先取特権

● 意義

法定の特殊債権を有するものが,債務者の財産から優先的に債権の優先弁済を受けることができる法定担保物権民法2編8章)。

  • ♪趣旨

♪公平の原則
♪政策的配慮
♪特殊産業の保護
♪当事者の意思推測

■ 種類(2節)

総財産が目的になる(306条柱書)
   →効力は絶大

一般先取特権が不動産を目的とする場合 一般先取特権は,登記をしなくても不動産について一般債権者に対抗できるが,登記をした債権者(抵当権者など)には対抗できない。また,一般債権者に対抗できるとはいっても,まず不動産以外の財産から弁済を受け,それでも足りない場合に限り,足りない分だけ,不動産から弁済を受けることができる。このようなルールを守って配当加入をなさなければ,他の登記をした債権者に対抗できない。

1号:債権者の共益費用(307条)
   みんなのためになったのだから・・・
2号:労働債権
   労働者の生活保護
   給与だけでなく,ボーナス,損害賠償請求権なども含む(308条)。
3号:債務者の葬儀費用(309条)
   ↑貧乏でも,せめて葬式はさせてあげよう。
4号:日用品の供給
   電気代など(310条)
   ↑貧乏でも,最低限の生活はさせてあげよう。

目的は特定(関連)動産のみ(311条柱書)
三者に引き渡されれば,それに対しては先取特権の行使はできない(333条)。

?債務者が第三者から動産を取り戻した場合は,先取特権が復活するのか。
条文は「引き渡した後は」としているから,復活は考えられないようにも見うるが,一度第三者に引き渡したものの債務者の手元にある動産に対して,先取特権を行使できないとするのは,理由がないというべきである。復活するということになろう。
?そもそも「引渡」は占有改定を含むか。またこれと関連して,譲渡担保権設定の場合はどうか。
この点,判例は占有改定を引渡にあたるものとするが,先取特権は当事者の意思推定だけでなく,公平の原則や政策的配慮をその趣旨に含むものである。占有改定を引渡に含めると,これらの趣旨が全うされる場面が少なくなり,結局,先取特権の存在意義が失われてしまう。したがって,引渡しには占有改定は含まれない。ゆえに,譲渡担保権者は333条のいう第三取得者に当たらないし,譲渡担保権を担保権の設定と解して334条を類推適用する必要もない。もっとも,このような譲渡担保の処理は,先取特権との関係においても処理であり,譲渡担保を否定する趣旨のものではない。

1号:不動産の賃貸借
   賃貸人→賃借人の動産
   ・目的物の範囲(313条)
      土地の賃貸借(1項)
      建物の賃貸借(2項)
         →建物に備え付けた動産

?どの範囲をいうか。
判例は金銭や宝石類を含むとするが,金銭や宝石類は「備え付けた動産」というを得ないだろう。本規定は,当事者の意思の推測,つまり,賃借人がいざとなったら賃料に転化してもよいという覚悟を,建物に備え付けた動産に見るものであるから,取り外しの困難さが備え付けの条件である。これによれば,金銭や宝石類は含まれず,加湿器やBSアンテナなど,建物の利用に供するために備え付けたものが含まれるにとどまる。

   ・譲渡・転貸の場合の目的物の拡張(317条)

?そうすると,転借人が賃借人の債務を肩代わりすることになるのではないか。
確かにそのようになり,立法論として酷であるともいえる。しかし,転借人そのようなリスクを承知したうえで,転借しているともいえるのではないか。

      転借人等が他人の動産を備え付けた場合の賃貸人の即時取得(319条)
   ・被担保債権の制限(315・316条)
2号:旅館の宿泊
   旅店主→旅客の手荷物(317条)
   他人の物を手荷物として持ち込んだ場合の旅店主の即時取得(319条)
3号:旅客・荷物の運送
   運送人→運送人の占有する荷物(318条)
   即時取得(319条)
4号:動産の保存
   時効取得の中断など,権利の保存も含む(320条)。
5号:動産の売買
   代価+利息(321条)
   引渡前は同時履行の抗弁や留置権
6号:種苗・肥料供給
   たとえば,南瓜の種の代金→南瓜。
   →農業の発達の手助け・・・
   ただし1年以内に生じたもの(322条)
7号:農業の労務
   労務賃金債権→南瓜
      1年分(323条)
8号:工業の労務
   労務賃金債権→製造物など
      3か月分(324条)

目的は関連(特定)不動産(325条)
1号:保存
   動産の保存に同じ(326条)
   要登記(337条)
2号:工事
   工事代金→工事をした不動産
      ただし,増価分に対してのみ(327条2項)。
   要予算の登記(338条1項)

★「価値を増す競売物件最判平14・1・22
<事実>
Xが工事をした不動産には,元来Aの根抵当権が設定されていた。その根抵当権が実行され,競売手続へ。配当にはXとAが参加することになり,Xの増価分が評価人(鑑定人)によって評価され,配当表が作成されたが,それから2年後の配当期日になると,増価分が評価時よりも増加していた。そこで,Xが配当異議。
<判断>
評価人の評価は増価額の決定ではなく,最低売却価格の決定も増加額を決定させるものではない。

3号:売買
   売買代金+利息→不動産(327条)
   要登記(340条)

■ 順位(3節)

◆ 効果

◇優先回収(303条)
   →執行法
上代(304条)

(物上代位)
第三百四条  先取特権は、その目的物の売却、賃貸、滅失又は損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物に対しても、行使することができる。ただし、先取特権者は、その払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければならない。
2  債務者が先取特権の目的物につき設定した物権の対価についても、前項と同様とする。

   追及効制限(333条)のため,動産において意義を持つ。
   ▲要件
      △払渡・引渡の前に差し押さえること(304条1項但書)

★「c⌒っ゚Д゚)っ」最判昭60・7・19百選82
<事実>
XはAに某動産を売却,AはそれをさらにBに転売。が,Aが代金を支払わないため,Xは転売代金を物上代位権の行使として差押え,転付命令はBに送付された。しかし,それ以前に,Aの一般債権者であるYがこの転売代金債権を仮差押えしていた。このため,Bは代金を供託,そして,執行裁判所はXの差押えを無効力と解して配当表を作成。これに,Xが配当異議。
<判断>
304条1項但書の趣旨は,物上代位の目的債権の特定性の維持と,それによる第三債務者・第三(債権)者の不測の損害の防止にある。したがって,一般債権者が差押え・仮差押えを下にすぎないときは,その後に先取特権者が目的債権に対して物上代位権を行使することができる。
<整理>
条文から整理すると,第三債務者から債務者への払渡・引渡しがあれば,もはや債権者は物上代位権を行使できない。ただ,それ以外の,たとえば本件のような一般債権者の債権の差押えはどうなるかが明らかではない。そこで,それを考察する前提として,物上代位権の行使に際し,法がなぜ「払渡・引渡前に」「差押え」を要求するのかを考える必要が出てくる。
通説はこれについて,特定性を維持するためのものだと考える。物上代位の目的となる債権が払渡や引渡されれば,債務者の財産の中でどれが目的となるものであるかわからなくなってしまうから,それを防止するためのものでるとする。これに対し,本判決は,特定性を維持するためのものであるとしつつも,第三債務者・第三者などの不測の損害を防止するためのものであるとする。