相殺
- ●意義
債権者と債務者が相互に同種の債権・債務を有する場合に,それらを対等額において消滅させる一方的意思表示(民法3編5節2款)。
相殺する主体の債権を受働債権,される側の債権を受働債権という。
- ♪趣旨
♪1 簡易・便宜性
∵一方的意思表示(単独行為)でできる
↓にも係る
♪2 当事者の衡平
遅滞の場合など
↓にも係る
♪3 担保的機能
ということは,自働債権があれば一方的意思表示で履行を強制するのと同じ効果を得ることができ,その場合,受働債権にとっては任意に債務を履行したのと同じことになる。
- ▲要件
△1 相殺適状であること(505条1項)
ア 二人が互いに債務を負担していること
×例外→連帯債務,保証債務
イ それが「同種の債務」であること
ウ 弁済期にあること
自働債権だけでいい
∵期限の利益
エ 双方の債務が有効に存在すること
×例外→時効(508条)
∵相殺適状にあった時点で決済済みと考えることができる
∴譲り受けた債権を自働債権にすることはできない
オ 債務の性質が相殺を許さないものではないこと
行為債務は相殺できない
「僕は君に民法を教えよう」「じゃあ僕は君に憲法を教えるよ」 「相殺しよう」「そうしよう」 結果,2人は何もしなくなった。
自働債権に同時履行の抗弁権等があればだめ
BはAにもともと100万円の債権を有している。 A「じゃあ,その自動車買います(ポンと代金100万円を置く)」 B「ありがとうございます。来週引き渡します」 ここで,Bが相殺の意思表示。Aとしては・・・
△2 相殺が禁止されていないこと
ア 当事者が相殺禁止の特約をしていないこと(505条2項)
善意の第三者に対抗できない(但書)
イ 法律による禁止がないこと
a 不法行為によって生じたものではないこと(509条)
∵①被害者の現実の救済
∵②不法行為の誘発防止
∴自働債権・受働債権ともに不法行為により生じたのであれば許され・・・
・・・そうである。が,結局延々と殴り合いを許すことにもなりかねないため,許されない。しかし,自動車衝突事故の場合は①不法行為の誘発という趣旨は当てはまらないし,②紛争の1回的解決にも資することから,許されると解することが可能である。
b 受働債権が差押禁止債権でないこと(510条)
c 受働債権が支払の差し止めを受けていないこと(511条)
♪趣旨=差押債権者の差押え確保
↑でも,相殺権者にも担保的相殺期待がある
★「差押え×相殺予約」最大判昭45・6・24
<事実>
Aは国税を滞納し,またY銀行(被告)に対し定期預金を有している。X(国。原告)はAのこの預金を9月4日に差押え,Yに支払うよう催告。これに対しYは9月6日にAに対して有する貸付債権との相殺の意思表示。そして,Yの支払い請求を拒絶。1審はXの請求認容。原審はYの主張を肯定。最高裁は大法廷で8対7の差で下記判断を下した。
<判断>
相殺の制度には担保的機能がある。この機能は取引の助長に役立つから,当事者の地位は尊重すべきで,差押えの場合にも否定すべきでない。もっとも,511条は差押債権者の利益を考慮している。しかし,同条の文言と相殺制度の本質にかんがみれば,同条は第三債務者が債務者に対して有する債権を以って差押債権者に対し相殺をなしうることを当然の前提としたうえ,差押え後に発生した債権または差押え後にに他から取得した債権を自働債権とする相殺のみを例外的に禁止することによって,その限度において,差押債権者と第三債務者の間の利益の調節を図ったものである。したがって,第三債務者は,その債権が差押え後に取得されたものでない限り,自働債権及び受働債権の弁済期の前後を問わず,相殺適状に達しさえすれば,差押え後においても,これを自働債権として相殺をなしうる。
d 自働債権が支払の差し止めを受けていないこと(481条)
- ◆効果
◇1 対当額債務の消滅(505条1項)
遡求効(506条2項)
→支払い済みの利息は不当利得に
◇2 相殺充当(512条→488〜491条)
任意充当,法定充当