婚姻

● 意義

男女が結婚すること,及びまさに結婚しているという性的結合状態(民法4編2章1節〜3節=731〜762条)。


▲ 要件(1節1款)

  • <実質的要件>

△当事者の意思の合致
   実質的意思が必要(742条1号反対解釈)

何を以って実質的意思というかは,婚姻のいろいろな事情があるから,一概には決められない。判例は,
①法律が想定する事案と当該事案とのずれ
②法律が与える効果と当事者の欲する効果とのずれ
③違法性
などを総合的に考慮しているとされる。

★「婚姻の意思」最判昭44・10・31百選1
<事実>
X男とY女は肉体関係を有し,さらに婚約もしていたが,両親の反対のため結婚できずにいた。そのうち,子どもBが生まれた。が,Xはほかの女と結婚することにした。このためXとYは話し合って,子どもだけでも籍に入れよう,そのためにいったん婚姻しようと計画し,XとYの婚姻届を提出。そして,段取りどおり離婚しようとXが思ったところで,Yが離婚を拒絶。Xは婚姻意思の不存在を理由に婚姻の無効を主張。
<判断>
「当事者間に婚姻する意思がないとき」とは,当事者間に真に社会観念上夫婦であると認められる関係の設定を欲する効果意思を有しない場合を指す。だから,婚姻の届出自体に当事者の合意があっても,その婚姻自体が他の目的のためになされたものであれば,婚姻の効力は有しない。
<整理>
仮想婚はだめ。

★「婚姻の意思の存在時期」最判昭45・4・21百選2
<事実>
A男とY女は肉体・婚約関係にあったが,A男が吐血により入院。その際,A男はY女と正式に婚姻したいとの意思を表示し,Aの兄の代筆捺印とYの署名捺印により婚姻届が作成された。が,届出の前にA男は意識を失い,届出の直後に絶命。この婚姻届の無効確認訴訟をA男の母Xが提訴。
<判断>
婚姻意思に基づいて婚姻の届出が作成されたときは,届出の受理時に作成者が意識を失っていたとしても,受理前に翻意したなど特段の事情がない限り,届出の受理によって婚姻は有効に成立する。
<整理>
百選1は意志の内容の問題,こちらは意志の存在時期の問題。届出の受理が効力発生要件であるとする考え(届出効力要件説)はとっていない(届出成立要件説),が,届出受理時に婚姻意思の存在が積極的に確認されなくても,特段の事情がない限り(届出作成時の意思が届出受理時まで一応不変的に持続し)有効と解している。また,本件のような「臨終婚」の実質的意志内容も問題となりうるが,判例は有効とする。①②③基準に照らせばそうなるか。


△婚姻障害の不存在
   ① 婚姻適齢(731条)
      ↑取消権(745条)
   ② 重婚禁止(732条)
      後婚は取り消しうるに過ぎない(大判昭17・7・21)
   ③ 待婚期間(733条)
      一応合憲(最判平7・12・5)
   ④ 近親婚(734〜736条)
      cf.近親婚の諸相
   ⑤ 未成年者に対する父母の同意(737条)
      同意がなくても受理されれば有効に成立(最判昭30・4・5)

  • <形式的要件>

△婚姻の届出(740条)
   法律婚主義(⇔事実婚主義)の帰結
      ∴=成立要件≠効力要件
   戸籍事務担当者の形式的審査しかない
   成立=受理≠戸籍登録(大判昭16・7・29)


◆ 効果

◇一般的効力(2節)
   ① 夫婦同姓(750・751条)
   ② 同居・協力・扶助義務(753条)
      同居←性質上,強制執行は許されない(大決昭5・9・30)
         が,同居命令違反が「悪意の遺棄」に斟酌はされうる
      協力=夫婦の理念
      扶助≒婚姻費用分担(760条)
      →違反=悪意の遺棄=離婚原因(770条1項2号)
      rl.DV防止法

別居 婚姻の効力のひとつとして同居義務があるが,じゃあ別居したらどうなるのかについて,民法はなんら規定していない。別居についても,同居義務違反として構成される別居と,単身赴任のような円満な別居,家庭内暴力によるやむをえない別居などいろいろな形態が考えられる。

   ③ 浮気しない(貞操)義務
      ↑770条1項1号の帰結
      →違反=離婚原因
      浮気の相手方には慰謝料の支払い義務(最判昭54・3・30)
      婚姻破綻後の浮気は不法行為ではない(最判平8・3・26)
         ∵すでに終わっちゃってる→保護する利益がない
      浮気相手に対する子からの損害賠償
         害意がなければ責任は負わない(最判昭54・3・30)
      損害賠償の消滅時効は,不貞の関係を知ったときから生じる
   ④ 成年擬制(753条)

?離婚したらどうなるのか
消滅しない。一度認められた行為能力が消滅することは,取引の安全に資さない。

   ⑤ 契約取消権(754条)
      夫婦間の契約はいつでも取り消すことができる
      ♪趣旨=ラブラブな君たちに法律は干渉しない(*/∇\*)
         ∴愛情がない夫婦には干渉したほうがいい場合もある(最判昭33・3・6
            =契約は取り消しえない
               →本規定が空文化する
                  ∵夫婦円満なら,そもそも問題にならない
   ⑥ 配偶者相続権(890条等)


◇夫婦財産制(3節)
   ① 夫婦財産契約(1款)
      ほとんど使われていない(100年で1000件以下)
   ② 法定財産制(2款)
      ・婚姻費用の分担(760条)
         =内部関係の問題
         ・婚姻費用
            :配偶者・未成熟視の共同生活に日常または一時的に必要とされる費用
         婚姻費用を分担していなければ,分担していないものの債務は累積する
            →過去にさかのぼって婚姻費用が分担されうる(最大決昭40・6・30)
         裁判管轄は家裁(最判昭43・9・20)
      ・日常家事債務の連帯責任(761条)
         =対外的関係の問題
         日常家事:配偶者・未成熟子の共同生活に日常必要とされる事項
            ◎→別居している妻が買った14万円の電子レンジ
            ×→使途不明の単なる借金

?夫婦で連帯責任を負わない旨の合意は認められるか
認められない。これを認めると,夫婦の連帯責任を信じた第三者を害することになる。もっとも,第三者に個別に申し述べれば可能である。
なぜこのような規定があるのか。明治民法のもとでは,妻は無能力者とされ,自由に「米や味噌を買うことも*1」できなかった。そこで,妻に代理権を認めるために旧804条が設けられ,さらに戦後の改正により代理権ではなく連帯債務という形に改められた。したがって,本条はいきおい民法の代理の章の問題を共有することになる。

「日常家事の範囲と第三者の救済」最判昭44・12・18百選6
民法七六一条は、「夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは、他の一方は、これによつて生じた債務について、連帯してその責に任ずる。」として、その明文上は、単に夫婦の日常の家事に関する法律行為の効果、とくにその責任のみについて規定しているにすぎないけれども、同条は、その実質においては、さらに、右のような効果の生じる前提として、夫婦は相互に日常の家事に関する法律行為につき他方を代理する権限を有することをも規定しているものと解するのが相当である。
そして、民法七六一条にいう日常の家事に関する法律行為とは、個々の夫婦がそれぞれの共同生活を営むうえにおいて通常必要な法律行為を指すものであるから、その具体的な範囲は、個々の夫婦の社会的地位、職業、資産、収入等によつて異なり、また、その夫婦の共同生活の存する地域社会の慣習によつても異なるというべきであるが、他方、問題になる具体的な法律行為が当該夫婦の日常の家事に関する法律行為の範囲内に属するか否かを決するにあたつては、同条が夫婦の一方と取引関係に立つ第三者の保護を目的とする規定であることに鑑み、単にその法律行為をした夫婦の共同生活の内部的な事情やその行為の個別的な目的のみを重視して判断すべきではなく、さらに客観的に、その法律行為の種類、性質等をも充分に考慮して判断すべきである。
しかしながら、その反面、夫婦の一方が右のような日常の家事に関する代理権の範囲を越えて第三者と法律行為をした場合においては、その代理権の存在を基礎として広く一般的に民法一一〇条所定の表見代理の成立を肯定することは、夫婦の財産的独立をそこなうおそれがあつて、相当でないから、夫婦の一方が他の一方に対しその他の何らかの代理権を授与していない以上、当該越権行為の相手方である第三者においてその行為が当該夫婦の日常の家事に関する法律行為の範囲内に属すると信ずるにつき正当の理由のあるときにかぎり、民法一一〇条の趣旨を類推適用して、その第三者の保護をはかれば足りるものと解するのが相当である。
<整理>
重要なポイントは3つ。

      ・夫婦別産(特有財産)の肯認(762条)
         =選択部分に関する問題

★「私の所得は妻のおかげ」最大判昭36・9・6百選8
<事実>
Xは自らの名義で所得した総所得のうち,半分は妻の家庭における協力によって得られた所得であるとして,それぞれ半分ずつ確定申告。これに対して税務署長が更正処分をした。上告理由は,「民法762条は憲法24条違反である」。
<判断>
憲法24条は実質的平等を定めるのであって,常に同一の権利を保障するものではない。
民法762条1項は夫と妻のどちらにも適用されるし,所論の言うように,夫婦は一心同体で,配偶者の財産取得に対しては他方が常に協力するものであるとしても,民法には別の規定に財産分与請求権,相続権,扶養請求権等の権利があるのであって,これらの権利を行使することにより,結局において夫婦間に実質上の不平等が生じないように立法上の配慮がなされているということができる。したがって,民法762条1項の規定は憲法24条に違反しない。
それゆえ,民法762条1項に依拠して適用された所得税法もまた,違憲ということはできない。
<整理>
762条は夫婦共働きを前提にするから,主婦婚の場合に障害になる。我妻は潜在的共有説を唱え,一方名義の特有財産であっても,実は,潜在的には共有財産であるという部分的観念を認める。ただ,この場合でも名義を信頼した第三者は保護される。ポイントは,清算(離婚)の時点から夫婦の財産を眺め返すこと。

■ 無効・取消し(1節2款)

□無効(742条1号2号)
   =当然無効
      ∴効果は遡及する
   追認ありうる↓(2号の場合。116条類推)

★「婚姻無効の追認」最判昭47・7・25百選9
<事実>
X男とY女は一度離婚したが,子どもたちのためと思い再度同居するようになった。この間,YはXに内緒のうちに婚姻届を提出し,またXもこれを知りながら,Yを妻のごとく振舞った。であるのに,Xは婚姻意思と届出意思がなかったことを理由に,婚姻無効確認訴訟を提起。Yは,婚姻届の提出にXの同意を得ていた,仮にそうでないとしても,Xは無効な婚姻を追認した,と主張。
<判断>
事実上の夫婦の一方が他方の意志に基づかないで婚姻届を作成・提出した場合でも,その時点で実質的生活関係が存在し,他方がこれを追認したときは,婚姻届は遡及的に有効となる。けだし,追認によって意思の欠缺が補充され,また追認を認めることが当事者の意思に沿い,実質的生活関係を重視する身分関係の本質に適合するだけでなく,第三者にとっても,(婚姻意思の欠缺とは関係のない)実質的生活関係&戸籍の記載を信頼した行動が,追認によって害されることは少ないからである。
追認を認めることは実定法上の根拠を欠くというが,民法は確かに婚姻の無効の追認についての規定はないが,否定する規定もない。また,取消事由のある婚姻について追認を認める規定がある(745条2項・747条2項参照)ことなどを考慮すると,実体法上の根拠がないからといってただ,婚姻無効の追認を否定すべきということにはならない。そして,当裁判所は財産上の法律行為について,116条の類推適用により追認の遡求効を認めている(最判昭37・8・10民法百選Ⅰ38)のであって,これは本件と類似性を見出すことができる。


□取消し(743〜749条)
   ・不適法婚の取消(744条)
   ・不適齢婚の取消(745条)
   ・再婚禁止期間内の取消(746条)
   ・詐欺・脅迫による取消(747条)
   効果は遡及しない(748条1項)
   不当利得返還請求善意悪意(748条2項3項)
   離婚規定の準用(749条)

*1:66頁

家族法 (有斐閣法律学叢書)

家族法 (有斐閣法律学叢書)