正当防衛

  • ●意義

構成要件には該当するが,違法性の阻却される緊急行為の中の防衛行為(刑法36条,「緊急は法を持たない」)。


  • ▲要件

1 △急迫不正の侵害
   1) 急迫

★「侵害の急迫性」最決昭52・7・21百選22
<事実>
中核派の学生らが集会を開こうとしていると,対立関係にあった革マル派の学生が攻撃したきたが,応戦して撃退。「また来るんじゃないか」そう思ってバリケードを築いていると案の定,また攻めてきた。ここで共同暴行が行われ,6名が起訴。弁護人は,法益侵害が予期できたかできなかったかは,急迫性の問題ではない,などと主張。
<判断>
刑法36条が,侵害の急迫性を要件としているのにかんがみると,侵害を避けられたにもかかわらず,避けずに,その機会を利用して,加害行為をしたときは,急迫せいの要件を満たさない。

   2) 不正
      :違法

?対物防衛に正当防衛は成立するか
違法性(規範)が人に向けられているものだとすると,対物防衛は認められないことになる。そうすると,対物防衛は緊急避難になるが,だとすると行為者に酷になるし,民法720条2項との均衡上も問題がある。


2 △自己または他人の権利

?国家的,あるいは社会的法益は「他人の権利」に含まれるか
含まれる場合もあるだろう。何を以って国家的法益というかは定かでないが,たとえば,いじめられている子どもを助けることは,他人の権利を救済していると同時に,国家的法益にも資しているとできる。ただし,本来的には国家の役割であり,安易に認めると何が「正当」で,何が「権利」なのかの混乱を生じ,正当防衛対正当防衛の紛争が生じえる。したがって,安易には認めるべきでないだろう。


3 △防衛するため
   1) 防衛の意思の要否
      ↑偶然防衛に正当防衛が成立するかで問題

?防衛の意思は必要か
防衛行為の正当性は,防衛意思とのリンクに支えられている。これは条文の「ため」という文言に裏づけされている。その「ため」という文言は,行為が正当性を認識した主観によってはじめて正当化されることを意味する。

   2) 防衛の意思の内容

?防衛の意思とはどのようなものか
厳密な意味での「意思」である必要はない。防衛行為は,とっさに行われるものだからである。したがって,髄反射的な行為であっても,意思を欠くことはないといえる。

★「防衛の意思」最判昭50・11・28百選23
防衛に名を借りて積極的にした攻撃は,防衛の意思を欠くから正当防衛と認めることはできないが,防衛の意思と攻撃の意思が並存しているときは,防衛の意思を欠くものではないから,正当防衛を認めることができる。


4 △やむを得ずにした行為
   1) 必要性
   2) 相当性


  • ?問題点

1 ?喧嘩と正当防衛
同等の立場の攻撃防御が,一転断絶した場合には,正当防衛が認められる。


2 ?第三者と正当防衛


  • 過剰・誤想防衛

過剰防衛
:防衛の程度を超えた行為(36条2項)
過剰の意識がある→故意の過剰防衛
過剰の意識がない→過失の過剰防衛

?根拠は何か
急迫不正の侵害により,過剰防衛を行った者は気が動顛しており,正当な程度の防衛を確実に期待するのは困難というものである。責任の減少が根拠となる。


誤想防衛
:客観的には正当防衛の要件を満たしていないのに,主観的には正当防衛と誤信して行った場合
実は急迫不正の侵害がない→狭義の誤想防衛
実は相当な行為ではない→過失の過剰防衛


誤想過剰防衛
:過剰防衛+誤想防衛
やりすぎてしまった,という意識がある→狭義の誤想過剰防衛
   →故意犯成立
やりすぎてしまった,という意識がない→過失の誤想過剰防衛
   →過失犯成立

★「Justice of Karate fighter」最決昭62・3・26百選26
<事実>
イギリス人なのに空手3段,それでも日本語はよくわからないという来日8年目の被告人は,夜に帰宅途中,酔っ払ったAとBが揉め合っているところに出くわした。実はこの2人,本当に揉めあっているわけではなく,単にじゃれあっている程度だった。ところが,Bがふとした拍子に尻餅をつき,「ヘルプミー! HELP ME!」と叫んだだめ被告人が振り返ると,そこにはファイティングポーズをとった(ように見える)Aの姿が。ここで,被告人は,Aが自分に殴りかかってくるものと咄嗟に判断(but 誤信),得意技である回し蹴りを炸裂させ,Aを死亡させた。
<判断>
本件回し蹴り行為は,被告人が誤信したAによる急迫不正の侵害に対する防衛手段として相当性を逸脱していることが明らかであるとし,被告人の所為について傷害致死罪が成立し,いわゆる誤想過剰防衛に当たるとして刑法36条2項により刑を減軽した原判断は,正当である。