法律による行政の原則

● 意義

行政は国会が前もって定めた一般的基準に行われなければならない原則。
国民の権利が国家の権力濫用のために侵害されないという面における自由主義的意義と,福祉国家的見地から行政の活動が積極的かつ適正に行われなければならないという民主的責任行政的意義がある。
×例外→行政裁量


法律優位の原則
   :行政活動は,法律(⊃憲法)に違反してはならない
法律留保の原則
   :行政活動は,法律の根拠がなければすることができない

?すべての行政活動に適用があるのか(全部留保説?)
そうすると,行政の活動が過度に制限される結果,行政活動が沈滞し,結果的に民主的責任行政を果たしえないことになる。自由主義的側面から見れば,国民の自由を侵害しなければ,一応の法律による行政の原理は達成されるのだから,国民の権利を侵害する行政についてのみ,事前の授権が必要である(侵害留保説)。しかし,そうすると,補助金の交付など,民主的責任行政はどうなるのかが問題となる。すなわち,法律の授権がなければ,行政は給付的行政を一切行わなくても良いことになり,妥当ではないのである。したがって,権利を侵害する行政だけではなく,そもそも国民に権力を行使する行政は,法律の授権が必要と解するべきである(権力留保説)。

法律の法規創造力の原則
   :行政活動は,それ自体として法規を創造することはできない(憲法41条)
      ×例外→法律による委任


■ 行政裁量

●意義
   法律による包括的授権の結果として,行政に認められる裁量
   ○羈束行為
      :行政機関に法律の機械的執行が求められる行為
         →司法審査になじむ
   ○裁量行為
      :行政機関が独自判断の下に行うことができる行為
      ・自由裁量
         :行政庁の政策的・専門的判断にゆだねられた裁量行為
            →司法審査になじまない
            ex.原子炉,ビザ発行

★「伊方原発最判平4・10・29百選83
原子炉の安全性審査は,きわめて高度な最新の科学的・専門的技術的知見に基づく総合的判断が必要であるから,専門者の意見を聞いた内閣総理大臣が合理的判断をすることが,原子炉規正法の趣旨であると解される。
この,取消訴訟における裁判所の審査・判断は,専門委員の調査・判断の過程に看過しがたい過誤・欠落があり,これにより行政庁が判断したかどうかである。

      ・覊束裁量
         :法律による客観的基準が認められる裁量行為
            →司法審査になじむ


□場面
   ・事実認定
   ・要件認定

★「マクリーン@行政法最大判昭53・10・4百選81
出入国管理令の在留期間の更新事由が概括的に規定されているのは,法務大臣の広範な裁量権を許す趣旨であると解される。このような判断は,事柄の性質上,裁量に任せなければ適切な結果を期待することができないからである。
このような広範な裁量権からすれば,これが濫用とされる場合は,判断の基礎とされた重要な事実に誤認があることなど,事実の基礎を欠くか,または判断が社会通念に照らし妥当性を欠くことが明らかな場合である。

   ・手続選択
   ・行為選択(効果裁量)

★「公務員の懲戒」最判昭52・12・20百選86
国家公務員法は,公務員の懲戒について,抽象的な基準は定めるが,具体的な基準を定めていないから,懲戒権者は,諸般の事情を考慮して,いかなる処分をすべきかを決定できると解される。懲戒は,その性質上,部下の行動を知っているものがするのでなければ,適切な結果を期待できないからである。したがって,懲戒は裁量に任されていることになるが,裁量といえども,それが社会観念上著しく妥当性を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し,濫用したと認められる場合には,違法になるが,そうでなければ,違法とならない。

   ・時の選択


□結果の審査基準
   ・事実誤認
      →裁量権を行使する前提を欠く
   ・目的違反・動機違反
      :法の趣旨に反した裁量権行使

★「トルコ風呂」最判昭53・6・16百選76
<事実>
個室つき浴場の設置を試みた被告会社Xの代表者Aは,建築申請を得,建築に着手したが,地元では住民・議会を含め反対運動が勃発。当該地方自治体である山形県余目町は,付近にある町有地を風俗営業取締法のいう「児童遊園」に指定。同法によれば,児童遊園施設から200メートル以内では,風俗営業できないことになっている。余目町は,この規定を逆手に取ったわけだが,これを知らぬXは営業を開始したものの,この時点で児童遊園指定がなされていたため,風営法違反で営業停止処分+起訴されるに至った。
<判断>
Xは無罪。
原判決は,余目町の動機・目的を認定しているのに,児童遊園施設を認可する必要性・緊急性の有無については判断してないのに,認可処分の適法性・有効性を肯定しているが,そもそも必要性・緊急性は認められない。
児童福祉法40条の趣旨によれば,児童遊園とは児童の健康増進等に資するものであり,認可申請・処分もそれに沿ってなされるべきである。しかし,余目町の動機・目的はこれに反するものであるから,認可申請を容認した処分は行政権の濫用に相当する違法性があり,被告会社のトルコぶろ営業に対して,これを規制しうる効力を有しないといわざるを得ない。

   ・信義則違反
   ・平等原則違反
      :狙い撃ち違反(憲法13条・14条)
   ・比例原則違反
      :手段と目的の不相当な相関関係
   ・基本的人権の保障違反

★「エホバ剣道」最判平8・3・8百選88
高専学校の校長には裁量権があるが,この行使としての処分がまったくの事実の基礎を欠くかまたは社会観念上著しく妥当を欠き,裁量権の範囲を超えまたは裁量権を濫用してされたと認められる場合に限り,違法であると判断すべきである(判例)。しかし,退学・原級留め処分は重大であり,慎重な配慮が要求される。


□判断過程・考慮事項の審査

★「杉が道路に」東京高判昭48・7・13
<事実>
建設大臣Yは土地収用法に基づき,Xの土地について国道拡張工事のため,事実認定+土地細目の公告を行った。しかし,この拡張工事がされれば貴重な杉15本が伐採されることとなるため,Xは取消訴訟を提訴。
<判断>
土地収用法の目的は公共の利益の増進と私有財産の調整等であるが,この判断は建設大臣が総合判断として行われるべきである。しかし,この判断において,本来最も重視すべき諸要素,諸価値を不当,安易に軽視し,その結果当然尽くすべき考慮も尽くさず,または本来過大に評価すべきでない事項を加重に評価し,これらにより建設大臣の判断が左右されたと認められる場合には,裁量判断の方法ないしその過程に誤りがあるものとして,違法となる。

■ 一般法原則との関係

1 法律による行政の原理は,法治主義を採る国家において当然の原理である。行政は,法律によってでなければ,活動することができない(法律の留保)。
2 しかし,個別の規定がない場合や,仮にあっても明確性を欠くことがある。また,個別規定を貫徹することが,かえって国民の信頼を損ねることもある。このような場合,憲法原則や一般法原則があるべき法律に代わって,行政活動を規律する規範として用いられる。
 (1) 憲法原則が用いられた例が,公正手続(13・31条)が争われた個人タクシー事件,群馬中央バス事件,成田新法事件など。
 (2) 法の一般原則(平等原則・比例原則・信義則)が用いられたのが下記の例。

法の一般原則について,平等原則・比例原則をあげたが,これらは憲法(13・14条)原則ともいえる。したがって,純粋に法の一般原則いえるのは信義則であり,多くの事案でも問題になっているのはこれである。また,信義則は「禁反言の原則」,「信頼関係破壊の法理」,「安全配慮義務」等を含む。

★「自動車検問(⊂行政活動)の法的根拠」最決昭55・9・22百選118
<事実>
被告人Xはかねてから飲酒運転の多発地点とされるT橋南詰で任意の自動車検問を受けた。そこでXの飲酒運転が発覚したが,Xはこの検問はなんらの法的根拠もなくされた違法なものであり,収集された証拠には証拠能力がない,と主張。
<判断>
警察法2条1項が「交通の取締」を警察の職務として定めていることに照らすと,交通安全等に関する警察の活動は,任意手段による限り,または任意手段であっても国民の権利,自由の干渉にわたるおそれのある場合がない限り,許容されるのは同条2項及び警察官職務執行法1条などの趣旨にかんがみ明らか。
しかし,自動車運転者は行動利用の利用に伴う負担として交通取締に協力すべきであることを考慮すると,警察官が適当な場所において,適当な方法で自動車検問を行うことは適法である。本件もこれに含まれる。

★「担当者変更(⊂事情変更)と信義則」最判昭56・1・27百選153
<事実>
XはY村内に工場建設を計画,当時の村長も工場誘致に全面協力を明言。このため,Xは工場建設のためさまざまな準備を行っていたが,選挙によって選ばれた新村長は一転変わって工場誘致に反対。結果,工場建設は不可能となってしまった。XはYの行為を信頼関係を不当に破るものであるとして,準備代金を積極的損害としてその賠償を求めた。
<判断>
地方公共団体の施策は住民自治の原則や事情変更等の要因があるから,それ自体に拘束されるものではないが,それが①特定の者に対して特定内容の活動をすることを促す個別具体的な勧誘で,かつ,②カネ・時間・労力がかかるものである場合には,その特定のものは「施策の変更がないだろうな」と信頼するのが普通だから,その信頼には信義衡平の原則に照らし,保護が与えられなければならない。そして,信頼の裏切りは特段の事情がない限り違法性を帯び,不法行為責任を生じせしめる。上告人(X)の請求は正当である。

★「言い忘れと信義則」最判昭62・10・30百選25
<事実>
Xは以前勤めていた税務署を退職し,Aの酒類販売事業に従事するようになった。Aは青色申告の承認を受けており,これまでA名義で青色申告がなされていたが,Xが青色申告をしたところ,Xは青色申告の承認を受けていないのに,Y(税務署長)のうっかりミスにより申告が受理されてしまった。そのミスにYが気づいたのは5年後で,この知らせを聞いたXは承認申請をし,同年以降分については青色申告の承認を受けた。が,それ以前の一部分については白色申告とみなして更正処分がされたので,Xはこの処分を信義則に反し違法である,として取消訴訟を提訴。
<判断>
青色申告の承認の効力は一身専属的なものであり,たとえ納税者が青色申告の承認を受けていた被相続人の事業を承継した場合でも,その納税者が青色申告の承認を受けていないときは,青色申告所を提出したからといって,青色申告の効力を認める余地はない。ただ,それは特段の事情の存否にかかっている。
特段の事情につき検討すると,法律による行政の原理なかんずく租税法律主義の原則が貫かれるべき租税法律関係においては,納税者の平等・公平という要請を犠牲にしてもなお,納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特段の事情が存する場合に,はじめて信義則適用の是非を考えるべきである。その判断にあたっては,少なくとも①信頼の対象となる公的見解の表示が必要で,それを②納税者が信頼し,③過失がないことが不可欠である。
本件についてみると,「受理」は「是認」でないし,「納税申請」は「承認申請」でないし,Yが確認を怠ったとしても,青色申告書の納税者への「送付」は「承認」でない。そうすると,公的見解の表示に反する処分であるということはできない。