自白法則

  • ●意義

任意性のない自白の証拠能力を制限するルール。
自己の犯罪事実を認める被告人の供述を自白という。
有罪であることを認めることを自認という。
自己に不利益な事実を認めることを承認という。


  • 自白の証拠能力

・根拠
  刑事訴訟法319条1項
  憲法38条2項


・具体例

★「不当に長い拘禁109日」最大判昭23・7・19百選A25
<事実>
被告人は近所で発生した窃盗事件につき勾留され取調を受けた。そして,控訴審の第1回公判期日の被告人尋問の際初めて犯行を自白。控訴審の審理終了後釈放されたが,拘禁から109日が経過していた。
<判断>
本件犯罪は単純な窃盗事件である。証拠隠滅の恐れも,逃亡のおそれもない。ほかに特段の事情のうかがわれないのに,これほど長く拘禁する必要はどこにもない。本件拘禁は不当に長い拘禁である。
<整理>
期間の長短のみではなく,事案ごとに存在する客観的事情と,被告人の主観的事情とを勘案。

★「手錠をかけたまま取り調べ」最判昭38・9・13百選A26
<判断>
手錠をかけたままの取調べの供述の任意性については,一応の疑いをさしはさむべきである。しかし,検察官は証拠に基づき,穏やかに取調べを進めたのだから,任意である。
<整理>
手錠をかけたままの取調べというだけで,任意性に一応の疑いをさしはさむべきとした点で意義がある判決。地の段階で灰色。

★「約束自白とその余の証拠」最判昭41・7・1百選78
<事実>
被告人Aの弁護人は,担当検事との会談の際このような言を得た。
「改悛の情を示せば,起訴猶予充分考えられると思っている
このため,弁護人はAに自供を勧試。
「改悛の情を示せば,起訴猶予にしてやるといっている
が,弁護人と検事が認識・前提していた事実より,Aの犯行態様は重いものだった。結局,Aは犯行を自白し,有罪。A側は「検察官の不起訴処分に付する旨の約束に基づく自白は任意になされたものでない疑いのある自白である(福岡高判昭29・3・10)」違反を理由に上告。
<判断>
約束自白は証拠能力を欠く。しかし,本件は供述証拠を除外しても,第1審判決の挙示するその余の各証拠によって,同判決の判示する犯罪事実を有に認定することができる。
<整理>
最近は利益誘導約束というのが流行。本件では,正確には約束しているわけではない(弁護人が誇張している)。約束自白が排除されるとして,弁護人がこのような誇張を行えば,約束自白排除法則の悪用にもなりうる。

★「偽計による自白」東京地判昭62・12・16百選79
<事実>
警察官は本件の犯人と疑った被告人を別件逮捕し,警察犬による臭気検査の結果をあたかも犯人は被告人であるかのごとく被告人に伝えた。これに被告人は抵抗の気力を失い,これ以降,警察官の言いなりになった。
<判断>
被告人は無罪(自白以外の鑑定結果による)。
偽計による自白はその任意性を肯定できないし,本件では苛烈な取り調べ方法が行われていた。
<整理>
判例は実質考慮→形式判断へ。

★「ベテラン犯人×ベテラン捜査官」浦和地判平3・3・25百選80
<事実>
被告人は覚せい剤を譲り受けたとして逮捕されている者である。もともと被告人は過去2度,本件同様の覚せい剤事犯で起訴されているが,どちらも執行猶予判決。捜査官は今度こそは実刑に持ち込んでやると思っている。そのため,取り調べは厳しいものだった。黙秘権は告知せず,否認したのに調書に署名指印,「お母さんをこっちまで呼んで調書を取る」など。他方,被告人逮捕の経緯は他の被告人を逮捕する際のもので,狙い撃ちの疑いが濃い。このような状況の中で,黙秘権の不告知と自白の任意性が問題となった。
<判断>
黙秘権を告知しなかったからといって,自白の任意性が即否定されるわけではないが,黙秘権を無視するような取調べが許されないことも当然である。刑訴法は,取り調べによる心理的圧迫から被疑者を解放するとともに,取調官に対しても,これによって,取調が行き過ぎにならないよう自省・自戒させるため,黙秘権告知を取調官に義務付けたのであって,告知が取り調べの機会毎に必要とされるのはそのためである。
本件では,被告人が刑事裁判を受けた経験があるから黙秘権の存在を知っていたと認められるが,任意性判断には重大な影響を及ぼす。

★「接見指定と自白」最決平1・1・23百選82
<事実>
被告人は余罪事実について取調を受けていたが,弁護人との接見のあと自白した。その接見のあとにも別の弁護人が接見を求めていたが,接見指定のため夜遅いものになった。この自白の任意性が争点。1審は弁護権が実質的に侵害されたとはいえないとし,原審も任意性を肯定。
<判断>
自白は弁護人が接見した直後になされたもので,それ以前にも4人の弁護人が接見していた。自白の任意性に疑いがないとした原判断は相当。

★「不任意自白で得られた証拠物」大阪高判昭52・6・28百選83
<判断>
「不任意自白なかりせば派生的第2次証拠なかりし」という条件的関係がありさえすればその証拠は排除されるという考え方は広きにすぎるのであって,自白採取の違法が当該自白を証拠排除させるだけでなく,派生的第2次証拠をも証拠排除へ導くほどの重大なものか否かが問われねばならない。
不任意自白という毒樹をソースとして得られた派生的第2次証拠に証拠の排除効が及ぶ場合にあっても,その後,これとは別個に任意自白という適法なソースと右派生的第2次証拠との間に新たなパイプが通じた場合には右派生的第2次証拠は犯罪事実認定の証拠としうる状態を回復するに至る。

  • 自白の補強法則

・●意義
  自白で被告人を有罪にするためには,補強証拠が必要であるとするルール(319条2項,憲法38条3項)。
    =自白の証明力制限=自由心証主義の唯一の例外

憲法38条3項の自白は公判廷における自白を含むか
含む。319条2項は憲法の趣旨を具現化したものである。したがって,公判廷における自白だけで有罪認定をすれば憲法違反となるから,405条1項の上告理由となる。判例は「自由な状態において供述される」ことを理由とし,反対に解するが,検察官の心理的圧迫感は被告人において完全に排除しえるものではないから,妥当ではない。


・♪趣旨
♪1 誤判防止
  ∵虚偽自白の可能性
♪2 自白強要防止
  ∵(自白のみで有罪認定できるとすれば)自白が重大視される


・範囲

?いかなる範囲で補強証拠が必要か
自白以外の証拠によって,犯罪事実が証明されることが必要である。補強法則は誤判防止と自白強要防止が目的だが,単に自白の真実性を裏付ける補強証拠のみで足りるとすると,結局自白が「主たる」証拠となり,「唯一の」とした法文を潜脱することになる。

★「いかなる範囲で補強証拠が必要か」最判昭42・12・21百選85
<事実>
被告人は無免許運転で人身事故を起こし,有罪。が,無免許運転罪に関する自白に補強証拠が足りないことを理由に控訴。原審は「補強証拠を必要とするのは犯罪の客観的側面についてその真実性を保障するためのものであり,主観的側面については必要でない」として「無免許」であることについては自白だけでよいとした。最高裁は被告人が公判廷で自白していることから,憲法38条3項違反を認めず,上告を棄却しながらも,この解釈を誤りとした。
<判断>
無免許運転の罪においては,運転免許を受けていなかったという事実についても補強証拠を要する。ただ,職場の同僚の供述が補強証拠となるから,刑訴法319条2項違反は判決に影響を及ぼさない。


・(補強証拠)能力
  1 一般的証拠能力の存在
  2 自白からの独立

★「備忘録は補強証拠か」最決昭32・11・2百選A28
<判断>
備忘録は嫌疑をうける前からその都度記入したもので,その記載内容は被告人の自白と目すべきでない。


・(補強証拠)証明力

?どの程度補強証拠が証明力を有すればよいか
補強証拠が自白から独立して尚心証を抱かせる程度の証明力が必要である。そうでなければ自白偏重による誤判防止の趣旨を貫徹することができない。