一般的不法行為
- ●意義
不法に他人から権利・利益の侵害を受けた場合に,金銭賠償を請求する債権が発生する制度(民法709条〜)。
- ♪趣旨
1 ♪被害者救済
2 ♪損害の公平な分担
3 ♪不法行為の抑止
- ▲要件
<要件事実>
1 △故意・過失(709条)
故意と過失の区別の実益↓
損害賠償の範囲
慰謝料の額
受忍限度決定への影響
裁判所は原告の被告の「故意」の主張に対して「過失」を認定してもよい(判例)。逆の場合は?
・「故意」
⊃未必の故意
これと背中を接しているのが「認識ある過失」
⊃概括的故意
・「過失」
:法的行為義務(結果回避義務)違反
↑予見可能性に基づく
↑一般標準人を元に判断(「抽象的過失」←過失の客観化)
=「過失責任主義≒自己責任原則」の修正
∵具体的事情が考慮されたら「われわれの生活は成り立っていかない」
→ここから「信頼の原則」が導かれる
時代の変化と過失の変化 本来的に,過失とはその人そのものの過失=具体的過失をいった。ところが,たとえば,運転に不慣れな老人が自動車事故を起こしたとしても,具体的過失がなければ,不法行為責任が発生しないことがありうる。その老人は,自分なりに,一所懸命注意して,運転をしていたかもしれないからである。しかし,自動車の運転自体には,危険性・報酬性が宿っている。つまり,それなりの利益を甘受をしているなら,それなりの責任を負うべきである。このようなことから,不法行為法による過失概念は,具体的過失から抽象的過失に変容した。ただし,そうすると民法の3台原則の1つである「過失責任主義」を修正せざるを得なくなるが,不法行為法の趣旨を全うするにはやむをえないだろう。特殊的不法行為,PL法などは立法的修正である。
☆平成13年
第 2 問
1 不法行為責任と責任能力との関係について説明した上で,責任能力が必要とされている理由を過失概念の変容と関連付けながら論ぜよ。
2 未成年者の加害行為に対する親権者の不法行為責任を問う法的構成について論ぜよ。
決定基準=abc-d
a=行為の支配領域
b=事故発生の可能性
c=被害法益の重大性
d=行為義務を課す不利益
- ?それらをすべて考慮したら行為がまったくできない可能性がある
- 当然である。最大限の努力をしてもなお,危険が発生する可能性がある場合,行為自体が制限されることもある。
したがって,医師であるとか危険物取扱者などは高度の注意義務が課される。医療水準の判断として最判平7・6・9
取締法規違反は一応過失が推定されるに過ぎない
失火の場合↓
・失火責任法
「過失」は「重過失」に読み替え
↑415条等には適用なし
・「失火」
≠火薬の爆発
≠ガス爆発
・立証
2 △因果関係(709条)
=条件関係+相当因果関係
3 △権利・法律上保護される利益の侵害(709条)
民法制定時の法典調査会で「権利」を削るという案が出されたが,それでは広すぎるとして結局そのままになった。判例も「雲右衛門浪曲事件」で“低級音楽”の権利性を否定。が,「大学湯事件」で大審院は「厳密には権利と言えなくとも,法律上保護される利益に対する侵害に対しては,不法行為による救済が必要」として不法行為の成立を認めた。この判例から80年を迎える本年,ようやく条文上「法律上保護される利益」の侵害が要件となる。
・物権侵害
・債権侵害
1)債務者による侵害
415条もOK(請求権競合)
∵被害者救済
2)第三者による債権侵害
・人格権侵害
4 △損害(709条)
⊃財産的損害
⊃積極的損害
現実のマイナス
⊃消極的損害
うべかりし利益
⊃精神的損害
これらを不法行為がなかった場合との金銭的差額で表示
<抗弁事由>
5 △責任能力
:自己の加害行為が法律上違法であることを認識しうる能力の存在
↑「過失責任主義」
∩「未成年者」(712条)
≒12歳
↑一概には決せられない
∴監督者責任や使用者責任のために柔軟に認定する余地ありうる
∩「精神上の障害」(713条)
¬⊃「原自行為」(但)
≠抗弁事由
6 △違法性阻却事由
1)正当防衛(720条1項)
2)緊急避難(720条2項)
3)自力救済
4)正当業務行為
5)被害者の承諾
厳密な承諾でなくとも,この問題が生じうる
ex.「好意同乗」
事後の承諾=損害賠償請求権放棄構成
- ◆効果
◇損害賠償責任(709条)
・方法
◎原則→金銭賠償(722条1項→417条)
×例外→原状回復→適当な処分(謝罪広告など。723条)
・請求権者
1)被害者本人(当然)
2)胎児(721条)
3)被害者の父母・配偶者・子(711条)
被害者が死亡した場合(本)
- ?被害者と家族同然であっても,これらに該当しなければならないのか
- 本条は被害者と緊密な仲にある者に慰謝料請求権を認めているが,これは被害者の死亡が一定の近親者に精神的損害を与えることを考慮して,立証責任の転換を図ったものであると解される。このため,711条列挙者に当たらなくても,709・710条の要件を立証すれば,同条の効果として慰謝料を請求することが可能である。
- ?被害者が死亡せず,傷害の場合はどうなる
- 上記同様,709・710条の要件を立証すればよい。
・範囲と金額
相当因果関係(416条類推)
損益相殺
過失相殺(722条2項)
・性質
相殺禁止(509条)
∵不法行為を抑止しえなくなる
=殴り合いになってしまう
譲渡可能(466条)
相続可能(通説)
・消滅時効(724条)
損害・加害者を知ったときから3年=時効期間
or
不法行為のときから20年=除斥期間