契約解除
● 意義
契約の有効成立後,一方当事者の意思表示のみによって,契約関係を遡及的に消滅させること(民法3編2章1節3款)。
解除することができる権利が解除権であり,約定解除権と法定解除権がある。
将来に向かって契約関係を解消するのは解約。
当事者双方の意思表示による場合は,合意解除。
合意解除は当事者の合意によってなされる。つまり中身は契約であるから,名は解除でも解除に関する規定の適用はすべきではない。したがって,解除の効果として原状回復義務は発生せず,不当利得返還請求権が発生する結果,金銭の返還に利息を付する必要はない。 これに対して約定解除は,事前に約定がなされてはいるが事後に一方当事者の意思表示で契約が解除されるものだから,解除に関する規定の適用がある。しかし,もともと織り込み済みの解除なのであるから,損害賠償の請求はできないとすべきだろう。
▲ 要件
- 履行遅滞(541条)
△1:履行が可能
可能であるにもかかわらず履行しない
不能なら・・→履行不能へ
△2:履行期を徒過
- ?履行期に定めがない場合,412条3項の催告をした後でなければ履行期を徒過したとはいえないのか。
- それでは硬直的過ぎるし,また債権者が手間取ることになる。1回目の催告において相当の期間を定めた催告をして,その期間を徒過した場合は2回目の催告(541条)がなされたと見ることが相当である。
- ?部分的に履行期を徒過した場合はどうなるか。
- 当該部分の徒過が契約全体の価値を失わせるものであれば,契約全体の解除もできるだろう。しかし,部分的給付が部分的にせよ有意義であれば契約全体の解除を認めるのは信義則に反することになる。
- ?部分ではなく,付随的な債務が履行期を徒過したらどうか。
- 付随的債務はあくまで債務のオプションであり,それが履行されなかったからといって解除は許されないが,実質的に要素的債務である場合には例外的に解除も許される。
★「スポーツクラブ付きリゾートマンション」最判平8・11・12百選Ⅱ45
<事実>
バブルの名残も覚めやらない平成3年,XはY社からリゾートマンションの1区画を購入し,さらに同じところにあるスポーツクラブの会員権も購入。ところで,このマンションの広告には「倶楽部会員権付」との見出しがあるなど,スポーツクラブとの一体感を謳い,後々屋内プールも建設される予定であった。しかし,屋内プールは結局着工されなかったため,Xはマンションとスポーツクラブ会員権の契約を解除。
<判断>
屋内プールの完成は付随的債務ではなく要素の債務であり,またマンションとスポーツクラブの会員の地位は密接に関連している。このように,同一当事者間の債権債務関係が形式的には複数ある場合であっても,それらが密接に関連付けられていて,社会通念上,いずれかが履行されるだけでは契約を締結した目的が全体としては達成されないと認められる場合には,いずれかの債務の不履行を理由に,他方の契約を解除できる。
<整理>
2つの契約を1つの混合契約,あるいは複合契約と見ることもまあ可能。
△3:債務者の帰責事由
∵415条と同じ性質
△4:履行しない違法
同時履行の抗弁権などがあるかも
△5:催告
**までに++を履行すべし
☆不明瞭な場合は信義則上問い合わせるべし(大判大14・12・3)
相当な期間=客観的に相当な期間
- ?債権者が指定した期間が相当でない場合はどうなる。
- 相当でない場合を無効としてしまうと,債権者は相当な期間を算定するのに相当苦労することになる。したがって,一応催告を有効とした上で,解除の意思表示をするまでに客観的に相当な期間を経過したときには,解除権が発生するものとすればよい。
定期行為にはいらない(542条)
無催告解除の特約があればいらない
- ?債務者の履行が期限の前から明らかに期待できないときも催告をする必要があるか。
- 不要である。古い判例には債務者の翻意して履行する可能性のために必要とするものもあるが,債権者が債務者の気まぐれに付き合う必要はない。
信頼関係破壊の法理 賃貸借契約のような継続的債権関係についても541条の適用はあるが,契約当事者の信頼関係が重要視される契約の場合,541条の催告は不要と解される(判例)。
△6:催告期間内に履行がされない
・債務者の同時履行の抗弁権
期限に債権者が履行の提供をした
→消滅
期限に債権者が履行の提供をしなかった
→催告のときに履行の提供をすればよし
- ?債務者に履行の意思がまったくない場合でも履行の提供をする必要があるか。
- 不要である。この場合に履行の提供をしても意味がない。
- ?では一部しか履行の意思がない場合はどうか。
- このような場合はその一部に見合った履行の提供をすればよいことになる。
- 履行不能(543条)
△1:履行期に履行することが不能
後発的不能に限る
取引通念上不能か否かで決する
☆購入予定不動産のほかへの売却完了(最判昭35・4・21)
一部不能であれば一部履行遅滞と同様に考える
△2:債務者の帰責事由
- 不完全履行(学説)
- 受領遅滞
受領遅滞を債務不履行と理解すれば,受領遅滞に基づく解除も可能。
◆ 効果
◇解除権発生(545条)
解除することができる
解除しないこともできる
契約当事者しかできない
不可分性がある(544条)
もっとも252条
解除権の失効 解除権が発生した場合でも,これを行使する義務はないから,債権者はいつまでも解除権行使を留保し続けられる・・・とすると,相手方の「解除権は行使されないだろうな〜」という信頼を裏切る場合もまま考えられる。解除権も,信義則上行使できなくなる場合もある(判例)。 また,一般債権としての消滅時効(167条1項)の適用もあると考えられる。
※相手方の催告による消滅(547条)
※解除権者の過失行為による消滅(548条)
◆ 解除の効果
◇契約の遡及的失効
→復帰的物権変動
・第三者の権利は害することができない(545条1項但書)
∵取引の安全 → 第三者は対抗要件が必要
◇原状回復義務(545条1項本文)
不当利得より広い
∵契約の有償双務性
同時履行の関係に立つ(546条)
現物が存在すればそれを返還する
- ?特定物が返還しないうちに滅失・毀損した場合はどうなる。
- 原状回復は契約関係の巻き戻しをその趣旨とするものだから,当事者の契約の趣旨を返還の場合にも及ぼすのが公平であろう。原契約において,危険負担について特約がなければ債権者主義(534条1項)を修正的に適用するのも手だろう。
無形物であれば金銭に評価して返還する
金銭には利息を付して返還する(同条2項)
果実・使用収益も返還する
∵545条2項との均衡
- ?保証人は原状回復義務についても保証するのか。
- 一般に保証人のする保証は契約そのものに関する保証だから,原状回復義務については負わないと解すべきだろう。しかし,保証の趣旨が契約当事者そのものを保証するものである場合などには,原状回復義務についても保証する意思があると見ることもできる。
◇損害賠償請求を妨げない(545条3項)
→416条