共犯の諸問題

  • 共犯と身分

○身分

最判昭和27・9・19
身分は、男女の性別、内外国人の別、親族の関係、公務員たるの資格のような関係のみに限らず、総て一定の犯罪行為に関する犯人の人的関係である特殊の地位又は状態を指称する・・・

   ⊃営利の目的?
   ・構成的身分→真正身分犯
   ・加減的身分→不真正身分犯


○真正身分犯(65条1項)
   ⊃共同正犯
      ∴女にも強姦罪が成立しうる(最決昭和40・3・30)

?身分者が非身分者を手助けした場合,身分者に真正身分犯の狭義の共犯が成立するか
前掲の例でいえば,男が女を手助けし,女に強姦をさせた場合が考えられるが,この場合,女は構成要件該当行為をなしえないのであって,これに対する教唆・幇助もなしえないことになるから,身分者には真正身分犯の狭義の共犯が成立しない。もっとも,女に道具性が肯定できれば,男に強姦の間接正犯を問うことは可能であろう。
?非身分者が身分者を手助けした場合はどうか
共犯が成立する。


○不真正身分犯(65条2項)

★「非身分者+真正身分犯+不真正身分犯」最判昭和32・11・19百選Ⅰ90
<事実>
公務員であるXとYは,公金の横領罪に問われたが,公金の管理・保管自体はZが行っていた。業務上横領罪(253条)は「自己の占有」が身分として必要であるはずだが,1審・原審ともXとYに単純に業務上横領罪を認めた。
<判断>
破棄自判。
公金の管理・保管をしていたのはZなのだから,XとYは65条1項により業務上横領罪の共同正犯となる。しかし,XとYには「自己の占有」という身分がないから,65条2項により,通常の横領罪(252条1項)の刑が科される。

  • 共感関係からの離脱

着手前の離脱
   「おれは降りさせてもらう」「わかった」←OK(福岡公判昭和28・1・12)
   首謀者的地位にある者は,共謀関係の解消が必要(松江地判昭和51・11・2)


着手後の離脱
   因果性の切断が必要

?因果性とはどのような意味か
共謀の段階で転がり始めた実行というボールのことをいう。心理的なもの,物理的なもの双方を含む,社会学的な因果性のことである。

   「おれ帰る」←だめ(最判平成1・6・26百選Ⅰ93)


共謀の射程

★「思いデニーズ」最判平成6・12・6百選Ⅰ94
<事実>
cf.現場地図
バブル経済まっただ中の昭和63年10月22日,被告人Xは,近く海外留学する友人Eの送別のため,中学時代の同級生であるA・B・C・Dらと茗荷谷デニーズで食事をした。その後,午前1時ころ,別れがさびしかったのか,路上駐車をしていたAの車のそばでみんなで雑談をしていると,そこへ,酔っ払った中年男性Gが通りかかり,車のアンテナに服を引っ掛け,アンテナを曲げ,謝りもせずそのまま立ち去ってしまった。カチン,ときたAは,
「ちょっと待て」
とGに声をかけたが,Gは無視。が,しばらくして戻ってくると,
「おれにがんつけたのは誰だ」
と集団に声をかけた。これに対し,Aは,
「おれだ」
と応答。すわ,AとGのけんかがはじまる,と思いきやGはAの目の前にいたDの髪をつかみ,引き回すなどの暴行を開始。被告人らはこれを止めようとしたが,なかなかうまくいかず,不忍通りを渡り,駐車場まできたところでようやく引き離すことができた。これでようやくGも観念した・・・かと思われたが,
「馬鹿野郎」
と被告人らに悪態をつくなど,まだまだ戦闘意欲は旺盛である。まず,BがGに殴りかかろうとしたが,これをCが制止,次に,AがGに殴りかかろうとしたが,またもやこれをCが制止・・・している隙にBがGを殴り,Gは加療7か月の傷害を負った。
<争点>
反撃行為には加担したが,追撃行為においては自ら暴行を加えることもなく,制止することもなかった被告人Xの共謀の有無(「共謀の射程」)。
<判断>
被告人は無罪。
「本件のように、相手方の侵害に対し、複数人が共同して防衛行為としての暴行に及び、相手方からの侵害が終了した後に、なおも一部の者が暴行を続けた場合において、後の暴行を加えていない者について正当防衛の成否を検討するに当たっては、侵害現在時と侵害終了後とに分けて考察するのが相当であり、侵害現在時における暴行が正当防衛と認められる場合には、侵害終了後の暴行については、侵害現在時における防衛行為としての暴行の共同意思から離脱したかどうかではなく、新たに共謀が成立したかどうかを検討すべきであって、共謀の成立が認められるときに初めて、侵害現在時及び侵害終了後の一連の行為を全体として考察し、防衛行為としての相当性を検討すべきである」
→引き離そうとした行為(反撃行為)は,正当防衛の範囲内である。
→Gに傷害を負わせた行為(追撃行為)には,共謀がない。