愛は無償

■ 事例

NPO法人「梅雨の谷間の晴れ」(NPO法による認証取得済み)は,ネットバブルにより巨万の富を得たAが,ポケットマネーの50億円を投じ,廃れつつあるサーカス文化の復興と,子どもたちへ夢を与えることを目的として創立したサーカス団である。観覧料は高校生以下に限っては無料であり,それ以外の者であっても500円しか徴収しないため,興行による収益はまったくといっていいほど,ない。また,団員の給与等もすべて,Aが負担している。しかし,運営を実質的に仕切っているのはAの友人であるBであり,B自身もAから給与を得ている。
そろそろ夏休みという7月中旬,このサーカス団は○○県で新たな興行を開始するために,県有地に許可を得て,興行用の巨大テントを組み立てようとしていた。しかし,梅雨も明けていないこの時期,地面のぬかるみのため,いつも組み立てを任されている団員らだけではうまくいきそうになかった。そこで,団員らがBに,テントの組み立ては今回に限り外注するように頼んだところ,Bはこれを承諾し,7月16日,県内で主に建設事業を営む株式会社甲の事業部部長Cにテントの組み立てを依頼することにした。
依頼を受けたCは,即日,従業員D・E・Fら数名を派遣,工事は着々と進んでいた。ところが,Aの愛人であるZが「サーカス見たい。私の誕生日(7月18日)に。私だけのために」と言い出したため,AはBに7月18日までに工事を完成させるように指示した。Bはいったんは無理だと断ったものの,結局これを受諾。BはCにこのことを伝え,Cもこれをいったんは無理だと思ったものの,結局またこれを受諾,現場のDらに伝えた。D・E・Fらもそんな突貫工事は無理だと思ったが,会社のいうことには逆らえず,Zの誕生日に間に合わせるために夜を徹してテントを組み立てることとなった。
そんな7月17日の深夜,テントを組み立てるために作業員全員で組み立てた足場が,寝不足のDの不注意(足場にもたれかかっていた)により崩れ,近くの歩道を自転車で通行中のGを直撃した。
「大丈夫ですか!?」
とD・E・Fが近寄っても,Gは微動だにしない。呆然とするDを尻目に,E・Fは救急車を呼ぼうかと思ったが,作業用に自動車もあり,また,深夜で道路もすいているだろうということで,Eの運転でGを近くの病院に運ぶことにした。自動車の中でGを介護・および運転の指示をするのは看護師資格を持つFである。
Eはこの辺の土地に不慣れであったため,Fの指示を受けながら,慎重に,かつGを早く病院に届けるためにスピードを出していた。Fも,Eに指示を出しながらも,やはり,気になるのはGの状態であった。FがGを励ますために,手を握りながら顔を見ていると,Gが細々とした声で何かを言う気配を見せた。
「・・・あぅ,ぁした,っ,てすとぉ・・・」
このことが何を示すのかFにはわからなかったため,耳を傾けてGの声を聞こうとした・・・と,そのとき,「キー!!!!!」という音とともに急ブレーキがかかり,車が停止した。Fが前方を見ると,車のヘッドライトに照らされた人(H)の倒れた姿が目に入った。呆然とするEを尻目に,Fが車から外に出て確認すると,やはり,人が倒れている。FがEにこの事情を確認すると,Eは,Hが急に飛び出してきて,急ブレーキをかけたが間に合わなかった,と弁解した。Hはその場に倒れたまま応答がなかったが,近くにいた目撃者もそのようにいい,さらには,Hとついさっきまで一緒にいた友人の中には,Hの自殺意図を言う者もいる。
この後,何とかしてGは病院に運ばれ,大腿骨骨折の重傷を負ったが意識を回復し,Hも頚椎捻挫の軽傷ですんだ。


? 設問

  1. A・B・C・D・E・F・Zそれぞれには,民法上(特別法は含まない),どのような責任が発生しうるかを論ぜよ。