青の火車

■ 事例

東京都内の大学に通うAは,最近の体感治安の悪化や少子高齢化の社会状況に目をつけ,ワンコインタクシー会社を設立しようと考えた。このタクシー会社は,乗車・降車をある一定の地域内に限定する代わりに,どれだけ乗っても料金は500円というもので,Aは,地域のお年寄りの買い物・通院や児童の学校・塾の送り迎えなどに需要があるものと考えた。そこでAは,父Bの事業仲間で建築会社を運営するCをエンジェルとして開業資金3000万円の融資を受け,さらにCの会社が所有する土地甲を駐車場等に使用するために無償で借り受けることとなった。
だが,いざ開業してみたはいいものの,運転手不足や伸びない客足などのため事業は赤字続きとなり,開業資金は底をつきかけていた。このため,Aはこの状況を改善するのに必要な融資をC以外から受けるために外回りで頭を下げる日々が続いていたが,なかなか融資をしてくれるところは現れなかった。そんな折,Aが開業資金で入手したタクシー車両に譲渡担保権を設定することを条件に,ベンチャー支援企業Dが融資を申し出た。この契約内容は,時価120万円のタクシー車両15台をAがDに担保を目的として占有改定により譲渡する代わりに,Dが750万円を事業資金としてAに融資するというものである。Aとしては,融資金額をもう少し譲渡担保に供するタクシー車両の時価に見合ったものにしたいという思いもあったが,D以外に融資を受けられそうなところが現状では見つかりそうになく,また,当座の資金面にも不安が出てきたこと,さらに,これ以上資金繰りが悪化すればCからタクシー車両の差押えを受けそうな雰囲気もあったため,やむなくこの契約に応じることにした。
しかし,今度は融資をしたDの資産状況がDの融資先Eの倒産により悪化し,Dは融資を受けるために外回りをする日々が続いた。そんな折,F銀行は,Dと融資交渉に臨み,Dの有する資産を精査したところ,タクシー車両が存在を認め,Dにこの内実を問いただした。これに対してDは,本来なら譲渡担保であるというべきところ,自らの所有物であると述べ,Fの融資を引き出すに適した状況を作り出した。Fはこの言を信用し,タクシー車両をポジティブに評価し,Dに2000万円を融資した。さらに,Dの友人Gも同様の言により,タクシー車両がDの所有であると信じ,Dに200万円を融資した。


? 設問

  1. CのAへの3000万円の融資はどのような契約だと考えられるか。さらに,土地甲にCの予期しない陥没が発生し,Aの所有する車両が毀損した場合,Cは責任を負う必要があるか。
  2. AとDの譲渡担保設定契約は民法90・94・175条違反にはならないか。仮にならないとして,この譲渡担保は集合物譲渡担保か。
  3. Dが譲渡担保権を実行した場合,自己の敷地へのタクシー車両の移動をAに求めることができるか。また,譲渡担保の目的となったタクシー車両がすべて大雪により使い物にならない状態になり,Aが保険金請求権を得ていた場合,これに譲渡担保権を行使することは可能か。