気づいてほしいの

■ 事例

平成18年1月10日,XはYから不法行為に基づく損害賠償請求訴訟を提起された。XとYは同じ法科大学院に通う仲のいい友人だが,最近は忘年会の会計をめぐって関係がギクシャクしていた。Xは,「特に訴えられるような憶えはないなあ・・・」と思いつつ訴状を見ると,5年前,大学のサークルの飲み会でXがYを酔っ払って殴ってしまったことを原因として,100万円の慰謝料を請求するということが書かれていた。5年前といえば,XもYも将来のことを何も考えず,遊びまくっていた頃である。それにしても,なぜいまさら? そんな疑問を抱きつつも,Xは仕方なくこの裁判に応じることにした。


口頭弁論に先立って,弁論準備手続が両当事者出席のもとに行われたが,この手続を担当した裁判官Aは次の奇妙な言動を繰り広げた。
法科大学院って3年もかかるんですか,大変だなー。でも,石の上にも3年って言いますから,3年っていうのはひとつの区切りみたいなものですよね。3年,3年? 3年・・・」
自民党民主党に連立を働きかけているらしいですね。今の連立じゃだめなんですかね〜。昔は自公保でしたけど,保守党が自民党に吸収されちゃいましたよね。そして今は・・・・・・」
「『鳴くよウグイス平安京』って言いますよね〜。うーん,『夏よ!ウグイス平安京』でもいいのになあ・・・って,私はなにしているの・・・・・・な・に・し,ているの?」
XとYはこの言動に触れ,きっと裁判官Aは仕事が忙しすぎて変になってしまったのだろうと思うだけで,それ以上のことは何も理解することができなかった。


第2回口頭弁論では,飲み会におけるXの飲酒量が争点となった。Xはあまりにも昔の飲み会のことであり,記憶があいまいであったため,Yの言うとおり,
「『火吹きショー』をするためにきついウォッカを相当量飲んでいた」
と述べたが,人を殴ってしまうくらいの前後不覚にはなっていない旨も付言した。この事実を裏付けるため,Xは自分自身が酒に強い旨のアルコールパッチテストの結果を書証として提出した。


? 設問

  1. もし,弁論準備手続における裁判官Aの言動により,Xが不法行為債権の時効に気づいた場合,Yはどのような手段をとりうるか。そもそもこのような釈明は適当であろうか。Xが司法試験プレテストで全国12位の成績をとるほど優秀な場合,法科大学院で留年している場合,あるいはまったくの法律の素人である場合のそれぞれで違いはあるか。
  2. Xが「ウォッカを相当量飲んでいた」と述べたことは,第3回以降の口頭弁論において撤回できるか。もし,Xがこの言に加えて「人を殴ってしまうくらいべろんべろんに酔っていました」と述べていた場合,この撤回はできるか。