「財産引受」最判昭42・9・26

  • 事実

タクシー業を営むXはAと一緒にY会社の設立を計画,その新会社に今Xが有している営業+営業車両+その他の設備の一切を引き継がせることにした。発起人総会でそのことが決議され,Xは譲渡人兼(Y会社の)譲受人となったが,定款には定めを入れなかった。その後,XからY会社に引渡が完了したが,一向にYが代金を支払わないため,Xが譲渡代金の支払い,もしくは不当利得の返還の請求をしたのが本件である。
1審・原審とも,財産引受は定款に定めがなければ,会社に対して効力を有しないとし,また,会社がそれを有効に追認することはできないとして,Xの請求を棄却した。また,不当利得返還請求については,Xの契約は発起人団体と有効であり,会社とは有効でない以上,Xは発起人団体に債権を有しているのであって,会社には有していない。すなわち,会社が不当に利得を得たとしても,Xは損失を被っていないのだから,不当利得の要件を満たさない,として,やはり請求を退けた。
そこで,Xは,
1 本件契約は会社設立に関する行為であって,開業準備行為ではない*1
2 財産引受として有効ではなくても,追認で有効になった
3 自動車の譲渡はY会社に直接したものであって,発起人団体にしたものではない
などと主張。


  • ★判断

破棄差戻し。
1 契約は開業準備行為である。
2 追認で有効にはならない。
3 財産引受は発起人が設立中の会社のために,会社の成立を条件として特定の財産提供者(⊃発起人)から一定の財産を譲り受ける契約をいうのであって,契約上の権利義務は,直接会社に帰属することを内容とする契約である。したがって,当事者間に特約がある場合だとか,民法117条の類推適用により,発起人が履行の責に任ずべき場合であるとか特段の事情の認められない限り,定款に定めがないからといって,発起人・発起人組合が,当然に,財産引受けの契約上の権利を負うにいたることはない。本件でも,特段の事情はみうけられない。


  • _〆研究

1 財産引受とは
財産引受とは,発起人が設立中の会社の成立を条件として,第三者から何らかの財産を譲り受ける契約をいう。譲受といっても,無償とは限らず,多くは有償であるため,当然権利に付随して,義務である債務も会社の負担となる。そうすると,もし,財産が過大に評価されると,会社は過大な債務を負担してしまうことになり,会社の債権者を害する結果を惹起してしまう。このため,法は,財産引受を現物出資と並んで変態設立事項(商法168条1項6号)とし,一定の場合には検査役の調査を必要とした(181条2項→173条2項3項)。したがって,これに反する,定款に規定のない財産引受は無効であり(判例・通説),追認もなしえない(私見)。
このように,財産引受法定の趣旨は「会社債権者の防衛」である。ここに目をつけて,発起人の権限は開業準備行為に及ぶが,168条を拡張・類推解釈して財産引受同様の規制をなすべきとする考えもあるが,権限濫用の“虞”というだけでこれを認めたのでは,何を以って開業準備というかが定かでないのだから,妥当ではないだろう。


2 特段の事情
本判決は本文中,特段の事情という例外をおいている。この,特段の事情の適用がみられた判例最判昭33・10・24百選5)は発起人が設立予定の会社の代表取締役として行動し,第三者がそのように信じていた事案であった。結局,会社は設立されなかったため,その第三者は発起人に対して民法117条の類推適用を根拠に損害賠償を請求し,認容された。この判決は,財産引受の趣旨である会社財産の防衛を,財産引受以外の開業準備行為にも及ぼした形になる。

*1:168条1項8号は平成2年に追加された