賃金
● 意義
労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのもの(11条・労働基本法3章)。
第11条 この法律で賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう。
⊃☆ボーナス・退職金(最判昭48・5・28)
⊃任意的恩恵的給付:結婚祝金・入院見舞金(条件の明定+支払い義務)
ポケットマネー 結婚祝い金などは,一般的に使用者の任意で支払われ,一般的に就業規則に支払いが定められているわけではないから賃金とはいえない。要するに,労働契約によって支払い義務が定められていれば,名目の如何にかかわらず賃金となる。
¬⊃福利厚生費
⊃通勤手当
∵本来的には労働者が負担すべきもの
¬⊃チップ(チップのみが生活の糧の場合は,賃金)
∵使用者が支払うわけではない
⊃サービス料
∵使用者が分配する
■ 労基法の規定
□直接・全額・通貨払いの原則(24条1項)
第24条 賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払い、また、法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。
○2 賃金は、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。ただし、臨時に支払われる賃金、賞与その他これに準ずるもので厚生労働省令で定める賃金(第八十九条において「臨時の賃金等」という。)については、この限りでない。
・直接
∵間接支給だと搾取の危険
- ?夫の給与を妻に支払うこともできないのか。
- できない。妻による搾取の危険がぬぐいきれないからである。もっとも,夫の病気療養のため受け取れないなどの事情があれば,妻は代理人としてではなく使者として給与を受け取ることができると解すべきだろう。
賃金債権譲渡もできない
しかし 協定に基づく控除(但書)の一種とも見うる
☆退職金でもだめ(最判昭43・3・12百選42)
賃金債権差押えはできる
ただし 限度額がある(国徴,民執)
・全額
¬⊃法令に定めのある場合(但書。源泉徴収・社会保険料控除など)
☆労働者の債務不履行との相殺は禁止(最判昭31・11・2)
泥棒に金を盗まれたのを職務懈怠=債務不履行とされた事例
☆労働者の不法行為との相殺も禁止(最大判昭36・5・31)
∵生活の基盤たる賃金を労働者に確実に受領させる趣旨
☆過払い賃金との相殺(調整的相殺)は可能(最判昭45・10・3+最判昭44・12・18百選43)
∵労働者の経済生活の安定を脅かすおそれがない
∵過払いの不可避性
☆同意による相殺(同意的相殺)も可能(最判平2・11・16百選44)
労働者の自由な意志に基づいてされたものであることが条件
↑合理的理由の有無を客観的に判断
同意と合意はイコールではない。同意は一方的行為だが,合意は双方的行為である。そして,相殺は一方的行為であり,その相殺を認めるのだから同意的相殺になり,合意的相殺にはならない。
☆賃金債権そのものの放棄もできる(最判昭48・1・19百選45)
労働者の自由な意志に基づいてされたものであることが条件
↑合理的理由の有無を客観的に判断
・通貨
∵現物支給だと価格が不明瞭
⊃口座振込み
□毎月1回以上・一定期日払い(24条2項)
→労働者の生活不安の防止
毎月第2月曜日 ←一定期日ではない
□非常時払い(25条)
:労働者が非常時になった場合の賃金先払い義務
□休業手当(26条)
:使用者の責に帰すべき労働者の休業中に支払う手当
60以上/100平均賃金
→労働者の最低生活の保護
帰責事由 ここで言う帰責事由は民法上のそれ(故意・過失・あるいはそれらと同視すべきもの)とは違い,経営上の障害や天災等も含むと解される。それは,休業手当の趣旨が労働者の生活の保護にあるからであり,その生活保護の必要性から,帰責事由も考察される必要があるからである。したがって,必ずしも使用者の支配領域性が及ばなくても,支配領域に近いという程度であれば休業手当の支払い義務が認められる。
★「仲間割れストライキと賃金」最判昭62・7・17百選112
<事実>
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ノースウェスト航空でストライキが勃発したが,Xら一部の労働者はそれに参加しなかった。このため,Xらは普通に仕事をしようと思ったが,会社側はストライキ参加者との兼ね合いのために仕事をさせる状況になかったため,Xらに休業を命令。そこで,Xらは休業手当の支払いを会社側に請求。争点は26条の帰責事由の有無。
<判断>
本件のような場合,労働者が就労の意思を有する以上,危険負担の問題として考察すべきである。
26条は労働者の生活保障がその趣旨であるから,その帰責事由は,取引における一般原則たる過失責任主義とは異なる観点をも踏まえた概念で,民法536条2項の帰責事由より広く,使用者側に起因する経営・管理上の障害を含む。
本件ストライキは会社側に起因する経営・管理上の障害によるものではないから,Xらは休業手当の請求ができない。
<整理>
帰責事由の範囲を広げながらも,それには含まれないとした。
■ 最低賃金法 ←労基法28条
第1条 この法律は、賃金の低廉な労働者について、事業若しくは職業の種類又は地域に応じ、賃金の最低額を保障することにより、労働条件の改善を図り、もつて、労働者の生活の安定、労働力の質的向上及び事業の公正な競争の確保に資するとともに、国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。
□労働協約に基づく最低賃金(11条)
↑利用が困難
実際上は↓
□最低賃金審議会の調査審議に基づく最低賃金(16条)
時間額で定める
Aランク〜Dランク
東京708円〜沖縄604円(H14)
産業別最低賃金もある
適用除外(8条)
・履行確保
公示後30日経過で効力発生
違反は1万円以下の罰金
最低賃金に違反する労働契約の賃金の定めは無効
→最低賃金になる