同時履行の抗弁権

● 意義

相手方の債務の履行までは,自分方の債務の履行を拒むことができる契約の効力(民法533条)。

第五百三十三条  双務契約の当事者の一方は、相手方がその債務の履行を提供するまでは、自己の債務の履行を拒むことができる。ただし、相手方の債務が弁済期にないときは、この限りでない。

留置権との異同 同時履行の抗弁権は契約から発生する債権的抗弁である。これに対して留置権は,物から発生する債権に関する物権的(担保的)抗弁である。したがって,前者は契約相手方のみにしか主張できないのに対して,後者は誰に対しても主張することができる。この点,両者は公平性の確保という点においては機能を一にするが,留置権は担保性があることに特徴があり,このことから不可分性(296条),代担保提供による消滅(301条)などが認められる。しかし,担保性を認めるのであれば必ずしも不可分性を認める必要はないだろうし(可分な物もあるはずである。たとえば,100個の時計にダイアモンドをつけた場合には50個分の代金は支払うから,50個はよこせ),また,同時履行の抗弁権においても別内容の給付が当事者の合意において行われれば,それは代担保提供とある程度同視することもできるだろう(たとえば,10万円のワインの売買契約で,目的のワインを調達できなかったから,1万円のワインを渡すので,5千円は先にください)。
  • ♪趣旨

♪契約当事者の公平性確保


▲ 要件

△同一の双務契約から生ずる両債務の存在


△両債務が弁済期にある
   契約内容に一方の先履行義務があればだめ

?先履行義務者が履行しないでいるうちに,後履行義務者も履行せず,双方ともに弁済期を徒過した場合に,後履行義務者が単純請求をしたら,先履行義務者に同時履行の抗弁権は認められるか
先履行と後履行の期間の長短によるだろう。たとえば,双方の履行が1日程度の違いであれば,同時履行の抗弁権を認めるのが当事者の公平に適うだろうが,これが1年間であれば微妙である。
?では,相手方の履行可能性が極めて低い場合,たとえばAに先履行義務がありBが後履行義務者である場合,Bの履行可能性が著しく低い場合でも,Aは履行の提供をしなければ同時履行の抗弁権は主張できないか。いわゆる不安の抗弁の可否
履行可能性が著しく低い後履行者が存在する契約は公平性を欠くため,90条を参酌し不安の抗弁を認める余地がある。


△相手方の単純請求

不完全履行の場合にはどうなる
程度によるだろう。9割方の履行が行われているのに抗弁権を認めるのは公平ではないだろうが,1割にも満たないようであれば認めるのが公平に適うだろう。
?では,AB間の契約において,一旦Aが履行の提供をしたがBが受領を拒絶し,その後Bが履行の提供をした場合,Aが同時履行の抗弁権を主張するには,Aは履行を継続する必要があるか
必ずしも提供の継続は必要ではないが,信義則上,要求を受ければ迅速に履行ができる状況にしておく必要はあるだろう。この場合,Aは一度履行の提供を行い,それをBが拒絶したのであるから,それ以降に生ずる問題は危険負担的思想によりBが負うべきであるというのが原則だが,だからといって,履行の提供を不要とするのも同時履行の抗弁権的思想である公平の原則に反する。

◆ 効果

◇履行拒絶できる
   →履行遅滞にならない
   →相殺されない
   →引換給付判決が得られる