原因において自由な行為

  • ●意義

自らが自由な原因行為によって,心神喪失等の状態で結果行為を惹起すること。
行為・責任同時存在原則に対応する実行行為認定の理論構成が課題。

?実行行為はいつなのか
原因行為をなした時点である。原因行為をなした時点には,責任能力があるのだから,この時点に行為と責任が同時に存在している。具体的には,心神喪失後の状態を利用して,特定の構成要件を実現する意図で,原因行為が行われた場合には,原因行為を実行行為と評価でき,39条1項が適用されない。
?限定責任能力であればどうなる
適用は肯定できる。
?結果行為とには原因行為時の故意が必要であるが,その故意は,現に結果行為時まで存続していることが必要か
不要である。結果行為時の故意の有無で,罪に軽重が発生してしまうのは妥当ではない。
?では原因行為時に心神喪失状態を“利用して”,結果行為を惹起しよう,とする二重の故意は必要だろうか
これもまた不要である。犯罪に対するひとつの故意で,責任を問いうる。
  • 過失犯の場合

★「のみすぎ注意」最大判昭26・1・17百選Ⅰ33
<事実>
被告人は病的に酒癖が悪く,そのことは本人も自覚している。しかし,被告人は,キャバクラで酒を飲み,誘いを断られたため,とっさに肉切包丁でキャバ嬢を殺害。原審は心神喪失状態を認定し,無罪を言い渡した。検察官は,心神喪失状態だけではなく,心神喪失状態に至った段階での責任条件・責任能力を審理すべきとして上告。
<判断>
破棄差戻し。
酒癖の悪いものには,それなりの注意義務がある。本件の如く,酒癖の悪さを自覚し,かつ,注意義務を怠った場合には,過失致死の罪責を免れ得ない。

?過失犯でもこの理論は適用できるのか
適用自体はできる。しかし,原因行為自体に,過失犯としての実行行為性があれば,あえて適用する必要もない。

★「のみながら夫婦喧嘩」長崎地判平4・1・14百選Ⅰ32
<事実>
77歳の被告人は,72歳の妻と昼の11時頃から焼酎を呑みながら話をしていると,保険の話で揉めてしまった。それだけならいいが,被告人は腹が立つと同時に,酒にも手が伸びてしまい,怒りと酔いが同時に膨張。午後2時頃,怒りのせいでついに妻に手を出してしまったが,それでも喧嘩は終わらない。妻も一歩も引かず,被告人はさらに焼酎を呑んだ。そうこうしているうち,更にしっちゃかめっちゃかになり,酔った自分のせいで転んだ被告人は,怒りが頂点に達し,肩叩き棒で妻をめった打ちにして死亡させてしまった。酒に呑まれた被告人の罪責如何。
<判断>
本件では,被告人は犯罪途中から心神耗弱状態になっているが,開始時には責任能力に問題はなかった。そうすると,このような事情は量刑上斟酌すべきではない。
<整理>
原因行為時点がやはりポイント。