詐害行為取消権

  • ●意義

債権者が責任財産の確保のために,債務者が債権者を害することを知って行った法律行為を取り消す権利(424〜426条)。

  • ♪趣旨

責任財産保全

  • 概要

「債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした法律行為の取消しを裁判所に請求することができる(424条)」という文面によれば,債権者は取消しができるだけで,他に何ができるのかが明らかではない。「責任財産保全」の趣旨のためには,取消しだけではなく,財産の返還請求が認められなくてはならない。しかし,取引の安全確保のために,善意の第三者を保護する必要もある。このため,債権者は具体的に「誰に」「何を」請求できるのかが問題となる。
まず,「責任財産保全」のためには,取消しだけではなく,財産の返還請求が認められなければならない。1度の訴訟で取消しと返還を認めることは,訴訟経済上も有益である。ただし,善意の第三者の保護のため,返還請求をできるのは,悪意の転得者・受益者になり,それらの者との関係においてのみ,法律行為の取消しが可能となる。
したがって,債権者は取消し訴訟において,「悪意の受益者・転得者」に対し「逸失財産の返還,もしくは価格賠償」を請求できる。

  • ▲要件

<@債権者>
△①被保全債権が金銭債権であること
  ∵責任財産保全
  ∴特定物債権であっても,金銭債権に変化する場合には要件を満たす。

たとえば不動産の二重譲渡の場合,債権者はその取消しをすることができない。が,不動産の引渡請求権が,損害賠償請求権(415条)になれば,取消しを請求できる。ただし,債権者のもとに直接その不動産が帰属すれば,177条の趣旨を潜脱するから,その不動産に対する強制執行による価格的な満足をうけうるにとどまる。

△②被保全債権が詐害行為以前に成立していること
  財産の保全なのだから,当然の原則。
  ただし,将来に債権が発生する蓋然性があれば認められる。
  履行期限が到来していなくてもよい。
  詐害行為後に発生した遅延損害金は,以前に発生した被保全債権に含まれる。


<@債務者>
△③詐害行為により,弁済に必要な財産を欠くこと(無資力)
  「必要な財産を欠く」状態にあればよい
    →物的担保があっても,足りなくなるのであればOK
△④債権者を害することを知りながらした(424条1項)財産権を目的とする法律行為であること(2項)
  ↑これら(主観・客観)は相関判断
  ・ボーダー判例
    不動産の相当価格での売却=だめ
      ∵費消しやすい金銭になる
    不動産の不当価格での売却=だめ
    弁済費確保のための不動産の相当価格での売却=OK
    生活費確保のための不動産の相当価格での売却=OK
    養育費確保のための譲渡担保設定=OK
    弁済=OK
    悪意通謀の弁済=だめ
    代物弁済=だめ
      ∵本来の債務の履行方法ではない
    離婚にともなう不相当な財産分与=だめ
      ↑不相当な部分についてのみ取消権肯定
        ↑慰謝料につき同旨
    遺産分割協議=財産権を目的とする法律行為
    相続放棄=身分行為≠財産権を目的とする法律行為


<@受益者・転得者>
△⑤債権者を害すべき事実を知っていること=悪意(424条1項但書)
  知らなかったときには,他の受益者・転得者において判断

  • ▼手続

▽裁判所への請求(424条1項)
  反訴でもOK
  抗弁ではだめ
  時効(426条)
    知ったときから2年間or行為のときから20年

  • 範囲

債権者が損害を受ける限度においてのみ認められる。
  ×例外→目的物が不可分の場合,全部につき認められる。

  • ◆効果

◇被告となった受益者・転得者との関係においてのみ取消しが認められる(相対効)
  +返還請求↓
    ・現物返還
      不動産・・・所有権移転登記抹消請求
      債権譲渡・・・債権の譲受人に対する債権譲渡取消し通知請求→第三債務者
        第三債務者に対する支払い請求はできない
      金銭・・・「私に,直接」←OK
      動産・・・「私に,直接」←OK
      不動産・・・「私に,直接」←だめ∵177条潜脱→“債務者へ”
    ・価格賠償
      現物返還が不可能or著しく困難な場合に限る
        ∵取消権者が事実上の優先弁済を受けてしまい,425条が空文化する
    ・価格賠償のみが認められる場合
      抵当権設定者への代物弁済

抵当権設定者への代物弁済として,不動産が譲渡され,それに返還請求が認められれば,取消権者及び債務者は,もともと抵当権のついていた不動産ではなく,抵当権がなくなってきれいになった不動産を取得することになり,詐害行為時よりも不当な利益を得てしまうことになる。反対に,抵当権がなくならない場合,たとえば抵当権が設定されていた不動産を譲渡担保に供したことが詐害行為とされ,これが取り消された場合,不動産が返還されても,取消権者及び債務者が不当な利益を得るということはないから,現物返還が認められる。

◇すべての債権者のために効力が生じる(425条)
  総債権者の共同担保になる
    総債権者⊃取消権が行使され,目的物を失い,不当利得返還請求権を得た者
      「みんな最初からやり直し」
      だから,優先弁済権はない
      ただし,先取特権はある(306条1号,307条1項)

とはいっても,価格賠償金を分配する明確な規定は存在しないから,取消権者が価格賠償を受けてしまったのであれば,それを他の債権者と按分する義務はない。
∵「“当然に”という効果は,規定があってはじめて認められる」
∵受益者が債権者の1人である場合,この者が自己の按分額を差し引いた額のみを返還できるとすれば,「総債権者」のためにならない。
そうすると,結局,取消権者が得をしてしまうことになる(立法不備)。
しかし,ルールを遵守した者が「負けるが勝ち」ということもできる。
  • cf.

http://zero-gyo.net/04/29.htm