証拠法

● 意義

証拠・証明に関する法規の体系。
証拠
   :要証事実の存否につき,裁判官が判断を下す際の根拠資料。
   (要証)事実認定は,証拠による必要がある(317条)。
      ×例外 →不要証事実
         ・公知の事実
         ・法律上推定された事実
      事実認定
         →裁判官が自由な心証によって行う
            (自由心証主義(⇔法定証拠主義)=318条)。
            ↑厳格な証明
               法定の証拠調べ手続による証明。
            ↑自由な証明
               法廷の証拠調べ手続によらない証明。

?区別を如何に行うのか
317条が「事実の認定は,証拠による」と規定し,「事実」の限定をなんら行っていないことにかんがみると,すべての事実について厳格な証明をすることが望まれそうではある。しかし,そうしてしまうと,証拠収集の困難さから,真実発見(1条)の要請に応えることができないし,迅速な裁判(憲法37条1項)の要請にもまた,応えることができない。ゆえに,事実とは,公判の中心的課題である刑罰権の存否・範囲に直接的に関係する事実であると解する(通説同旨)。
?被告人が立証しなければならない事実についても,厳格な証明が必要なのか
必要である。当事者主義・当事者対等原則からすれば,被告人を優位に扱う必要はないし,321条1項3号も「存否」とし,「存」としていない。
?情状についてはどうなる
犯罪事実に関する情状(=犯情)は刑罰権の存否・範囲に関することだから,厳格な証明が必要である。これに対し,被害者に対してなした賠償だとか,謝罪感情など,狭義の情状については,刑罰権の存否・範囲からは独立した事柄であり,自由な証明で足りるとすべきだろう。
?訴訟上の事実はどうか
この事実は,基本的には刑罰権の存否・範囲に関する事柄ではないから,自由な証明でよしとすべきであろう。しかし,たとえば自白の任意性を基礎付ける事実などは,訴訟法的事実とは雖も,実質的には刑罰権の存否にかかわる重要な事柄である。したがって,事案ごとに決するほかないだろう。

   →証拠能力
      :公判廷で証拠調べをすることができる適格。
      ・自白法則
      ・伝聞法則
      ・違法収集証拠排除法則
   →証明力
      :証拠が裁判官の心を動かす力。
      →補強証拠:証拠の証明力を増強する証拠。
   ・直接証拠
   ・間接証拠
証明
   :合理的な疑いをさしはさむ余地がないほど真実らしい,と裁判官が確信を得た状態。
   ≠疎明:一応確からしい,という推測を裁判官が得た状態。


■ 自由心証主義と状況証拠による事実認定

最判昭48・12・13
原判決破棄。被告人は無罪。
裁判の事実認定は,相対的な歴史的事実を探求する作業だから,「犯罪の証明がある」とは「高度の蓋然性がある」ということである。が,「蓋然性」は(それ自体では)反対事実の存在の可能性を否定するものではないから,誤判に陥る危険性がある。したがって,この「高度の蓋然性」とは,反対事実の存在の可能性を許さないほどの確実性を志向した上での「犯罪の証明は充分」であるという確信的な判断に基づくものでなければならない。この理は,状況証拠による間接事実から推認して,犯罪事実を認定する場合においては,一層強調されなければならない。
本件の証拠関係に即して見ると・・・犯罪事実と被告人との結びつきは,いまだ充分であるとすることができない。

★「謎の死」札幌高判平14・3・19百選68
<事実>
昭和62年,被告人の嫁ぎ先で火事があり,焼失を免れた離れから子どもの人骨が発見された。警察は,この人骨を昭和59年に行方不明になったBのものであるとの見方を強め,被告人から事情聴取をしたが,起訴にはいたらず。そして,平成10年にDNA鑑定が行われ,殺人罪の時効完成の2か月前の同年12月7日に起訴された。
公訴事実:「被告人は,昭和59年1月10日,札幌市豊平区の甲野荘2階1号室の当時の被告人方において,Bに対し,殺意を持って,不詳の方法により,Bを殺害した」
<原審>
被告人は無罪。
(状況証拠があり,被告人がBの死につながる行為に及んだものと認定できるが)被告人が殺意を持ってBを死亡させたと認定するには,なお合理的な疑いが残るというべきである。
<判断>
控訴棄却。
状況証拠によれば,被告人をBを重大な犯罪によって死亡させたことは疑われるが,殺意をもって死亡させてことまでは推認できないように思える。・・・・・・事実は多義的に解釈できるのであり,被告人の殺意を推認できない。
<整理>
Bの死因は病死・事故死なども考えられる。であれば,被告人はその旨を主張すればよい,黙秘してたのだからそれ自体が殺意を認める状況証拠である,との検察官の主張を,被告人に黙秘権が与えられている主旨を没却する,として裁判所は退けた。