通謀虚偽表示
▲ 要件
△1:両当事者の通謀
この「通謀」の要件は権利外観法理に基づく94条2項類推適用の場面で多く緩和される。「通謀はないが,(黙示にでも)承諾はした」
△2:1により行われる一見有効な権利外観の作出
これも同様。「作出したわけではないが,放置しておいた」
△3:2の外観があるにもかかわらず,実は効果意思がない。
◆ 効果
◇1:意思表示の無効(1項)
◇2:1が善意の第三者に対抗できない(2項)
・「第三者」
:虚偽表示の当事者及びその包括承継人以外の者で,虚偽表示の外形につき新たな・独立の法律上の利害関係を作るに至った者
・「善意」
:外形に対応する効果意思の不存在を知らないこと
- ?無過失は要求されるか
- 要求されない。虚偽の外観を作り出した者には,非難されるべき帰責性が存在する。このような者と第三者との利益衡量においては,第三者の無過失を要求すべき合理的根拠がない。
- ?真の権利者との関係で,第三者は対抗要件を具備する必要はあるか
- ない。94条2項は,1項の意思表示の無効を「対抗できない」と定める。これにより,真正権利者と第三者は前主・後主の関係に立つため,そもそも対抗関係に立たない。
- ?では真正権利者が第二の第三者に不動産を譲渡した場合,第一の第三者と第二の第三者は対抗関係に立つか
- 立つ。確かにこの場合,第一の第三者は虚偽の外観を真正な外観だと信頼したのに対し,第二の第三者は虚偽の外観を虚偽の外観であると認識しているのだから,事情が異なるように思える。しかし,第二の第三者といえども虚偽の外観を虚偽の外観であると信頼したことは,それとの対応関係にある真正な内的外観を信頼したことを意味する。このように,双方とも権利の外観を信頼して取引を行っているため,双方とも同一の権利者として保護する必要がある。であるならば,第一の第三者と第二の第三者を二重譲渡の関係と同視し,対抗問題として,登記の先後で優劣を決するのが妥当ある。
- ?転得者の問題はどうなる
- この場合も第三者と同様,善意であれば保護される。譲渡人が悪意であろうと善意であろうと,譲受人である転得者の保護要請は,第三者の場合と変わりない。
- ?しかし,善意の転得者を介在させるだけでその後の悪意者も保護されるとすれば,真正権利者との関係で妥当性を欠くのではないか
- 確かに意図的に善意者を悪意者が介在させたとすれば,94条2項が潜脱される結果となる。しかし,第三者は善意であれば保護される必要があるのに,それぞれの第三者ごとに善意・悪意を問題にすれば,いつまでたっても法律関係が安定しないばかりか,転得者から追奪担保責任(561条)を追及されることも考えられ,妥当ではない。したがって,ひとたび善意の第三者が現れれば,その後の転得者の善意・悪意は問題にならず,当該善意の第三者の地位を承継的に取得するものと解する。
- 94条2項類推適用
94条2項の「適用」には上記3つの要件が必要である。が,通謀がなくても,また当事者が積極的に権利の外観を作出しなくても,そこには虚偽の外観が存在し,それを第三者が信頼し,取引が行われる可能性がある。このような場合,厳密に94条2項の要件を検討すると,いかに第三者の外観への信頼があろうとも,当事者の通謀がなく,積極的な外観の作出がなければ,適用が考えられない。しかし,やはり権利の外観を信頼した第三者は保護されなければならない。そこで,94条2項の趣旨である,「権利外観法理」の射程にあるこのような事例にも,94条2項を類推して適用する。
- ?だとすれば要件はどうなる
- まず,(1)虚偽の外観の存在と,(2)それへの第三者の信頼が必要である。そして,(3)その第三者の信頼が真正権利者の帰責性との関係で正当なものであることが必要とされる。したがって,真正権利者がその意思に対応する虚偽の外観を消極的にせよ作出した場合には,帰責性が大きく,第三者はたとえ過失があろうとも保護される。しかし,真正権利者の意思と対応しない外観が作出されるに至った場合,権利外観法理に基づき,真正権利者に責任を負わせるのは,権限外の表見代理を規定した110条の法意に照らしても妥当ではない。このような場合には,同条が準用する109条但書と同様の要件である,善意無過失を第三者に要求することで,真正権利者の帰責性とのバランスが図れると解する。