労働時間&休暇

労働基本法4章

● 意義

労働時間
   使用者の作業場の指揮監督下にある時間又は使用者の明示・黙示の指示によりその業務に従事する時間(実労働時間)。
      ↑不明な場合等はみなし労働時間
      労働時間+休憩時間=拘束時間
      ⊃手待時間:使用者の指示があれば作業しなきゃだめな時間

★「着替え時間は労働時間か」最判平12・3・9百選51
<判断>
労働時間とは,労働者が使用者の指揮命令下におかれている時間である。
労働時間に該当するかは,労働者の行為が使用者の指揮命令下におかれたものと評価することができるか否かによる客観的に定まる。労働契約,就業規則労働協約等の定めの如何により決定されるべきものではない。
労働者が,就業を命じられた業務の準備行為等を事業所内においておこなうことを使用者から義務付けられ,またはこれを余儀なくされたときは,当該行為を所定労働時間外において行うものとされている場合であっても,特段の事情のない限り,使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができ,当該行為に要した時間は,それが社会通念上必要と認められるものである限り,労働基準法上の労働時間に該当する。

   ☆始業前・退社前点呼も労働時間(東京地判平14・2・28)
   ☆仮眠でも労働しないことが保障されて始めて使用者の指揮命令下から離脱する(同上)
   ☆客が来たときには対応しなければならない休憩=手待ち時間=労働時間(大阪地判昭56・3・24)
   ☆観光バス運転手の駐停車中の時間も労働時間(大阪地判昭57・3・29)
所定労働時間
   労働が予定されている時間。
   普通は所定労働時間=実労働時間。現実は・・・
みなし労働時間(38条の2〜)
休憩
   拘束時間内において,労働者が労働する義務を負わず,自由に利用できる時間
   <休息⊃休日・有給休暇


■ 原則

  • □労働時間の原則

1週間に40時間以内(労基法32条1項)
   商業・サービス業の特例(別表→44時間までOK)
1日に8時間以内(同条2項)
   児童は就学時間を通算して7時間(60条2項)
違反は無効(13条)
   →終業時刻の適合的修正
   →時間外労働になる
      →時間外労働の要件を満たさなければ罰則

二以上の事業場で労働する場合 1人の労働者がある会社の労働上AとBで労働した場合,それぞれの労働は通算して計算される(38条1項)。移動時間も労働時間になると考えられる。例えば,フジテレビでいいとも担当のアナウンサー。
ところで,この場合には別の使用者で二以上の事業場で労働する場合も含まれるとする考えもあるが,この場合,罰則を甘受するのは事情を知っていた使用者であると解される。訊くべきことを訊かないところに過失がある・・・
  • □休憩時間の原則(34条)

6時間超の場合は45分以上
8時間超の場合は1時間以上

?休憩時間の時間数は法定されているが,与え方は法定されていない。昼休みが5時間であったり,あるいは1分ずつ細切れに60回与えることは可能なのか。
要件は法定されていないが,望ましいものではないだろう。場合によっては1条1項違反も考えられる。

一斉付与が原則(2項)
   気兼ねしないで休めるように
   事業場で≠作業場で
   労働協約による適用除外あり
   適用除外&特例(40・41条)
      →農漁業等
自由利用が原則(3項)
   しっかり休めるように
      →仕事のための待機もだめ
   しかし,事業場の規律等には服する。

★「食堂でビラまき」最判昭52・12・13
<事実>
ベトナム戦争反対のプレートを自分の服につけて仕事をしていた職員が,上司に取り外すように命令されたため,昼休みの食堂でこの命令に反対するビラをビラ配布許可制に反して配布。
<判断>
休憩時間であっても,従業員は,使用者の企業施設に対する管理権の合理的な行使として是認される範囲内の適法な規律に服し,労務提供とそれに直接付随する職場規律以外の企業秩序維持の要請に基づく規律にも服する。
<整理>
原則と例外が逆転しているとの指摘もありうる。

休憩時間が与えられなかった場合 休憩時間が与えられなければ債務不履行になるが,損害は財産的損害ではなく,精神的・肉体的損害(慰謝料)にとどまる(判例)。もっとも,休憩時間が与えられなかったため,労働時間が法定時間外労働になるのであれば,労働者は割増賃金請求権を取得するが,法定基準にとどまる限りはそうとも限らない(労働契約による)。
  • □週休制の原則

週休1日が原則(35条1項)
必ずしも日曜日でなくてよし
休日:労働者が労働義務を負わない日
   ≠休業日:就労が行われない労働日
休日の特定は必須ではないが,できるだけ特定させるように指導。
変形週休制:特定の4週間に4日の休みがあればよし(35条2項)
▲休日振替
   ・事前の振替
      △1:労働契約上の根拠
      △2:週休・変形週休の要件を満たす
   ・事後の振替
      △1:労働契約上の根拠
      △2:(労基法上の休日労働の場合)休日労働の条件を満たす

  • ×適用除外(41条)

■ 時間外・休日労働

○時間外労働
   法定労働時間を超える労働
   →割増賃金25%以上
休日労働
   法定休日における労働
   →割増賃金35%以上

割増賃金 は,字面通り賃金の割り増しだから,残業をしたからといって住宅手当やボーナス代わり増されるわけではない(規則。しかし,実質に着目すべき(判例))。逆に,残業が行われればその残業が違法だろうが支払い義務が発生するし,法定時間内残業であっても,労働契約に支払いの定めがあれば支払い義務が発生しうる(判例)。時間外労働・休日労働が重なる場合は,時間外+深夜労働→50%以上,休日+深夜労働→60%以上,休日+時間外(≠深夜労働)→35%以上。


◎原則:許されない
×例外:非常事由の場合には許される(33条)
      単なる繁忙ではだめ
     :三六協定が締結・届出されている場合は許される

三六協定
  • ●意義

時間外労働と休日労働に関する協定(36条)

第36条  使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定をし、これを行政官庁に届け出た場合においては、第三十二条から第三十二条の五まで若しくは第四十条の労働時間(以下この条において「労働時間」という。)又は前条の休日(以下この項において「休日」という。)に関する規定にかかわらず、その協定で定めるところによつて労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる。ただし、坑内労働その他厚生労働省令で定める健康上特に有害な業務の労働時間の延長は、一日について二時間を超えてはならない。

  • ♪趣旨

♪現実と理念の調和

  • ▲要件

△事業場の労働者の過半数で組織する労働組合
△書面で協定を行い
労働基準監督署長に届け出る

★「友の会と協定締結」東京高判平9・11・27
<事実>
パッと見は労働組合とは思えない「友の会」が三六協定を締結。その効力。
<判断>
労働者の過半数を代表する者といえるためには,民主的な手続により選出された者が,協定締結の適否について判断する機会が与えられる必要がある。
友の会は労働組合ではなく,代表者が締結した三六協定は無効である。

  • ◆効果

◇使用者に対する時間外・休日労働の免罰
◇労働者の時間外労働義務?

?三六協定は時間外労働義務を発生させるか。
協定そのものが義務を発生させることはない。協定は,時間外労働に免罰的効力を与えるに過ぎない。労働義務が発生するのは,労働協約就業規則において三六協定の範囲内で労働を命じうる旨が明確に定められている場合に限る。労働者の個別の同意を必要とする説もあるが,現実的でない。さらに,協約・規則で定めがあったとしても,実質的な必要性がないのに時間外労働の命令があった場合は,権利濫用となりうる。

★「時間外労働義務」最判平3・11・28百選54
三六協定を締結し,それを届け出た場合において,使用者が当該事業場に適用される就業規則に当該三六協定の範囲内で一定の業務上の事由があれば労働契約に定める労働時間を延長して労働者を労働させることができる旨定めているときは,当該就業規則の規定の内容が合理的なものである限り,それが具体的労働契約の内容をなすから,右就業規則の規定の適用を受ける労働者は,その定めるところに従い,労働契約に定める労働時間を超えて労働する義務を負う。

■ いろいろな法定労働時間

  • 1か月以内の変形労働時間

32条の2  使用者は、①当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、又は就業規則その他これに準ずるものにより、一箇月以内の一定の期間を平均し一週間当たりの労働時間が前条第一項の労働時間を超えない定めをしたときは、同条の規定にかかわらず、その定めにより、③特定された週において同項の労働時間又は特定された日において同条第二項の労働時間を超えて、労働させることができる。

▲要件
   △1:労使協定等で定める
   △2:単位期間の起算日の特定
   △3:週・日と超過時間の特定
      特定が困難な場合は・・・
         労働者がおのおのシフトを決めることは適法
         ☆使用者が労働時間を任意に決めるのは違法(仙台高判平13・8・29)

  • 1年以内の変形労働時間
  • 1週間以内の変形労働時間

http://www2.mhlw.go.jp/topics/seido/kijunkyoku/flextime/


年次有給休暇

● 意義

労働者に有給で与えられる休暇(39条)。

▲ 要件

△1:6か月以上勤務
△2:全労働日の8割以上の出勤(1項)

◆ 効果

◇1:年休権
   →使用者には
      ☆不作為義務(最判昭48・3・2)
      ☆状況配慮義務(最判昭62・7・10)
      ☆休暇日の賃金支払い義務(最判平4・6・23)
   ・年休の使い途
      ☆労働者の自由(最判昭48・3・2)

年休の争議目的利用 判例は労働者が結託して休暇届を一斉に出して集団ストライキを行うことについて,本来の年次休暇権の行使ではないことを理由に,賃金請求権の不発生を認める。従来,この判例は「年休利用自由原則の例外」と解されていたが,最高裁の本当の意図は「(集団ストライキは)年休権行使ではない」としたものであるということが明らかにされた(調査官解説)。

   ☆未消化年休の繰越しはOKだが時効(115項)がある(東京地判平9・12・1)
   ☆年休権行使を抑制し,年休権保障の趣旨を失わせる不利益取り扱いは無効(民法90条最判平5・6・25)。

?年休権を行使した結果,皆勤賞を達成し得なくなるような場合は不利益取り扱いか。
皆勤賞が何らかの利益に関するものである限り,不利益取り扱いになるだろう。

◇2:時季指定権(4項)
   時季:季節(春夏秋冬)+具体的時期
   ☆使用者が時季変更権を行使しない限り休暇成立(時季指定権は形成権最判昭48・3・2)
   ↑↓
◇3:時季変更権
   ・事業の正常な運営を妨げる場合
      ☆事業場は労働者所属の事業場に限る(最判昭48・3・2)
      ☆代替要員確保の努力が必要(最判平1・7・4)
         ☆同意の打診程度でOK(東京高判平12・8・31)

★「JIJIPRESS」最判平4・6・23
<事実>
Xは時事通信(Y)で科技庁の記者クラブに所属する唯一の記者だが,そのXが40日間の年休行使を部長に申し出。部長は代わりの記者がいないため2回に分けて休んでほしいと回答したが,Xは拒否し,旅行(ヨーロッパ原発見学)に出発。このため,時事がXを譴責処分・欠勤による減給。この間,科技庁記者クラブの仕事は他の記者がこなすことができた。
<判断>
年休は形成権だし(最判昭48・3・2),使用者には配慮義務がある(最判昭62・7・10)が,代替勤務者を確保することが困難であるなど客観的な事情があり,指定された時季に休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げるものと認められる場合には,使用者の時季変更権の行使が許容される。ただし,それは不合理なものであってはならない。
本件におけるXの仕事の専門性と休暇の長さ,Yの時季変更権の配慮などを考慮すると,不合理でもなく39条4項の要件の充足がある。