抵当権(総則)
● 意義
債務者または物上保証人が,債務の担保に供した不動産および権利につき,その使用収益を認めつつも,債務不履行の場合には,その目的物の価格から優先弁済を受けることを内容とする担保物権(民法2編10章)。
▲ 要件
△抵当権設定契約
要金銭算定
→後順位者・不動産譲受人の保護
要処分権
なければ・・・
所有者の追認によって有効になるかも(116条類推)
所有権を取得したときに成立
- ▲対抗要件
△登記(177条)
■ 抵当権の効力の及ぶ範囲
第370条 抵当権は、抵当地の上に存する建物を除き、その目的である不動産(以下「抵当不動産」という。)に付加して一体となっている物に及ぶ。ただし、設定行為に別段の定めがある場合及び第424条の規定により債権者が債務者の行為を取り消すことができる場合は、この限りでない。
- 附合物
◎原則:及ぶ
×例外:及ばない(242条但書)
- 別段の定め
あれば及ばない(370条但書)
- 詐害行為になる場合
及ばない(370条但書)
- 果実
及ばない(371条反対解釈)
- 従物
- ?従物は付加一体物か。
- 従物は主物のために存在し(87条1項),その運命に従う(同条2項)のだから,当然に(370条により)付加一体物である。
- 従たる権利
- ?従たる権利はどうか。
- 従物と同様に解してよい。
- 附合物
及ぶ(242条本文)
- 分離物
■ 物上代位
372条→304条
ただし,解釈においては先取特権との違いを考慮。
- 目的物
・売却代金
認める必要は,なし。 ∵追及効
しかし,一応認める(通説)。
☆買戻し代金債権にも及ぶ(最判平11・11・30)
∵買戻し代金債権は目的不動産の価値変形物
∵買戻しの実質は売却
・賃貸料
及ばないのが,原則。 ∵抵当権の性質
しかし,372条→304条と371条はともに認める。
改正経緯 もともと372条は賃貸料に対する物上代位を認めていたが,371条が平成15年に改正された結果,物上代位を認める規定は2つになった。つまり,法定果実に対して抵当権者がかかっていく方法は不動産収益執行と物上代位の2通りになり,両者は併存しうるが,物上代位による差押えの後に不動産収益執行(執行法93条)が開始されれば,物上代位による差押えの効力は停止する(執行法93条の4)。
☆賃借人が供託した賃借料には及ぶ(最判平1・10・27)
☆転貸料には及ばない(最決平12・4・14)
×例外:法人格の濫用がある場合 → 法人格否認 → 及ぶ
☆敷金により未払い賃料が充当されれば賃料債権は消滅(最判平14・3・28)
∵改めて意思表示が必要ではない
☆賃借人と賃貸人の賃料債権と相殺の合意は差押えに対抗できない(最判平13・3・13)
∵改めて意思表示が必要
・損害賠償請求権
及ぶ。 ∵手続なしに当然発生する
しかし,訴えの要件がごちゃごちゃしているので,通常は代位にする。
・損害保険金請求権
- ?及ぶのか。
- 保険金請求権は,損害賠償請求権のように当然発生するものではなく,保険料の対価として発生するものだから,滅失・毀損により当然に発生するというよりも,滅失・毀損をきっかけに発生するといいうるので,及ばないとも考えうる。だが,及ばないとすると,抵当権設定者が保険金を受け取ることになり不公平である。及ぶと解すべきだろう。もっとも,払渡・引渡前の差押えが必要(304条1項但書)だから,別途保存手当てを講ずるのが通例である。
- ▲要件
△払渡・引渡前の差押え
・抵当不動産の賃料債権の差押え vs. 抵当権物上代位
☆抵当権物上代位が勝つ(最判平1・10・27)
∵物上代位差押えの趣旨は「第三債務者保護」(最判平10・1・30)
→抵当権設定登記が(第三債務者への)公示
・不動産賃料債権の差押え vs. その後の抵当権設定による抵当権物上代位
☆不動産賃料債権の差押えが勝つ(最判平10・3・26百選87)
正確には・・・
賃料債権差押えによる第三債務者への差押え命令の送達
と
抵当権設定登記
の先後による
・抵当不動産の売却代金の転付命令+売主への送達 vs. 抵当権物上代位
☆転付命令が勝つ(最判平14・3・12)
☆他の債権者がした差押えに配当加入はできない(最判平13・10・25)
∵☆抵当権物上代位は特権(大連判大12・4・7)