被疑者の身体保全
■ 逮捕
- 通常逮捕(199条1項)
嫌疑の相当性と逮捕の必要性が必要(同条2項)。
取り調べ目的での逮捕は禁止。弾劾的操作観。
不出頭それ自体は逮捕の理由にはならないが,逮捕の必要性が推認される可能性はある。
- 現行犯逮捕(213条)
令状主義の例外。
・現行犯
・準現行犯(212条2項)
★「和光大事件」最決平8・1・29百選15
<事実>
和光大の内ゲバ事件で,犯行終了後1時間経過後の被告人を,警察官が追跡の後に準現行犯逮捕。中には髪がべっとり,血反吐を吐きながら逃走する犯人もいた。
<判断>
本件逮捕は,罪を行い終わってから間がないと明らかに認められるときにされたものということができる。
<メモ>
3〜4時間まではキャパか。もっとも,準現行犯自体が価値的な概念のため,犯行との時間的・場所的関係,犯人の挙動,所持品,犯罪の態様・結果,犯罪の軽重などを総合して,犯罪のぬくもりが残存していて,そこから犯罪と犯人の明白性が合理的に認定できるかという観点から判断。
- 緊急逮捕(210条)
令状主義の例外。
- 被疑者の防御
・逮捕理由と逮捕された場合における自己の嫌疑を知る権利
・準抗告
条文上は上がっていないし,判例も否定。
429条1項2号準用説もある。
? 問題点
- 逮捕前置主義(207条)
逮捕が先行しない勾留請求を許さないこと。
身体拘束について二重の司法審査を経させるため。
- ?A罪で逮捕したあと,B罪で勾留できるか。
- 逮捕前置主義の趣旨は身体拘束について二重の審査を経させ,人権保障を全うすることにある。この点,人を基準に考えると,この趣旨を軽視することになる。このため,事件を基準に逮捕・勾留の同一性を考えるべきことになるため,A罪で逮捕したあとB罪で勾留することはできない。
★「逮捕の違法と勾留」東京高判昭54・8・14百選16
<事実>
「違法なものといわざるを得ない」逮捕行為とそれに次ぐ勾留の適法性如何。
<判断>
被告人が警察官の停止合図を無視して逃走したことや,運転免許を持っていないことに加え,勾留請求の時機について違法な点はないことを考え合わせると,実質的逮捕の違法性の程度はそのあとになされた勾留を違法ならしめるほど重大なものではないと考えられる。
- ?違法逮捕に引き続く勾留請求は許されるか。
- 次の理由によりできない。①逮捕手続が違法であれば,逮捕ができずに釈放されているはずであり,そもそも勾留請求自体ができないはずである。②現行法は逮捕につき準抗告を認めていないので,勾留請求の許否を決する勾留裁判がその機能を果たすべきである。③もともと逮捕は被疑者を裁判官のもとに引致するための前手続的な意味を持つから,逮捕と勾留は一括して審査されるべきである。
- 事件単位原則
- 再逮捕・再勾留
一罪一逮捕一勾留の原則。
再逮捕・再勾留禁止の原則。
★「再逮捕・再勾留」東京地決昭47・4・4百選18
<事実>
被疑者は5件の爆発物取り締まり罰則違反被疑事件について1度逮捕・勾留され釈放された後,そのうち一件の被疑事実により再逮捕された。
<判断>
刑訴法199条3項が再逮捕の許される場合があることにかんがみれば,再勾留も許していると解するのが相当。
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- 別件逮捕・勾留
- ?別件逮捕・勾留は適法か。
- 適法ではない。なぜなら,①逮捕の目的が別罪の取調べにある場合には,実質的に令状主義に反し,②身体拘束に関する法定の期間制限も潜脱する結果となる。
- ?いかなる基準で違法な別件逮捕・勾留を判断するか。
- 取り調べ目的は主観であり,客観的事情から推知するほかない。よって,その後の余罪取り調べの違法性の程度が甚だしいとき,つまり,別件での逮捕・勾留が実質的に本件の逮捕・勾留と同視しうべき場合であり,証拠の整わない本件の取調べを目的としている場合は,当初から違法目的の別件逮捕・勾留であると認められる。具体的には,本件についての捜査状況は,別件についての逮捕・交流の必要性の程度,別件と本件との関連性・軽重の差,身体拘束後の取り調べ状況などの要素を総合判断して決すべきである。