「振込用紙と受取証書の兼用(消極)」最判平16・2・20

  • 事実

本判決では貸金業規正法43条1項の解釈が問題となった。
Y(被上告人)は貸金業規正法3条の登録業者で,A株式会社はYからX(上告人=A株式会社の代表取締役)を連帯保証人として計400万円を月7パーセントの利息で借り受けた。本件貸付の仕組みは,貸付日から2か月後を元金一括返済日とし,もしそれが不可能であっても翌月分の利息を支払えば弁済日が1か月延長されるというもので,この利息の支払はY指定の振込用紙でなされることとなっていた。そして,この振込用紙は43条1項が指定する18条1項の書面(受取証書)を兼ねたものであった。はたして,この振込用紙と受取証書の兼用は許されるのか。
原審はこれを有効と解した。なぜなら,振込用紙と受取証書が一体となっているものであっても,振込みが完了した時点で有効な受取証書となるのであり,さらに18条の書面を交付しなくてもいいからである。しかし,最高裁はこの判断を是認しなかった。その理由は以下のとおりである。


  • ★判断

貸金業規正法の目的(1条)と罰則の存在に鑑みれば,43条1項の要件は厳格に解釈すべきである。そして,18条1項の書面は,払い込みのあとその都度・直ちに交付すべきである(振込みの場合も同様(最判平11・1・21))から,特段の事情のない本件のような場合,振込用紙は18条1項の書面としての要件を満たさない。


  • _〆研究

1 貸金業規正法は貸金業務の適正な運営と資金需要者の保護を目的とするもので,貸金業者に規制を加えている。そのうちの1つが,本件で問題となった受取証書の交付義務である。この受取証書を交付することにより,利息制限法に規定された制限利息以上の利息を有効に受領することが可能となり(ただし,出資法),当然には元本には充当されない(みなし弁済)こととなった。もっとも,その要件は△①契約締結時に17条の書面を直ちに交付し,△②返済(支払い)時に18条の書面をその都度・直ちに交付し,△③債務者が利息を任意に支払うこと,であり,これらを満たすのは非常に困難である。貸金業者としては,当然多くの利息を得たいと考えるため,この要件の潜脱を企図することはむべなることではある。そこで考え出されたのが,本件の「振込用紙と受取証書の兼用」であろう。筆者は実物を見たわけではないが,おそらく住民税(及び各種公共料金)の振込用紙のように,振込用紙と受取証書が切り取り式になっているものであると思われる。そうすると,この“紙片”はテレホンカードほどの大きさであり,18条1項所定の事項を記入するにはかなりフォントのポイントが落とされているはずである。これをレシートとして扱うならまだしも,重大な結果を招来する受取証書として扱うのは確かに困難であろう。
2 よくわからなくなってきたので,まず法律及び判例の変遷を確認しよう。
(1) 従来,法定利息ではない約定利息には制限がなく,当事者が自由に決定することができた。しかし,これでは債務者が困難を極めるから昭和29年に「利息制限法」が制定され,制限利息を設けた(1条1項)。ただし,債務者が任意に支払ったのであればそれを保護する必要もないと考えられたため,任意の支払いについては「返還を請求」できないものとした(1条2項)。もっとも,①返還請求ができないとしても,利息・損害金の超過部分の支払は民法491条により元本に充当され(最大判昭39・11・18。充足を否定した最大判昭37・6・13を変更),②元本に充当されたことを知らないで支払ったものについては返還請求ができ(最大判昭43・11・13百選56)*1,これとの均衡のために③元本と利息の一括返済の場合でも同様(最判昭44・11・25)であるという判例理論が確立されている(継続的貸付の場合でも,過払い金は他の借入金に充当される(最判平15・7・18))。
(2) そして,昭和58年の「貸金業規正法」及び「出資法」改正により,利息に関する問題は第2フェーズに入る。すなわち,貸金業規正法43条1項が利息制限法の特則として設けられたことである(「グレーゾーンの金利」=利息制限法以上出資法未満=年15・18・20〜29.2パーセントまで)。これが,本件の問題に係ってくる。最高裁は43条1項のグレーゾーンの要件の解釈に際し,貸金業規正法の目的等を考慮し,厳しい判断で臨んだ。この点に関する学説の対立は多いが(百選57(最判平11・1・21)参照),法文の解釈だけではなく,趣旨及び立法事実の参酌は不可避であると思われる*2
(3) その立法事実とは,たとえば本件のような商工ローン問題であり,またこの問題を引き起こす銀行の不良債権問題,超低金利政策など,借り手にとって借りるところがどこにもないという状況の存在である。そのような中で,サラ金業者が跋扈し,収益を政治献金にまわし,法律を改正させ,自己の地位を不動のものにしようとする。貸金業規正法43条1項の立法趣旨は,優良業者(大手業者)の地位の安定であるといわれている(百選57)。そうすると,立法府による消費者保護はこの点で限界に達しており,司法判断で救済せざるを得ないのであろう。
もっとも,「適法な」優良業者の保護ばかりが目的とされたため,「違法な」中小業者の暴利行為が頻発する事態になっていることも無視できない。「30パーセントでつかまるんだったら,3000パーセントでもいいじゃないか」というわけである。

*1:非債弁済の問題点につき百選で述べられている

*2:本条の「任意に支払った」の解釈につき最判平2・1・22