャプチャー」東京高判昭58・7・13百選95
<事実>
1審ではテレビニュース画面をキャプチャーした写真帳2冊が証拠採用された。これが主な控訴理由だが,控訴審では写し一般の許容性に言及した。
<判断>
写し一般を許容すべき基準としては,
1 原本の存在
2 忠実再現性
3 充分再現性(対立証事項)
が挙げられる。
4 原本の提出不可能・困難性
は必要ではない。けだし,それは,最良証拠の法則ないしは写し提出の必要性の問題であるにすぎないからである。

  • ♪趣旨

♪1 事実誤認回避
  ∵伝聞証拠は反対尋問で本当かどうかを確認できない
    「本当ですか」→書面に口なし
♪2 直接主義貫徹


  • 例外

・序
伝聞法則を全場面において適用していれば,真実発見(1条)に資さないばかりか,迅速な裁判という憲法上の要請(憲法37条1項)も裏切ることになる。320条1項も例外(321〜328条)を明定している。そこで,例外が認められるためには一般的に①伝聞証拠を用いざるを得ない必要性があり,②反対尋問をしなくてもいいほどの状況的信用性があることが必要とされる。そして,③伝聞法則の利益を当事者が放棄すれば,①②にかかわらず伝聞証拠に証拠能力を認めてよい(326条・327条参照)。


・裁判官面前調書(321条1項1号)
  必要性の要件のみ
    =供述不能∪相反性
  信用性の要件は必要なし
    ∵裁判官が反対尋問を行うだろう


・検察官面前調書(321条1項2号)
  いわゆる検面調書
  必要性の要件
    =供述不能∪(相反性∪実質的不一致)
  信用性(特信性)の要件
  1号書面よりは厳しく,3号書面よりは緩い
    ∵裁判官ほど公平な立場にはないが,一応法律の専門家
  ・「供述不能

☆平成13年
第 2 問
 傷害事件の公判において,次の各場合に,犯行を目撃した旨のAの検察官面前調書を証拠とすることができるか。
 1  Aは,公判期日に証人として出頭し,「はっきりとは覚えていない。」旨を繰り返すだけで,その外は何も述べなかった。
 2  Aに対し,証人として召喚状を発したが,Aは外国に行っており,帰国は1年後の見込みであることが判明した。

★「供述不能⊃供述拒否?」東京高判昭63・11・10百選88
<事実>
検察官は被告人Aと共謀したと思しきYの証人尋問を裁判所に請求。Yは刑務所内である尋問場所に出頭したものの,一貫黙秘。そこで検察官は検面調書の証拠調べを請求。裁判所はこれらを証拠採用し,A有罪。弁護人は,①供述不能とは供述者の意思にかかわらないことをいうのであって,Yの黙秘はこれに当たらない,②Yの検面調書は信用性の状況的保障を欠く,と主張。
<判断>
①刑訴法321条1項2号前段は証人として尋問することができない事由を例示したものであって,供述者の意思にかかわらないことに限定されない。供述拒否が立証者側の証人との通謀,あるいは証人に対する教唆等により作為的に行われたことを疑わせる事情がない以上,供述拒否⊃供述不能,である。
②検面調書には信用性の状況的保障は積極的要件とされないのは条文上明らか。

  ・「国外にいる」

★「国外にいる⊃退去強制?」最判平7・6・20百選89
<事実>
管理売春により摘発されたタイ人女性は,入管管理法違反により退去強制手続がとられたが,それ以前に行われた検面調書が321条1項2号書面として採用された。弁護人はこの証拠能力を争い上告。
<判断>
検面調書が321条1項2号の要件を満たした場合,即これにより証拠能力が与えられるとするのは,この規定が320条の例外をなすものであり,また憲法37条2項の趣旨もあることから,検面調書が作成・証拠請求に至った事情や,供述者が国外にいることになった事由の如何によっては,疑問の余地がある。
本件の場合,供述者らが国外にいることになった事由は行政目的による退去強制である。行政と同じ国家機関である検察官はこの状況を敢えて検面調書採用のために利用し,または行政がそれを手助けする場合も考えられる。このような場合には,手続的正義の観点から公平さを欠くと認められるときは,これを事実認定の証拠とすることが許容されないこともありうるが,本件ではそれらが認められないから,検面調書を事実認定の証拠とすることが許容されないものとはいえない。

  ・相反性∪実質的不一致
    =自己矛盾供述
    :立証事実との関係で,公判関連供述と検面調書の供述が相反するか,辻褄が合わないもの
  ・特信性
    =相対的特信情況
    :検面調書のほうが,公判関連供述よりも信用性がある


・その他供述書,供述採録書(321条1項3号)
  必要性の要件
    供述不能∩証拠の不可欠性
  信頼性の要件
    絶対的特信情況


・公判供述採録書,検証調書(321条2項)


・捜査機関の検証調書(321条3項)
  真正作成供述の要件

★「実況見分調書」最判昭35・9・8百選A32
刑訴321条3項の書面には実況見分調書も包含する。

?私人が作成したものではどうか
だめである。が,捜査機関に準ずる者が作成した調書はその専門性により肯定する余地がある。


・鑑定書(321条4項)

?捜査機関から鑑定の嘱託を受けた者の鑑定書にも準用できるか
できる。鑑定人の鑑定結果には,裁判所が嘱託しようと捜査機関が嘱託しようと違いは認められない。


・供述代用書面(322条)


・特信文書(323条)


・伝聞供述(324条)
  :伝聞証人による伝聞供述
  =「Aが『〜〜だった』といってました」
  ・再伝聞
    =「Bが『Aが【〜〜だった】といってました』といってました」

★「くちびるネットワーク」最判昭32・1・22百選93
<事実>
本件は,被告人I,被告人Yらほか4名が共謀のうえなした複数の訴因からなる事件である。1審は被告人Iの検面調書中の「私,Yらが実行することになっていたが,私は実行に参加しなかった,翌日の朝,Yから,Yら4人でV方へ火炎瓶を投げつけてきたという話を聞いた」という供述を証拠採用した。この証拠は,Y→I→検察官,と事実が伝わった再伝聞証拠である。被告人らは①「検察官に対する伝聞事項の供述について直接証拠能力を定めた規定がないから,320条により証拠能力がない」,②「伝聞部分に証拠能力を認めるのは,反対尋問権を保障した憲法37条2項に反する」と主張。これに対して控訴審は①「検面調書の伝聞でない部分は321条1項2号によって証拠能力が決せられるが,伝聞である部分は同条のほか324条が類推適用され,被準用条文によって証拠能力が決せられる」,②「証拠能力が認められた供述調書の一部分たる伝聞事項のみについて反対尋問をすることは実質的にほとんど無意味」などとして被告人の主張を退けたため,被告人上告。
<判断>
①原審の判断・理由は正当である。
②反対尋問権といっても,本件の場合反対尋問者はYであり,被反対尋問者もYであるから結局反対尋問権はない。Yはそれがなくても否定・弁明はできたのであって,これをすれば反対尋問と同一の効果をあげることができた。
<整理>
再伝聞は2つの伝聞が重なっているものであり,それらを分解して,独自に要件チェックをすれば,証拠能力が認められる。


・任意性の調査(325条)
  一応の情況チェック


・同意書面(326条)
  ・1項
    本条の同意とは反対尋問権の放棄である(最決昭26・5・25)
  ・2項
    =擬制同意


・合意書面(327条)


・証明力を争う証拠(328条)
  =弾劾証拠