使用者責任

● 意義

被用者が事業の執行につき第三者に加えた損害を,使用者が賠償する特別責任(民法715条)。

(使用者等の責任)
第七百十五条  ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
2  使用者に代わって事業を監督する者も、前項の責任を負う。
3  前二項の規定は、使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない。

=報償責任+危険責任
免責事由(1項但書)←挙証責任の転換→中間責任無過失責任

企業責任 使用者責任は特別的不法行為の中でも,特に,人的企業責任を想定しているといわれる(物的企業責任は工作物責任)。したがって,立法者はこの責任を中間責任としたが,しかし,無過失責任とはしなかった。では,今なぜ無過失責任と普通にいわれるかというと,当時より企業が巨大化し,無過失責任を負わせるべき背景が出来上がったから,といえる。負うべき責任の根拠となる,報償・危険の度合いが高まっているのである。およその判例を見れば,いかにして,使用者責任を認めるか,という解釈に苦心していることが見て取れる。
過失責任の原則と使用者責任 民法の原則のひとつに過失責任の原則があるが,使用者責任が無過失責任であるとすると,使用者責任民法の原則に反することになる。しかし,民法の最重要原則は「私的自治の原則」である。私的自治の原則は,要するに,「個人はそれぞれの意思において自由・平等!」ということだが,自由・平等であるからこそ,契約は自由にしていいし(契約自由の原則),行為には過失がなければ責任は問われない(過失責任の原則)。つまり,契約自由の原則・過失責任の原則は私的自治の原則を裏から支える役割を持つのであって,この二つの原則は,私的自治の原則のために,実質的に捉える必要がある。そこで,この「実質的に捉える」ことがそれぞれの場面で問題となるのである。
たとえば,意思が充分でないのに,責任だけ負わせるのは問題だろう・・・だから,712条があり,713条がある。では,そのような場合には誰も責任を負わないのか,被害者救済に問題が生じるではないか,ということで監督者に責任を負わせる(714条)。暴力団の組長にも,使用者責任を認める(判例)。このように,過失概念は時代とともに変容している。使用者責任の無過失責任化も,この現れである(戦後の判例において,無過失による免責は認められていない)。

★「暴力団組長の使用者責任最判平16・11・12重判民法8
<事実>
甲組はYを頂点とする日本最大の暴力団で,たびたび乙組と抗争を繰り返していたが,甲組の3次組織である丙組の組員が,乙組系丁組の組員を拳銃発砲により負傷させ,その際,同じ丙組の組員を誤って負傷させた。
甲組(Y)>>丙組(A) → 丁組<乙組
この一報を聞いた丙組の組員Bは,丙組の組員が乙組の関係者によって負傷させられたものと誤解して,乙組関係者を殺害し,丙組・甲組へ貢献しようと考えた。そこで,丙組の配下にあるCに車を運転させ,丁組事務所前に到着,そこにいた丁組の組長へ向けて銃弾3発を発砲,組長は死亡・・・したかに見えたが,じつはそれは警戒配備中の警察官Dだった。
このDの妻子らXが,BCに不法行為責任,AYに共同不法行為責任・使用者責任を追及したのが本訴であり,争点はYの責任である。Yの責任について,1審は否定し,ABCの共同不法行為責任だけを認めたが,原審は,Yの使用者責任を肯定した。Yは,使用者性・事業執行性を認めた点について,715条の解釈の誤りを理由に上告受理申立て。
<判断>
上告棄却。
使用者性:甲組のYは資金獲得活動にかかる事業について,下部組織の構成員を直接間接の指揮監督の下,従事させていたということができるから,715条の使用者と被用者の関係が成立している。
事業執行性:対立抗争は事業である資金獲得活動と密接に関連する行為である。
<整理>
警官と組長・・・似てたのかな。

▲ 要件

事業のための使用者・監督者であること
   営利非営利関係なし・・・「仕事」 ←報償責任
   指揮監督関係があればよし(大判大6・4・16)
      ◎→弟をアシに使う兄(最判昭56・11・27)
      実質的なものに限る ←具体的事実から判断
         ×→元請人の下請人の被用者の非事業執行(最判昭37・12・14)
            ※注文者責任(716条)


△「事業の執行について」
   =使用者の事業領域⊇被用者の事業領域
      ・使用者の事業領域=主業務+付随的業務
      ・被用者の事業領域=?

?被用者の事業領域を使用者の事業領域内にとどめてしまえば,被用者の事業外の不正行為の責任を使用者に負わせることができず,使用者責任の趣旨を生かすことができない
使用者責任の趣旨は,被用者の行為を信頼した第三者を救済するものであるから,責任の要件として,必ずしも,被用者の事業と被用者の事業の一体性を必要とすべきではない。第三者が信頼した外観が存在すればよいのである(昭和40年最判参照)。
信頼自体の問題 外観への信頼自体に問題があれば,使用者責任を発生させるのもまた問題である。この点,信頼が悪意のものであれば信義則により排除,重過失によるものであれば過失相殺によるべきである。
?外観への信頼というなら,事実行為にはそれは存在しえないはずである。事実的不法行為には使用者責任を認めなくていいのか
確かに,事実的行為には信頼はありえないから,外観の存在を要件とした場合には,使用者責任はありえない。しかし,このような場合でも,使用者が被用者の行為を制御しえたのであれば,責任を問いうる。使用者責任は,使用者の被用者の選任・監督上の過失を問うからである。


△第三者の損害発生
   ・三者=¬使用者∩¬加害被用者
      ⊃運転手と運転助手の自動車共同運行の場合の運転助手(大判大10・5・7)

?運転助手に過失があればどうなる
運転助手に過失があったとしても,第三者性を否定する理由はない。しかし,過失を評価しないわけにはいかないから,責任の公平化は過失相殺により実現する。


△被用者に一般的不法行為の要件が備わっていること
   ∵求償権(3項)の存在
   →失火の場合は故意∪重過失


△免責事由の立証不存在
   被用者の選任と事業の監督について必要
   ・相当な注意
      相当:それ相応→具体的状況によって変わる

★「相当の注意」最判昭36・1・24
相当の注意をなすも損害が生ずべかりしときとは、使用者が注意をなさなかつたことと、損害の発生との間に因果関係のない場合を意味する・・・

◆ 効果

◇使用者・代理監督者の損害賠償責任(1項2項)


◇被用者の一般不法行為責任(709条)
   使用者責任とは独立して発生する
   使用者責任とは不真正連帯債務関係


◇使用者の被用者に対する求償権発生(3項)

求償権制限 求償権を認めることは,条文上,または本来の責任が被用者にある(709条)ことからすれば当然ではある。しかし,使用者責任は使用者の報償責任をその根拠に持つ(危険責任を根拠に解すれば,無過失責任は認められにくくなる。危険性の存在は,被用使用関係の本質ではないからである)。このことからすれば,使用者責任は,被用者の責任を使用者が代位する責任ではなく,使用者そのものの自己責任であるといえる。そして,求償を行ったとしても,被用者は資力に乏しく実益がない。これらのことから,求償権を制限しようとする考えが出てくる。

★「求償権制限」最判昭51・7・8民法百選Ⅱ82
求償の請求は,事業の性格,規模,施設の状況,被用者の業務内容,労働条件,勤務態度,加害行為の太陽,加害行為の予防もしくは損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし,損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において,することができる。