債権譲渡

● 意義

債権の同一性を保持しながら,債権を移転することを目的とする契約(民法3編1章4節=466〜473条)。
指名債権
   :債権者の特定している債権

  • ♪趣旨

債権流動化
   →回収・・・早く現金がほしいなあ
   →取立・・・怖い人にお願いしよう
   →弁済・・・債権で弁済しよう
   →担保・・・債権を担保にしよう
http://www.mizuho-factor.co.jp/gyou-saikenryuudouka.htm
http://www.ufjbank.co.jp/houjin/choutatsu/ryuudouka/
http://www.smbc.co.jp/hojin/financing/liquidation.html

債権はなぜ譲渡できる? 昔,債権はパーソナリティーが重視されるものだと考えられていたため,債権は譲渡できなかった。が,最近になると,その禁止も解かれ(466条1項),さらには推進すらされている。債権といえども,結局,財産の一種であり,債権の額だけでなく,質・内容によって必要とされる場面も変わるからである。その,必要とされる場面に対応するのが,債権の流動化である。

▲ 要件

△諾成
   処分行為=準物権契約
      諾成の瞬間に効力が生じる
         →「履行」の問題が残らない
   原因たる債権関係とは有因


■ 譲渡性

  • ◎原則

自由に譲渡できる(446条1項本)
将来債権もできる
   ex.診療報酬

★「将来債権の譲渡」最判平11・1・29百選Ⅱ28
<判断>
将来発生すべき債権を目的とする債権譲渡契約にあっては、契約当事者は、譲渡の目的とされる債権の発生の基礎を成す事情をしんしゃくし、右事情の下における債権発生の可能性の程度を考慮した上、右債権が見込みどおり発生しなかった場合に譲受人に生ずる不利益については譲渡人の契約上の責任の追及により清算することとして、契約を締結するものと見るべきであるから、右契約の締結時において右債権発生の可能性が低かったことは、右契約の効力を当然に左右するものではないと解するのが相当である。
<整理>
債権発生の客観的な可能性・確実性が,将来債権譲渡契約の有効性の主たる指針たるものではなく,当事者が,その可能性・確実性を有効に認識している(リスクを織り込んでいる)のであれば,将来債権譲渡契約は有効である(主観重視)。客観的事情は,例外的に考慮される(「特段の事情」「公序良俗」)。

  • ×例外

譲渡制限がある
× 性質による制限(466条1項但)
   ex.徹子の部屋タモリさんを出演させることができる債権
× 法律による制限
   ex.扶養請求権(881条)
      ∵一身専属権
× 特約による制限(466条2項本)
   →債務者の便宜のため
      善意の第三者には対抗できない(466条2項但)

?2項本文の「適用しない」とはどういう意味か
「当事者が反対の意思を表示した場合」には,債権の自由譲渡性が奪われるという意味である。つまり,債権そのものが自由譲渡性のない“物”に変化するため,誰に対しても譲渡禁止効を主張することができる(物権的効力)。それにもかかわらずなされた譲渡は無効である。
?それでは但書に矛盾する
取引の安全のために,善意の第三者に対しては対抗できない。
?過失のある第三者ではどうなる
過失のある第三者には,対抗することができる。それは,第三者と債務者の帰責性を比較すれば,過失のある第三者は債務者よりも帰責性が強く,そのようなものは債務者との関係において保護されるべきではないからである。したがって,466条2項但書の善意の第三者は,善意無過失の第三者を意味する。

★「無知は○○」最判昭48・7・19百選Ⅱ27
<事実>
AはY銀行に対して有する預金債権をXに譲渡。その通知がなされた数日後,Y銀行は取得した根質権を預金債権に対して実行した。
争点は,466条2項の「善意の第三者」にXが当たるかどうか。それは,預金債権が譲渡禁止なのは常識である,という理由による。
<判断>
常識である。
預金債権が譲渡禁止なのは明示の特約があり,また,性質上黙示の特約があるものと広く知られている。
民法466条2項は文言上,過失の有無を問わないかのようであるが,重大な過失は悪意と同様に取り扱うべきである。
<整理>
悪意⊃重過失。知っていること⊃知られていること。

?では,これらにもかかわらず譲渡された場合,債務者は追認をなしうるか
なしうる。譲渡禁止特約は債務者の便宜のためのものであるから,債務者が承諾すれば問題なく譲渡できる。
?しかし,無効であったはずの譲渡が有効になると解した場合,適用できる規定がない
譲渡禁止特約のある債権の譲渡は,無権代理人による処分行為と類似するから,116条の類推適用により,譲渡の効果は遡及的に有効になる。

★「譲渡禁止特約のある債権に対する転付命令の効力」最判昭45・4・10
<結論>
有効。466条2項適用なし。
<理由>
466条2項は「譲渡の禁止」についての規定であり,譲渡以外の債権移転には適用・類推適用する合理的理由がない。
②仮に譲渡禁止特約が差押禁止効を有するとすれば,私人が一般財産の中に差押禁止債権を自由に作りうることになり,一般債権者を害することになる。

★「あとからいいって言うなんて」最判平9・6・5百選Ⅱ29
<事実>
XはAがBに対して有する債権の譲渡を受けた。が,その債権には譲渡禁止特約がついていることが判明,事実認定の段階で,Xにはこの特約の存在につき,悪意・重過失があることとなった。他方,Y=国はこの債権を滞納処分により差押え,Xの譲渡通知がBに対して到着した翌日に,Bに差押えを通知した。ごちゃごちゃした関係に巻き込まれたBは,供託をし,その際,AからXへの債権譲渡を事後承諾した。XとYの勝負如何。
<判断>
Yの勝ち。
債権譲渡の事後承諾は,さかのぼって有効となる(民法116条の法意)ものの,第三者の権利は害することができない(最判昭48・7・19)。
本件の場合,Xには悪意・重過失があったから譲渡の段階では債権を取得してはいないし,事後承諾により有効になるとしても,Yに対してはこれを主張できない。

▲ 対債務者対抗要件

譲渡人から債務者に対する通知or債務者の承諾(467条1項)
   ・通知
      「譲渡しました」
      譲渡人がすることに真実性がある
         →譲受人はできない
         →譲受人が譲渡人に代位することもできない
   ・承諾
      「わかりました」←異議をとどめなくていいのか?Σ(・□・ )
      譲受人・譲渡人どちらにもできる
      事前承諾=OK


▲ 対第三者対抗要件

=二重譲渡の問題
確定日付のある証書による債務者への通知or債務者の承諾(467条1項2項)

Q.1項2項の関係は
A.1項は対債務者・対第三者に共通する規定で,2項は対第三者のみにおいては,特に,確定日付のある証書が必要であるということ。→2項は1項の特則。
Q.どうして確定日付が必要なのか
A.たとえば,譲渡人がAに債権を譲渡したとする。ところが,気が変わって,Bに譲渡をしたくなった。しかし,もう債務者にAへ譲渡した旨を通知してしまっている。そんな時,債務者に対して,さらにBへ債権を譲渡をした旨の通知をしてからこう言う。「Aへの譲渡通知,あとから届いたっていうことにして」と。これではAが不当に害されてしまうことになる。だから,このような場合に,内容証明によって“譲渡人が先に譲渡したのはどちらか”が客観的に(郵便局によって)証明されることになる。もっとも,現実には確定日付ある通知がかち合った場合に,どちらが優先されるのかとなれば,先に到着したほうではある。しかし,譲渡人と債務者が通謀して,Aの通知があとから到着したことにしたとしても,「確定日付」より前の日時には,遡らせることができない。この側面において,確定日付が(可及的に)有効に作用する。

   単なる通知 vs 確定日付ある通知
      =確定日付ある通知の勝ち
   単なる通知 vs 単なる通知
      =通知が先に到着したほうの勝ち
   確定日付ある通知 vs 確定日付ある通知
      =通知が先に到着したほうの勝ち

?確定日付の先後ではないのか
通常,債権譲受人は,譲渡人が本当に債権を有しているかを債務者に確認するため,債務者が譲渡人を債権者だと認識していれば,譲受人としては安心して債権を譲り受けることができる。これこそが,467条1項の通知・承諾が,債務者のみならず,第三者においても対抗要件となる趣旨である。そうすれば,債務者の認識こそが,対抗要件の問題においては最重要視されるべきで,その認識に直接関連するのが通知の到着であるため,到着の先後で優劣を決する。仮に,確定日付の先後で優劣を決するとすれば,確定日付ある通知が到着したあと,さらに日付の早い確定日付ある通知が到着する可能性があり,債務者の混乱を招くため,妥当ではない。
?では,確定日付ある通知が同時に債務者に到着した場合はどうか
譲受人相互の関係では,両者同様の対抗要件を具備していることになるから,同等の立場になり,自己が優越していると主張することはできない。
?「通知は同時かもしれないが,先に譲渡人から譲り受けたのは俺だ」と主張することもできないのか
できない。譲渡通知以外の事情により,優劣が決することがあれば,債務者の混乱を招く。
?だとすれば,譲受人は債務者に全額請求できるのか。それとも分割請求しかできないのか
全額請求できる。何の非もない債務者に対し,煩雑な分割弁済を要求するのは酷であるし,各譲渡人は一応法定の対抗要件を具備しているのだから,法定の全額の請求をすることができる。
?全額が弁済されれば,他の譲渡人の債権はどうなる
消滅する。債務者の二重払いの危険を防止しなければならないからである。
?それでは同等の立場にある譲渡人同士に不平等が生じる
不平等ではない。先に弁済を請求した者に,利益が帰するのは結果として平等である。
?しかし,公平の見地から先に弁済を得た譲受人に対する,他の譲渡人からの分割請求は認められるべきである
認められるべきではない(判例同旨ではない)。仮に認められるとすると,先んじて弁済の請求をし,受領をした譲受人の労を無に帰せしめる結果となり,かえって公平ではない(早い者勝ち説)。

   確定日付ある通知 vs 確定日付ある通知・・・@どちらが先に到着したかわからない
      =478条の問題
      債務者としては,供託すべき(494条)

?このような供託の場合でも,早い者勝ち説によれば分割請求は許されないか
このような場合は許される。供託により,再び両譲受人は対等の立場に立ったため,同等の立場による請求である,分割請求が認められなければならない。

■ 抗弁の承継(468条2項)

債務者が債権者に対して有する抗弁は承継されるのが原則
   ∵債務者は一方的な通知により不利な立場におかれるべきではない
×例外
   善意者保護規定と競合したとき


■ 抗弁の切断(468条1項)

異議を留めない承諾の場合には,抗弁が切断される
   →譲受人の取引安全

?債務を弁済しているのに,異議を留めない承諾をすればどうなる
債務は復活する。そうでなければ譲受人の安全に資さない。
?保証債務はどうなるのか
主債務者が異議を留めない承諾をすれば,保証債務も復活すると考えることができるだろう。ただし,主債務者の不注意が,保証人にまで影響するのは酷でもある。判例のように生じさせないと考えるべきであるかもしれない。