表見代理

● 意義

無権代理行為を相手方の正当な信頼を保護するために有権代理行為として扱う制度。
・代理権範囲内型(109条)
・越権型(110条)
・消滅後型(112条)
・越権+消滅後型

  • ♪ 趣旨

♪取引相手方の正当な信頼保護

■ 109条

(代理権授与の表示による表見代理
第百九条  第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について、その責任を負う。ただし、第三者が、その他人が代理権を与えられていないことを知り、又は過失によって知らなかったときは、この限りでない。

  • ▲要件

△代理権の表示
   ex.白紙委任状の交付・未回収

白紙委任状の交付は代理権授与行為か
その白紙委任状が,客観的にどの程度の完成度を有するかによるだろう。委任状のほとんどが白紙であれば,それを代理権の表示として捉えることは困難であり,これを相手方が代理権の表示だと信頼しても,過失あり,ということになる。

★「東京地裁の表見責任」最判昭35・10・21
一般に、厚生という言葉は、ひろく健康を維持しまたは増進することという意味で用いられているのであるから、「厚生部」その他類似の名称の付された組織体があるときは、その活動範囲は、職員のための生活物資購入等にとどまるものではないのが普通である。したがつて、職員のための物資購入の事務が官庁の事務であることは、原判示のごとく、通常ありえないとしても、このことからただちに、「厚生部」が一般に官庁もしくはその一部局であると人をして認識せしめるに足りないものということはできない。また、原審が、裁判所というだけでなんびとにもその職務権限事務内容のおうよそが理解されうる官庁については、「厚生部」という名の存在がその名の示すような事務内容をもつて、裁判所の一部局としてあり得ると解する如きことは、通常人の注意を用いる者にはおこり得ないと解しなければならないと判示したことは、少くとも、事務局総務課に厚生係がおかれていることを忘れたものと評せざるをえない。

△代理権の範囲内
   範囲外なら110条
   範囲内・範囲外不明なら110条重畳も(最判昭45・7・28百選25)
△善意・無過失

■ 110条

(権限外の行為の表見代理
百十条  前条本文の規定は、代理人がその権限外の行為をした場合において、第三者代理人の権限があると信ずべき正当な理由があるときについて準用する。

  • ▲要件

△代理権の表示
   ☆機関方式による手形振り出しに類推適用(最判昭43・12・24)
   ☆本人の行為だと思った場合に類推適用(最判昭44・12・19)
   ☆本人の過失は不要(最判昭34・2・5百選27)
△代理権の範囲外
   範囲内の代理権 ←基本代理権
   ・基本代理権
      ☆権限外行為と関係なくてもよし(大判昭5・2・12)
      ☆私法上の行為についての代理権(最判昭39・4・2)

?公法上の代理権でも一切,基本代理権となることはないのか
信頼を保護すべき第三者の有無によるだろう。たとえ代理権の授与が公法上の行為についてなされたものであるとしても,私法上,第三者の信頼保護の必要性があれば,公法上の行為についての代理権の授与も,基本代理権となる。

★「公法と見せかけて私法」最判昭46・6・3百選26
<事実>
AはXから融資を受け,担保提供を求められていた。一方,AはYから土地をもらい,移転登記をしていなかったことから,手続きのためと称し,Yから実印・印鑑証明書・土地登記済書の交付を受けた。この流れの中,AはYを担保提供者兼連帯保証人とする契約書を作成し,Xに提出した。基本代理権は登記手続=公法上のもので,権限踰越の代理行為は保証契約=私法上のものである。
<判断>
単なる公法上の行為についての代理権は民法110条の基本代理権にはあたらないが,その行為が特定の私法上の取引行為の一環としてなされるものであるときは,第三者の信頼を保護する必要がある。したがって,本件の登記申請行為についての代理権授与は,基本代理権である。

△正当な理由
   ◎正当な理由有り
      ☆他人に対する実印交付(最判昭35・10・18)
      ☆本人の留守中財産管理を任された本人の実印を有する本人の妻の姉妹(最判昭31・9・18)
   ×正当な理由有りとはいえない
      ☆戦地に赴任する夫の実印を所有する妻「代理権あります」(最判昭27・1・29)
      ☆妻が夫の代理人として夫の土地売却(最判昭36・1・17)

■ 112条

(代理権消滅後の表見代理
第百十二条  代理権の消滅は、善意の第三者に対抗することができない。ただし、第三者が過失によってその事実を知らなかったときは、この限りでない。

  • ▲要件

△代理権の表示
△代理権の消滅
   ¬⊃はじめから代理権が存在しない場合(大判大7・6・13)
△善意・無過失

◆ 効果

◇本人+無権代理人の責任
   第三者の選択により↓
      本人に効果帰属
       or
      無権代理人の責任(効果帰属or損害賠償)
       or
      取消