証拠(総則)

● 意義

裁判所が事実認定のために用いる資料(民事訴訟法2編4章)。
当事者が自白した事実・顕著な事実証明の必要がないが,そうでなければ証拠によって証明する必要がある(179条)。

不要証事実 これには当事者主義から「当事者に争いのない事実」と,客観主義から「顕著な事実」の2点がある。
当事者に争いのない事実には,自白はもちろんだが,消極的自白ともいうべき「擬制自白」(159条)が含まれる。また,顕著な事実は「公知の事実」と「職務上顕著な事実」に二分できる。公知の事実は「あ〜,誰でも知ってるよね」という事実だが,職務上顕著な事実は裁判官が職務上知りえた事実とされ,具体的には他の事件資料を調査した結果,裁判官が知りえた事実をいい,裁判官が調査前から知っていた「私知」は含まれない。客観性が担保できないからである。これらのうち,顕著な事実は単に不要証事実であり,当事者が承服できなければ争うことは可能だが,当事者に争いのない事実に関しては,自白が絡むため,一概にそうはいかない。

証拠方法
   取調べの対象となる有形物。
   人証物証がある。
証拠資料
   証拠方法の取調べから採取された資料。
証拠原因
   証拠資料のうち,裁判官の心証形成の起訴となった資料。
証拠能力
証明力
直接証拠
   主要事実(要件事実)を証明するための証拠。
間接証拠
   主要事実を経験則上推認させる証拠。
証明
   裁判官が確信を抱いた段階。
   裁判官に確信を抱かせるために当事者が証拠を提出する行為。
疎明
   裁判官が一応確からしいと心証を抱いた段階。
厳格な証明
   フォーマルな手続きによった証明。
自由な証明
   フォーマルな手続きによらない証明。


■ 自白

  • ●意義

相手当事者の主張する自己に不利益な事実を認める行為で,期日になされるもの(裁判上の自白)。

  • ▲要件

△1:弁論期日になされたもの
△2:相手方の主張と一致している
   ⊃先行自白
△3:自己に不利益な事実を認めている

?自己に不利益な事実とはどのような意味か。
その陳述が採用されれば,敗訴の可能性があるものをいう。訴訟上の不利益とは,究極的には敗訴であり,敗訴につながりそうな事実を認めることは,不利益な事実を認めることと同旨できるだろう。証明責任にメルクマールを求める見解もあるが,証明責任自体が基準として不明確であり,妥当ではない。もっとも,どのような事実を認めることが敗訴の可能性につながるか,それ自体も不明確であるとの反論も考えられるが,少なくとも証明責任説よりは実態に即した判断ができるため有用であると考える。
?そもそもこの場合の「事実」は主要事実のみをいうのか。
そうである。間接事実は他の証拠資料と同等の扱いになる以上,それについての自白の評価は裁判官の自由であり,拘束力はない。
  • ◆効果

◇裁判所・自白当事者への拘束力(不撤回効)
   ∵自己責任 + 禁反言
   ・撤回が許される場合
      1:相手方の同意がある
      2:第三者の刑事上罰すべき行為によってなされた
         ∵自白当事者の意思に瑕疵がある
      3:自白が真実に反し,かつ錯誤によるものであることが証明された場合
         ∵自白当事者の意思に瑕疵がある
         ☆真実ではないことの証明があれば,それは錯誤によるものであると認めることができる(最判昭25・7・11)。
            ↑☆無過失を要しない(最判昭41・12・6)

★「権利自白」最判昭30・7・5百選63
<事実>
YはXに対し,消費貸借について作成された債務名義を基に強制執行をかけたところ,Xが請求異議の訴え。
1審は,13万円の消費貸借契約が成立したことにつきXとYの間で争いがないとし,その上で2万円の弁済を認め,11万円分についてのみ強制執行を許可する旨の判断をした。が,2審になってXは,そもそもこの貸付では13万円から天引きが行われ,交付されたのは11万500円にすぎないと主張。この主張につき東京高裁は,自白の取消しの要件を満たさないことを理由に退ける決定をし,控訴棄却。
<判断>
破棄差戻し。
消費貸借に際して利息の天引きが行われたような場合,いくらの額について消費貸借が成立したかは法律効果の問題だから,これについての陳述は,要件(主要事実=本件消費貸借の成立)についての自白に伴ってなされたものと見るべきであり,直ちに自白と目するべきではない。したがって,自白の取消に関する法理の適用は許されない。
<整理>

φ(..) 請求の認諾 権利自白 自白
相手方の主張する・・・ 訴訟物を認める 法律上の主張を認める 主要事実を認める
根拠としては・・・ 処分権主義 裁判所の職責 弁論主義

権利自白の否定説(この判例など)は権利関係の成否は裁判所の判断にゆだねられていることを論拠とするが,請求の認諾・自白が認められていることとの整合性が問題となる。議論の背景には,要するに「法律問題はややこしいが,そうすると,これについての判断はプロの裁判所の任せるべきか,否か」という問題意識あるように思えるが,場合によりけりだろう。つまり,一概に肯定否定を断ずることはできない(根拠では勝負がつかない。もっとも,これは事案による)が,やはり,請求の認諾・放棄が認められることとの整合性から,権利自白は認められるとすべきである。ひっくり返すと,一般的に権利自白は認められるが,当事者の法的理解が不充分であれば認められない場合もある。