採用

労働契約は,使用者の採用によって始まる。

● 意義

労働契約の締結を,使用者側から表現したもの。
法的性質は労働者の申込みに対する承諾である。
契約自由の原則
   →採用の自由 @使用者
   →職業選択の自由 @労働者
   ←公共の福祉(憲法22条)
   ←勤労権の保障(憲法27条1項)
   ←法の下の平等憲法14条)

★「採用の自由――三菱樹脂事件最大判昭48・12・12百選9
憲法は,思想,信条の自由や法の下の平等を保障すると同時に,財産権の行使,営業その他広く経済活動の自由をも基本的人権として保障している。それゆえ,企業者は,かような経済活動の一環として,契約締結の自由を有し,労働者の雇用に当たり,いかなる者を,いかなる条件で雇い入れるかについて,法律その他による特別の制限がない限り,原則として自由にこれを決定することができる。

▲ 要件

労働条件の明示労働基準法15条1項)
   [022]労働条件の明示 | 知って得する労働法
   条件と違う場合の即時解除権(2項)


◆ 効果

採用
   じゃあ,内定って何?
   http://saiyo.dnp.co.jp/

★「採用内定――DNP事件」最判昭54・7・20百選10
<事実>
大日本印刷は,滋賀大学に対して,入社希望者の推薦を依頼。この滋賀大学の学生で卒業予定だった原告は,これに申し込み,内定をゲット。内定通知書には次のような誓約書が含まれていた。

     記
一、本年三月学校卒業の上は間違いなく入社致し自己の都合による取消しはいたしません
二、左の場合は採用内定を取消されても何等異存ありません
〔1〕 履歴書身上書等提出書類の記載事項に事実と相違した点があつたとき
〔2〕 過去に於て共産主義運動及び之に類する運動をし、又は関係した事実が判明したとき
〔3〕 本年三月学校を卒業出来なかつたとき
〔4〕 入社迄に健康状態が選考日より低下し勤務に堪えないと貴社において認められたとき
〔5〕 その他の事由によつて入社後の勤務に不適当と認められたとき」

ところで,原告はダイキン工業にも大学の推薦を受けていたが,滋賀大学の規則により,他方の内定が出たのでこちらの推薦は取り消して,就活を終了。しかし,入社を目前に控えた2月22日に,大日本印刷から「内定取り消し」の通知が理由もかかれずに送られてきたため,原告が内定取消を争った。
<判断>
内定の法的性質は,事実関係に即して検討する必要がある。
本件事実関係によれば,内定の法的性質は,解約権留保つき労働契約の成立である。
わが国の雇用事情にかんがみれば,内定を得たものは,他企業への就労の可能性を放棄するのが通例だから,試用期間中の地位と基本的には異ならず,この使用契約における解約権の行使は「客観的に合理的な理由が存在し社会通念上相当として是認することができる場合にのみ許される(最大判昭48・12・12)」。
これを本件についてみると,大日本印刷は原告をグルーミーではあるが,それを打ち消す材料も出るのかもしれないとして,とりあえず採用内定を出し,やはり打ち消す材料が出なかったために採用内定を取り消したというが,原告がグルーミーなことははなから解っていたことであり,その段階で調査を尽くすべきであった。にもかかわらず,それをせず,とりあえず内定を出し,それを取り消したのは,解約権の濫用として許されない。

?採用内定の法的性質はどのようなものか
具体的事案に基づいて決定するしかないだろう。が,判例の言うように,普通,第一希望の企業から内定をもらったら就職活動を終了するし,内定が取り消されることを考えて「滑り止め」で他の企業を受ける慣習もない。そうすると,内定の法的性質は基本的には「採用」そのものであって,ただ,特別の事情があれば,企業からの解約が認められるに過ぎないとすべきである。
?採用内々定はどうなのか
これも事案に基づいて決するほかない。
?では,内定取消はどのような場合に認められるか
内定取消しの状況が,客観的に,社会通念上相当な場合である。たとえば,履歴書に虚偽の記載があった場合などは取消の原因となるだろうが,単なる誤記ではそうはいかないのではないか。
?内定取消が不服である場合,どのような請求が可能か
労働者側からとしては,債務不履行不法行為責任の追及が考えられる。使用者側からとしては,労働者には解約の自由があり(民法627条),基本的には自由にできるため,よほど取消の態様がひどい場合でなければ責任の追及はできないだろう。