悲喜交々

■ 事例

この冬は例年にない大雪となり,各地で災害が発生した。特に,東北地方のA県のB地方では豪雪被害がひどく,地域のほとんどの家が雪の重さに耐え切れずに倒壊するほどで,この事態はマスメディアを通じて全国に知れ渡っていた。そんなA県のB地方に住むXもこの豪雪の被害者となり,自宅が倒壊したため,Xはやむなく近所の小学校に他の多くの被害者と身を寄せ合い避難生活を送っていた。
クリスマスを目前に控えた12月20日,ふとXは12月の初旬に神戸のマクロビオティックのケーキ屋さん(Y)にインターネットでクリスマスケーキ(有精卵使用のブッシュドノエル)を予約していたことを思い出した。しかし,自宅は倒壊しているし受け取ることができないだろうし,第一,こんな状況でクリスマスケーキなんて食べている気分ではないから,注文をキャンセルしようと考え,携帯メールでキャンセルの連絡をすることにし,メールを送信した(しかし,この豪雪の影響で携帯電話会社の施設も不調となっており,Xが送信したメールはYに到着せずに消失した)。
そして,12月24日,キャンセルの連絡を知らないYはクリスマスケーキをXへ送付,翌25日,ケーキはXの手元にとど・・・くかと思われたが,案の定,雪による交通麻痺と倒壊したXの自宅のせいで配達員がXにケーキを届けたのは27日になってしまった。Xとしては,25日にケーキが届いても微妙な気分だったが,27日に届いたケーキもなおさら無意味に感じられた。このケーキは代金引換で注文していたため,ケーキを届けた配達員に代金を請求されたが,避難生活で手元に現金がないこと,およびキャンセルの連絡をしたことを理由にXは支払いを拒絶したが,ケーキを受け取らないとせっかく作ってくれたケーキ屋さんに申し訳ないということで,とりあえずケーキを受け取って,後で代金の減額を交渉しようと考えた。

  • Xの言い分

クリスマスケーキの代金は払いたくないと考えています。こちらは自宅が倒壊したせいで手持ちの現金が一切なく,実質的に破産状態ですし,第一,クリスマスケーキは25日に届かないと意味がないのではないでしょうか。それでも受け取ったのは,せっかく作っていただいたケーキ屋さんへの尊敬の気持ちであって,決して問題なくケーキを受け取ったというわけではないです。それに,キャンセルのメールは送ったので,その時点で注文はキャンセルされているはずじゃないですか。大体,キャンセルのメールを送らずとも,こちらが雪でひどい状況であることくらいテレビを見ればわかるじゃないですか。そういうわけで,こちらとしては代金は払いたくないですが,全額ではなく一部なら払ってもいいと考えています。ケーキ,美味しかったので・・・

  • Yの言い分

クリスマスケーキの代金は全額支払っていただきます。こちらとしては,Xさんに注文していただいたとおりのケーキを送ったので,非はありません。もし,キャンセルのメールが届いていればキャンセルの手続をしていたところですが,メールは届いていません。運送が遅れたのは,天候による不可抗力と,Xさんの自宅が倒壊していたことが原因になっており,やはりこちらには非はありません。


? 問題

XとYの主張における問題点を検討し,Xの請求のためにとりうる法的手段をすべて検討し,最終的にXの請求が認められるか否かを判断せよ。
なお,携帯電話会社,運送会社の責任は独立して問題にする必要はない。