「生命保険金請求権の消滅時効の起算点」最判平15・12・11

  • ■事実

AはY(第一生命)との間でX(Aの妻)を保険金受取人とする生命保険契約を締結。その後,平成4年5月17日Aは行方不明になってしまった。それから3年以上が経過した平成8年1月7日,Aは芦ノ湖付近の道路から120メートル下の雑木林で白骨化した遺体となって発見された。このため,XはYに対し生命保険金を請求したが,Yは拒否。なぜなら,この保険契約の約款には保険金請求につき3年の消滅時効が定められていたからである。


  • ★判断

確かにこの約款は消滅時効の起算点を「被保険者の死亡日の翌日」としている。しかし,①民法166条1項の解釈によれば消滅時効の起算点は「法律上の障害がない」時から進行し,②更には「権利の性質上,その権利行使が現実に期待することができるようになった時から」進行するというのがその趣旨(最大判昭45・7・15)である。これらにかんがみると,本件約款は,通常,被保険者の死亡=権利行使が可能,であるという側面しか想定しておらず,本件のような被保険者の死亡≠権利行使が可能という,特段の事情の存する場合にまで適用があるとする趣旨ではない。
本件においてはAが行方不明になった段階ではXは権利の行使を期待できない客観的な特段の事情が存在したのであるから,消滅時効の起算点は平成8年1月7日である。


  • _〆研究

1 この判決は契約内容を趣旨等にのっとって解釈する異例の判決のように思える。契約内容の文言を結果の不都合性を除去するため,例文であるとする解釈を例文解釈というが,この技法を最高裁が用いているわけでもない。例文解釈自体ができないわけではないのだろうが,背景には火災保険約款の拘束力について判断した大判大4・12・24商法百選2の背景があると考えられる。
 (1)この判決の判旨は「保険契約者が約款の内容をよくわかっていなくても,反証がない限り契約の文言にしたって契約したものと推定すべき」であるというものである。上告受理申立て理由でもこれが引かれ,「原判決は・・・判例に相反している」と述べる。
 (2)本事案の結果妥当性はXの保険金請求を認めるべきであるという点に異論はないだろうが,その道として最高裁がとりうる手段は①上記判例の変更か,②契約内容の解釈であり,現に採ったのは②であった。
2 ただし,それ自体いばらの道である。理屈としてはY側のものが筋が通っている。「契約内容になぜ口出しをする」「自殺免責の対象とならない普通生命保険金についてはすでに支払った」「モラルリスクを助長する」など。それでも原審,最高裁は「公平を図るべく」「特段の事情」の文言を用い,更には前言(上記大審院判例)を撤回しない形でけりをつけた。166条1項の解釈としてはなんら目新しい点はないが,それを生命保険金請求権の約款に持ち込んだ点で意義深い判決である。