証明責任
● 意義
ある主要事実が真偽不明の場合に,その事実を要件とする法律効果が認められない一方当事者の不利益。
http://www5d.biglobe.ne.jp/~Jusl/JTWebHouka/JTHoukaYouken.html
- ♪趣旨
♪裁判拒否の回避
- 概要
判決は裁判官の自由心証によって行われるのが原則である(247条)。が,裁判官が一所懸命考えても,真偽が定かでない場合がある。このような場合でも裁判所は「わかりませんでした」といって裁判を拒否をすることは許されない。そこで,実質的には“おあいこ”な場合でも,形式的にせよ勝負を決するための概念(法技術)が必要となる。それが証明責任=挙証責任である。
このように,証明責任は主要事実の真偽不明に際してはじめてたち現れる。けれども,当事者としてはこのような状況にならないように,弁論主義のもとに立証活動を展開する。これを主観的証明責任といい,あらかじめ定まっている客観的証明責任とは区別される。訴訟を通じて証明責任が顕在しているわけではないが,結局のところ証明責任が当事者や裁判所にとって訴訟活動・訴訟指揮の重大な指標になってしまっている。証明責任が民事訴訟の脊柱(Backbone)といわれる所以である。
■ 証明責任の分配
では,どのように証明責任を分配するのか。証明責任は上記のように重大な効果をもたらすため,客観的に明確であり,当事者の衡平が損なわれないことが肝要である。この点,当事者の公平に配慮した基準として,証拠への距離や立証の難易などを考慮するものもあるが,明確性に失する。したがって,原則的には法律効果を主張するものが証明責任を負うとすべきである(法律要件分類説)。
- 法律要件分類説
・基本形
1:権利根拠規定
「売買契約は成立している」
2:権利障害規定
「錯誤無効である」
3:権利消滅規定
「債務は弁済により消滅した」
4:権利阻止規定
「こちらには留置権がある」
法律要件分類説においては,法律効果の観点から証明責任を分類する。それが上記4分類であり,これらのことを主張するものが,証明責任を負う。しかし,条文の文言だけでこれを行うと条文間の抵触を生じ,また当事者の公平に資さない場合もある。このため,形式から脱却した個別具体的な修正が必要となる。
・修正形
☆債務不履行の帰責事由(最判昭34・9・17)
☆虚偽表示における第三者の善意(最判昭35・2・2百選72)
↑民法94条2項の趣旨
☆土地賃貸借における背信行為と認めるに足りない特段の事情(最判昭41・1・27百選73)
★「証明妨害」東京地判平2・7・24百選74
<事実>
Xは自動車を貸したAが事故を起こし,自動車が全損したためYに保険金を請求したが,Yは,保険料遅滞を理由に保険金の支払いを拒絶。これに対してXは,保険料は支払ったと抗弁。が,証明するにも保険料を支払ったときにYが日付の入った領収書をくれなかったのだから証明のしようがない。
<判断>
このような場合,Yに日付入りの領収書を交付しないことにつき故意・過失がない限り,証明妨害があるというべきであり,証明責任は転換する。
<整理>
証明妨害とは,訴訟当事者が,相手方当事者の証拠修習・提出を妨害するなどした場合に,裁判所が事実認定の上で,妨害を受けた当事者の主張に対して,有利な調整を行うことをいう。訴訟における実質的平等の回復が目的。根拠は信義則違反。要件は△1:協力義務違反,△2:因果関係,△3:帰責事由。控訴審は過失→重過失として要件に絞りをかけた。
★「事案解明義務」最判平4・10・29百選75
<事実>
総理大臣がAに対してした原子炉設置許可処分に対し,伊方町の住民が取消訴訟を提起。
<判断>
立証責任は本来的には原告側にあるが,原子炉設置の安全審査に関する資料をすべて被告行政庁の側が保持していることなどの点を考慮すると,被告側において,被告行政庁の判断に不合理な点のないことを相当の根拠・資料に基づき主張・立証する必要があり,それがなされない場合には,被告行政庁がした判断に不合理な点があることが事実上推認される。
<整理>
ドイツのシュトゥルナーの理論がほぼ当てはまる。もっとも,この判決を訴訟上の信義則を根拠に証拠提出義務を認めたものと評価する見解もある。
■ 証明責任の軽減
・証明責任の転換
:特別の(立法政策の)場合に,法律上の規定により証明責任が転換されること。
ex.自賠法3条但書
・法律上の推定
:経験則があらかじめ法規化され,推定が法規の適用として行われるもの
→法律上の事実推定
前提事実→(推定)→推定事実→効果
→法律上の権利推定
前提事実→(推定)→効果
■ 間接反証
間接反証とは,ある主要事実について証明責任を負うものが,これを推認させるのに充分な間接事実を証明した場合に,相手方がこれと両立する間接事実を提示し,これによって主要事実への推認を動揺させる立証活動をいう。例えば,原告が被告工場の排出する液体により健康被害を被ったと主張し,その間接事実として,易学的立証活動を行った場合,被告は他の要因の存在により,その易学的立証は誤っているという間接反証をする必要がある。このように,間接反証は,相手方当事者の主張を動揺させるという面では反証であるが,結局のところ第二の立証ともいえるため,「実質的に証明責任の転換を認めるものだ」との批判もある。