上訴

  • ●意義

確定した裁判に不服がある場合に,上級裁判所に対して原判決の取消・変更を申し立てること(民事訴訟法3編)。
終局判決に対する控訴・上告,決定・命令に対する抗告がある。


  • ♪趣旨

♪①裁判の正当性確保による当事者救済
♪②法令解釈の統一


  • ▲要件

△①方式が適当・有効であること
  286条等
△②上訴期間を徒過していないこと
  285条等
△③原裁判が上訴を許すものであること
  282条等
△④上訴権の放棄,不上訴の同意がないこと
  281条1項但書・284条
△⑤上訴の利益があること
  ∵①処分権主義,②当事者衡平,③上訴制度の合目的的運営

★「理由の不服と上訴の利益」最判昭31・4・3百選114
<事実>
Xは自己の土地にYに対する担保として抵当権を設定していたが,昭和4年に売買を原因とするYへの所有権移転登記がなされた。ところが,その後になって,Xは所有権移転登記の抹消を請求。その理由は,昭和4年の行為は抵当権を売渡し担保に切り替えたに過ぎず,そして現在,被担保債務は完済した,というものである。これに対してYは,売掛担保でなく真実の売買であり,また,そうでなかったとしても,被担保債務は完済されていない,と抗弁。
1審はXの請求を認容したが,控訴審はXの請求を棄却,所有権移転登記は売渡担保としてなされたものであるが,被担保債務は完済されていない,という理由による。
Yは,あくまで真実の売買であると認定されることにこだわり,売渡担保とした理由中の判断に不服のため,上告。
<判断>
上告棄却。
上告理由を見ると,原審の判決理由中の判断を攻撃するにとどまり,請求に対する不服ではないことが明らか。判決の既判力は判決の理由となった判断をも確定するものではないから(最判昭30・12・1),所論は結局上告の前提たる利益を欠く。Yは自ら訴えを提起するなり,または応訴をするなりして争えばよい。
<整理>
そうすると,Xは残債務を完済し,また,所有権移転登記抹消請求をしてくることが予想はされる。Yとしては,理由中の判断で真実の売買を認定されれば,そんなこともなさそうである。でも,それではいくらでも上訴の理由は拡大しうることになってしまう。ただ,それでは裁判の紛争解決機能が不全になってしまう。本件では,残債務の支払と引き換え給付判決を出すなりするべきで,そのような判決が出された場合には,Yには問題なく上訴の利益が認められる。
上訴の利益がない=上告不適法→上告却下すべき

  →原審における当事者の申立>申立に対する原裁判
    :形式的不服
    前提;争点効否定
      ∵①基準の明確性,②裁判所・相手方の負担回避,③自己責任(禁反言)
    ×例外↓
      ①相殺の予備的抗弁で請求棄却判決を得た被告の上訴
      ②離婚請求の棄却判決を得た被告が自ら離婚の反訴を提起するための上訴(人訴法25条)
      ③一部請求で全部勝訴した原告がする請求拡張のための上訴
      ④取消・差戻しの判決を求めた当事者による理由に不服の上告


  • ◆効果

◇①裁判の確定遮断
◇②事件の移審

不服申し立ての範囲に限らず,全部に及ぶ(①②):上訴不可分の原則。が,審判対象は不服申し立ての範囲である訴訟物←あとで拡張可能。
  • 控訴

1 ●意義
  第1審の終局判決に対して,不服を申し立てる上訴(3編1章)。
  続審制が採られる。
    →計画審理規定(301条),1審から引き続き適宜提出主義


2 附帯控訴(293条)
  :被控訴人が後訴人が申し立てた審判対象を拡張する申立
  公平の観点から認められる攻撃的申立
  控訴取り下げがあれば効力失う(293条2項本文)
    独立附帯控訴となりうる(293条2項但書)


3 控訴と処分権主義
  審理の対象は不服申し立ての範囲に限られる(296条1項)
  取消・変更は不服申し立ての限度に限られる(304条)
    ×例外↓
      ①境界確定訴訟(最判昭38・10・15)
        ∵どの境界線が利益・不利益なのか判断しかねる
      ②原審の訴訟要件不存在
        →訴え却下
      ③離婚訴訟・財産分与の裁判(最判平2・7・20)

★「攻撃は最大の防御」最判昭58・3・22百選115
<事実>
XはYに対し①主位的請求,②③予備的請求。第1審は③のみ認容。Y控訴。控訴審は「Xが附帯控訴・控訴の申し立てをしていないから①②は審判の対象にならない」とし,③についてのみ審判した結果,第1審判決を取り消した(Xの請求棄却)。Xは①②について審理しなかった違法と,附帯控訴をするかしないかを釈明しなかった違反を理由に上告。
<判断>
このような場合に第1審原告が控訴も附帯控訴もしないならば,主位的請求に対する第1審の判断の当否は控訴審の審判の対象とはならない。釈明しなかったことは違法ではない。
<整理>
上訴必要説。∵①処分権主義,②不利益変更禁止原則,③当事者公平という民訴法の理念。

★「相殺と不利益変更禁止」最判昭61・9・4百選116
<事実>
XはYに対して貸金返還請求と遅延損害金の支払いを求めて提訴。これに対し,Yは①本件貸金は不法原因給付(民法708条)であって返還義務はない,②仮に義務があったとしても相殺によって消滅した,と主張。1審は貸金債権の発生を認め,②を容れ債権の消滅を認め,結論としてXの請求棄却。X控訴,が,Yは控訴・附帯控訴をしなかった。ところが,控訴審では①を容れず,また②も容れなかった(このため,XのYに対する債務が相殺されず,残ってしまったことになった)。Y上告。
<判断>
本件のような場合に1審判決を取り消して改めて請求棄却の判決をすることは,114条2項に照らしてXに不利益であることが明らかであり,不利益変更禁止の原則に違反して許されない。控訴審としては,1審判決を維持し,Xの控訴を棄却するにとどめるべきであった。
<整理>
積極説(審判自体はしても良い)。不利益変更禁止原則をいかに解するか(本質か政策か)にもよる。


4 ▼手続
  1) ▽控訴状を提出
    第1審裁判所に(286条1項)
    判決送達を受けてから2週間以内に(285条)
  2) ▽第1審裁判所による控訴状審査
    だめなら却下(287条1項)
  3) ▽被控訴人への控訴上送達(289条1項)
  4) ▽控訴取り下げの場合
    終局判決(≠判決確定)が下る前までなら,
      ∵原判決と比べられたら困る
    被控訴人の同意を得ずに取り下げ可能(292条)
    →原審判決が残る

  • 上告

1 ●意義
  控訴審の終局判決に対し,法令違反を理由としてする上訴(3編2章)。
  法令の解釈統一の比重が大きい
    ∴事実審はやらない→法律審のみ

最高裁は1つしかないのに,みんなが上告するから忙殺されていた(昔)。そこで,現行法は最高裁の期待された役割を存分に活かすため,最高裁の法律審にふさわしい上告理由(312条)を備えた事件に上告権を限定した。例外が上告受理申立。


2 上告理由
  1) 憲法違反(312条1項)
  2) 絶対的上告理由(312条2項)
    1〜6号
〜〜〜〜〜〜ここまでが普通の上告〜〜〜〜〜〜
  3) 判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違反(312条3項)
    @高裁上告のみ
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
  4) 上告受理の申立(318条)
    @最高裁上告のみ
    上告受理の決定による
      →上告があったとみなす(318条4項)

★「なんとなく(経験則)おかしい(違反)」最判昭36・8・8百選117
<事実>
XはYに建物を売却したが,それは公売処分回避のものであるとして,建物の所有権確認請求の訴訟を提起。この建物は時価の数十分の一の10万円で売却されている。原審は,代金は安すぎるかもしれないが,XとYは30年来の知り合いで,いろいろ考慮すると安すぎるということは,取引の通念に従い当然であると判断。
<判断>
時価と代金が著しく懸絶している売買は,一般取引通念上特段の事情がない限りは経験則上是認できない。原審,1審はもっとこの特段の事情につき審理判断を加えるべきなのに,取引の通念に従い当然としているが,これには審理不尽・理由不備の違法がある。
<整理>
上告審=法律審≠事実(⊃経験則)審∴経験則違反→?→上告理由。
経験則違反の事実認定は法令違反説,経験則=法令説。

  5) 結果的上告(裁量破棄。325条2項)
    上告受理申立の不要バージョン@¬⊃絶対的上告理由
    破棄の場合に限られる


  • 抗告

1 ●意義
  決定・命令に対する独立の上訴(3編3章)
  ・通常抗告:いつでも提起できる
  ・即時抗告:1週間以内(332条)
  ・最初の抗告:決定・命令に対してなされる最初の抗告
    →「決定」←再抗告(330条)
  ・特別抗告(336条)
  ・許可抗告(337条)