法定地上権
● 意義
同一の所有者の所有に属する土地と建物が,競売(抵当権の実行)によって所有者が分離するに至ったとき,法律上当然に発生する地上権(民法388条)。
- ♪趣旨
♪競落人(新所有者)保護+国家経済
∵地上権がない場合に建物を取り壊さなくてもよい。
∵そもそも土地と同一所有者所有の建物に地上権は設定できない。
→特約による排除はできない(大判明41・5・11)
▲ 要件
第388条 ①土地及びその上に存する建物が同一の所有者に属する場合において、その②土地又は建物につき抵当権が設定され、その③実行により所有者を異にするに至ったときは、その建物について、地上権が設定されたものとみなす。この場合において、地代は、当事者の請求により、裁判所が定める。
- △1 土地と建物が同一の所有者に属する
a 抵当権設定当時の建物の存在
・更地への設定後の建物建築
☆否(最判平36・2・10)
∵土地の評価 → 更地>建物付きの土地
抵当権者が建築予定地を更地だと信じた事例
☆抵当権者の承諾があっても否(最判昭47・11・2)
建物は現実に存在していればよし
∵現実に調査すればわかる
→☆保存登記は不要(大判昭14・12・19)
→土地建物の所有者が建物につき所有権移転登記を経ずに土地に抵当権設定
☆成立(最判昭48・9・18)
→土地建物の所有者が土地につき所有権移転登記を経ずに建物に抵当権設定
☆成立(最判昭53・9・29)
・建物が改築された場合
☆成立(大判昭10・8・10)
ただし,旧建物と同一の範囲にとどまるべき。
☆改築の予定を織り込んで抵当権設定をした場合も成立(最判昭52・10・11)
★「共同抵当で建物再築」最判平9・2・14百選90
<事実>
AはYから土地と建物につき根抵当権の設定を受けたが,その後Aの承諾を得て建物が取り壊され,土地は更地になった。そこで,Aはこの土地を再評価し,極度額を2倍以上にアップ。が,Yはその後,カラオケハウスを築造した(Aの承諾の有無が争いになったが,裁判所は無と認定)。カラオケハウスの運命如何。
<判断>
法定地上権不成立。
共同抵当の場合の抵当権者は,土地建物全体として担保価値を把握するから,当時の建物が存続する限りはその建物のために法定地上権が成立するが,取り壊されて更地になれば,更地として担保価値を把握しようとするのが抵当権設定当事者の合理的意思であり,これに反して法定地上権が成立するものとすれば,抵当権者に不測の損害を与えることになる。こう解すれば,建物保護という公益的要請に反することになるが,どちらかといえば抵当権設定当事者の合理的意思のほうが重要であるから,この点は判例を変更する。
b 所有者の同一
☆親と子がそれぞれ土地と建物でもだめ(最判昭51・10・8)
・たまたま同一になってしまった場合
☆否定(最判昭44・2・14)
∵賃借権以上のものを与えるわけにはいかない
☆否定(最判平2・1・22)
∵把握した担保価値を損ねる
・建物が共有で共有者の一人が土地を所有している場合
☆成立(最判昭46・12・12)
・土地が共有で建物も共有
☆否定(最判平6・12・20)
特段の事情のない限り
☆仮差押え登記の土地の上の建物には成立するが,本登記には成立しない(最判昭47・4・7)
- ?もともとは同一人の所有に属した土地建物の一方が第三者に譲渡されたらどうか。
- 成立する。譲り受けたものは,譲渡人の地位を譲り受けたのだから,譲渡人が法定地上権の成立を甘受せざるを得ない以上,第三者も法定地上権を甘受すべきだからである。
- △2 土地か建物に抵当権設定
☆土地か建物の一方のみが競売された場合も成立(大判明39・2・16)
∵388条と同様の事態が生じる
旧法下の事件
- △3 実行により所有者を異にする
◆ 効果
- ◇地上権の設定
地代は裁判所も定めうる(但書)
敷地だけでなく建物利用に必要な範囲で
■ 短期賃貸借に代わる賃借人保護
- □抵当権者の同意(387条)
抵当権者が同意すればいいが,同意するとは限らない。
- □明け渡し猶予(395条)
- ?賃借人が賃貸人に支払った敷金はどこへ行くのか。
- 買受人に移転すると観念すべきである。買受人は賃借人が存在することを前提として建物を買い受けているはずだし,賃借人にとっても,競売が行われた結果差し入れた敷金が無になってしまうのは酷である。明け渡し猶予は,短期賃貸借制度の不都合を解決するために設けられた規定であり,その趣旨はあくまでも賃借人保護にあるのである。