既判力

● 意義

確定裁判による判断事項が後訴裁判所・後訴当事者を拘束する訴訟法上の効力。
①訴訟物が同一の場合,②先決問題の場合,③矛盾関係の場合,にそれぞれ作用する。
職権調査事項。
終局判決にはあるが,中間判決にはその手続内に限ってしかない。
決定・命令は実体判断の場合にはあるが,手続判断(訴訟指揮)の場合にはない。
非訟事件にはない。∵公開裁判を受ける権利の保障。
仲裁判断にはある(仲裁法45条1項本文)。
標準時
   権利・法律関係が確定する時期。
   事実審の口頭弁論終結時。∵自己責任。
客観的範囲
   物的範囲。
   主文に包含するものに限り生ずる(114条1項)。
主観的範囲
   人的範囲。
   普通は当事者に限り生ずる(115条1項1号)。

  • ♪趣旨

♪裁判の確定による法的安定性の確保
   ↑当事者の自己責任
      ↑手続保障


■ 標準時(時的限界)

自己責任の趣旨により,訴訟資料が提出できる最後の機会である事実審の口頭弁論終結時以後は,基準時前に存在した事由を提出することはできない(遮断効)。しかし,各種形成権の場合は提出できた場合であっても,あえて提出しない場合もありうる。そこで,それぞれの形成権につき,遮断効が働くのか否かが問題になる。

  • 形成権

★「取消権」最判昭55・10・23百選86
<事実>
YはXを被告として売買に基づく所有権確認の訴えを提起,勝訴。だが,その後の後訴でXは本件売買契約は詐欺に基づくものであるとして取消を主張。
<判断>
詐欺による取消権の主張をできたのにしなかった場合には,もはやその後の訴訟において取消権の主張はできない。
<整理>
∵詐欺の問題は,売買契約そのものの問題に直結する。無効が遮断されることとのバランス。
解除の場合にも妥当。

★「白地補充権」最判昭57・3・30百選A31
<事実>
一旦は振出日欄が白地であることを理由に棄却の手形判決を得た原告が,今度はその白地を補充して再度手形訴訟を提起。
<判断>
前訴と後訴は法律関係を異にするものではない〔既判力〕。
白地補充権の行使ができたのにそれをしなかった場合には,白地を補充して後訴を提起して権利を主張することは特段の事情がない限り許されない〔遮断効〕。
<整理>
反対:実体法上,白地補充権はいつでも行使できる。白地を補充しないで勝訴してしまった場合,相手方不利になる。
賛成:白地を補充しないのは自己責任。相手方の利益も考えるべき。
結論賛成:遮断効はないが,信義則により遮断することも考えられる。

★「建物買取請求権」最判平7・12・15百選87
<事実>
土地の賃貸借終了に基づく建物収去土地明渡請求の認容後,前訴被告の賃借人が建物買取請求権を行使。
<判断>
既判力にも争点効にも触れない。
建物買取請求権は,建物収去土地明渡し請求権とは別個の制度目的・原因に基づいて発生する権利である。

☆相殺権
   肯定(最判昭40・4・1)
   ∵自働債権と訴求債権は別。
      →前訴での行使は期待できない
☆時効援用権
   否定(大判昭14・3・29)

  • 限定承認

★「パパの借金払いま」最判昭49・4・26百選A33
<事実>
前訴では「相続財産の限度で……支払え」との勝訴判決を得た当事者が,後訴では実は単純承認だったのではないか(921条3号)と主張。
<判断>
前訴の訴訟物は債権の存否・範囲だが,限定承認の存否・効力も審理判断されているし,主文にも書いてある。したがって,前訴の判断は既判力に準ずる効力があるし,信義則上の観点から遮断効も考えられる。
<整理>
微妙な案件。単純承認であったことを容易に知りえたかどうかは微妙。もし知りえたとしても,相殺の場合と同様に前訴での行使は期待できないとも考えられるだろう。

■ 客観的範囲

第114条  確定判決は、主文に包含するものに限り、既判力を有する。
2  相殺のために主張した請求の成立又は不成立の判断は、相殺をもって対抗した額について既判力を有する。

  • ◎原則

主文に包含するものに限り既判力が生ずる。

  • ×例外

相殺の抗弁

  • 争点効
?争点効とは何か。
争点効とは,前訴において当事者が主要な争点として主張・立証を尽くし,かつ裁判所が実質的に判断を下した事項が有する通有力である。争点効が認めれば,同一の争点を主要な先決問題とする後訴の審理において,前訴裁判所の判断に反する主張立証が禁じられることになる。

http://www.ritsumei.ac.jp/acd/gr/hoka/06zminso.htm

?認められるか。
一律には認めがたい。確かに,争点効が妥当する場面も考えられるが,「主要な争点」という外延が不明確である。また,これを認めることにより裁判所の審理が萎縮し,訴訟の遅延も考えられる。争点に既判力を認めたければ,中間判決を用いるべきだろう。
?では争点効はまったく認められないのか。
形式的に認めるのは難しいが,信義則(2条)を適用して,事案ごとに判断し,実質的に認めることは可能だろう。
?その場合の要件は。
2つの場合が考えられる。1つは前訴になした主張に反する主張を後訴においてする場合(禁反言),1つは前訴で主張できたのにそれをせず後訴でした場合(権利失効)である。これらのいずれかに該当する場合,信義則違反を問いうる。

■ 主観的範囲

第百十五条  確定判決は、次に掲げる者に対してその効力を有する。
一  当事者
二  当事者が他人のために原告又は被告となった場合のその他人
三  前二号に掲げる者の口頭弁論終結後の承継人
四  前三号に掲げる者のために請求の目的物を所持する者
2  前項の規定は、仮執行の宣言について準用する。

  • ◎原則

当事者にのみ及ぶ(相対効)。

  • ×例外

×1:訴訟担当における利益帰属主体

?訴訟担当者と利益帰属主体とに利害対立がある場合はどうなる。
利害対立があっても既判力は利益帰属主体に及ぶ。訴訟担当者は,法律上管理処分権を有しているし,もし既判力が及ばないとすれば,相手方は利益帰属主体から再訴を受ける可能性があり,問題がある。

×2:口頭弁論終結後の承継人
   ・承継人の範囲
      a 権利義務の承継人
          一般承継か特定承継かは不問
          原告か被告かも不問
          敗訴当事者か勝訴当事者かも不問
          承継原因も不問
      b 訴訟物の法的地位の承継人
   ・固有の抗弁の承継
×3:請求の目的物の所持人
   ex.受寄者・管理人

?仮装譲受人は目的物の所持人ではないのではないか。
形式的に判断するとそうなるだろう。しかし,既判力を及ぼしえないとすると原告は仮装譲受人に訴訟承継をさせる必要があるが,そもそも仮装譲渡が行われたことを原告が知りえる場合は少ない。さらに,仮装譲受人には保護すべき実体法上の権利がないのだから,仮装譲渡か否かの判断過程においてこのものに手続保障を与えれば充分といえる。

×4:それ以外
×5:法人格否認の法理の背後者