幸福追求権

● 意義

憲法13条後段を略した包括的人権。
個別に規定された基本権以外の新しい人権の母体。

第13条  すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

?13条から具体的な法的権利を引き出すことができるのか。
社会は常に変動しているし,その変動に対応して問題も変動しているのだから,憲法に常々明文規定を要求するのは不可能である。判例の如く,個々の権利は13条の幸福追求権によって基礎付けられると見るべきである。

■ 導き出される人権

□ プライバシーの権利

私生活をみだりに公開されない権利(「宴のあと」判例)。
学説上は,自己に関する情報を積極的にコントロールする自由と解される。
☆容貌・姿態を撮影されない自由(最大判昭44・12・24)
   ☆オービスは肖像権・プライバシー権を侵害しない(最判昭61・2・14)

□ 環境権

国民が良好な自然環境・文化環境を享受できるとする主張。
憲法13・25条などを根拠に主張されるが,権利の抽象性の故,判例は肯認せず,人格権や財産権に基づく請求のみを許容する。

★「厚木基地騒音訴訟」最判平5・2・25百選29
<事実>
日米軍が共同使用する厚木基地周辺の住民が,人格権・環境権に基づき騒音公害の差し止め等を求めて提訴。
<判断>
自衛隊機の運行は住民との関係では公権力の行使だが,民事上の差止請求は不適法である。
米軍機の運行の差し止めを求めるのは,国の支配権が及ばないのだから失当である。

□ 自己決定権

人に迷惑をかけない限り,自分のことは自分で決定することができる権利。
患者の自己決定権,自傷・自殺,安楽死,ポルノ鑑賞,ニート,バイク,同性愛など。

★「高校生バイク事故」最判平3・9・3百選26
<事実>
高2のXは学校(私立)の校則*1違反を知りながら親の協力を得てバイクの免許&本件バイクをゲット。学校にばれないように自宅周辺で乗り回す日々が続いていたが,友達のAにバイクを貸してほしいといわれて貸したところ,AはそれをCに転貸し,Cが事故ってしまった。この顛末がXの担任にばれ,Xは自手退学勧告処分という名の退学処分。その後Xは,本件処分が憲法13条等に反し違法で,精神的損害を被ったとして学校側を提訴。
<判断>
憲法の基本権規定は私人間には適用・類推適用されない。
本件校則は社会通念上不合理とはいえない。
本件処分は違法とはいえない。
<整理>
・私人間効力
公立校の私立校も同様の校則を制定していた状況が認められれば,あえて公立・私立を峻別し,私立には私法を以って臨むという必要性は必ずしもなくなる。
・校則
制定目的と厳しさ・拘束力の度合いを事例ごとに判断。喫煙の禁止・自転車通学のヘルメット着用義務・パーマ禁止はOK(判例)だが,丸坊主は微妙となる。
・バイクに乗る自由
バイクに乗る自由を「趣味」と構成すれば,生徒の自己決定権(13条)を人格権的には認めないことになる。どのような権利が,バイクに乗る自由を制限することによって制限することになるかが問題だが,本件の場合「親の家庭教育権・プライバシー」とした1審が注目される。

*1:バイクの免許は取らない,バイクには乗らない,買わない。