設立

株式会社の設立は①実体の形成と②法人格の付与,という二つの要素からなる。
②法人格の付与は,他の会社と同様準則主義により,一定の要件が満たされれば当然に法人格が与えられる。が,①実体の形成は非常に困難な手続である。定款を作り,社員は誰かを決め,株式を発行し,払い込みをなし・・・このほかにもさまざまな煩瑣な手続を経なければならない。これは,株式会社の物的会社性のためである。人的会社では社員間の結合の度合いが強く,債権者にとっては責任追及がなしやすいのに対し,株式会社は人的結合の度合いが非常に弱い。
すなわち,人的会社ではその責任の直接性のため,債権を比較的容易に回収することができるが,株式会社は株主の間接有限責任が責任の基礎となるため,回収できる債権にも限度があることになる。だが,何とかして債権者を安心させる仕組みを作らなければ,株式会社には誰も投資をしなくなってしまう。そこで,法が用意したのがさまざまな債権者保護「制度」であり,それは人間性を捨象した「事実」により構成される。
このように,株式会社ではあらゆる場面において「客観性」が信用の基礎となる。そのため,無から有が生まれる設立手続においては,実体の形成について最も神経が使われるのである。商法は,その最初の第一歩として,発起人定款を作ることを要求している(165条)。


  • ▼手続

▽発起人の定款作成
  ・絶対的記載事項(166条)
    1)目的
      会社の権利能力に関係
    2)商号
    3)会社が発行する株式の総数
      =授権株式数
      引受後設立前か創立総会で決定すればよい
        →定款ではなく,発起人が決める
        →絶対的設立事項ではない
    4)会社が設立に際して発行する株式の総数
      「株式会社の設立に際して出資すべき額またはその下限額」
        →下限額の制限なし
    5)本店所在地
    6)会社が公告をする方法
      「日経」とか「官報」とか
      →任意的設立事項へ
    7)発起人の氏名と住所


  ・任意的記載事項
    書いても書かなくてもよい


  ・相対的記載事項変態設立事項,168条)
    →濫用の恐れが大きい→危険防止
    1)発起人の特別利益
    2)発起人の報酬
    3)設立費用
    4)現物出資

?なぜ現物出資が変態設立事項なのか
当該「現物」の過大評価を防止するためである。過大評価が行われれば,会社の形式的財産基盤は毀損しないが,実質的には毀損してしまう。このため,会社債権者を保護する目的で,現物出資は変態設立事項となっている。

    5)財産引受

?財産引受はなぜ変態設立事項なのか
現物出資の規制の潜脱を防止するためである。財産引受とは,会社の成立を条件として,会社が財産を譲り受ける契約であるが,この財産の譲渡人が株式引受人の場合であって,不当に高価な価格により会社が対価を支払った場合には,現物出資の過大評価と同様の状況に陥ってしまう。

    関連)事後設立(246条)
      検査役の調査制度は廃止


▽定款の認証(167条)


▽設立
  @「発起設立
    株式引受(169条)
      →社員確定
    発行価格全額の払込→払込取扱機関(170条1・2項)
      →払込取扱機関の保管証明義務(189条1項)
        保管証明=残高証明
    現物出資履行(172条)
    ・預合

?預合とは何か
預合とは,発起人が払込取扱機関から借金をし,これを株式の払込金とするもので,借金を返済するまでは払込金を引き出さないことを約することをいう。これらは,現実の金銭移動がないにもかかわらず,払込取扱機関の帳簿操作だけによってなされる。つまり,払い込みの仮装である。
?これがなされた場合どうなるのか
形式上当然に無効となるわけではないが,実質的には資本充実の要件を欠いているため,無効と解される。法も,払込金の保管証明は会社に対して対抗できない旨を規定し(189条2項),罰則も設けている(491条)。

    ・見せ金

?見せ金とは何か
見せ金とは,発起人が払込取扱機関以外の箇所から借金をし,これを払込金に充て,会社成立後,即座に払込金を引き出し,借金返済に充てるものをいう。払込取扱機関から借金をしない点では預合とは異なるが,実質的な資本充実の要請を欠いている点においては同様であり,問題が生じる。
?では預合と同様無効と解されるのか
そうとも限らない。預合とは違い,一応現実には金銭の移動があり,見せ金を一切無効と解するのは妥当ではない。ただ,見せ金は預合の潜脱手段として用いられる虞があるため,一切有効と解するのも妥当ではない。したがって,見せ金が仮装払い込みかどうかは①借入金返済までの期間の長短,②払込金が会社資金として実際に運用されたか,③会社の資金全体との関係,等を総合的に考慮して決するべきである。
?無効であればどうなるのか
払い込みが実際にはなされていないこととして扱われるため発起人・会社成立時の取締役は払込担保責任を負う(192条2項)。この払い込みがなされなければ,会社設立無効の原因となる(428条)。さらに,任務懈怠として193条1項2項の責任を負いうる。払込取扱機関も,見せ金の事実について悪意・重過失である場合には,189条2項の責任を負う。
?会社設立無効の原因となるとしているが,新たな払い込みが正当になされた場合,資本は充実することになる。この場合でも,設立無効原因はまだそのままなのか
このような場合,設立無効原因は治癒される。192条の趣旨は資本充実にあるのだから,資本が充実すれば設立無効原因は治癒されると考えるのが当然である。元来存在した欠缺額の大小は問題とならない。しかし,払い込みがなされなければ,設立無効原因は存在し続けることになる。

    取締役・監査役の選任(170条1・3項)
      発起人の過半数
      発起人の引受株式数の過半数
      →変態設立事項に関する検査役の選任請求を裁判所に(173条1項)
        ×例外→検査がいらないもの(173条2項)
          →拡大傾向
        検査の結果・・・
          →検査役が裁判所への報告して
            →不当だったら裁判所が「変更通告」(173条4項)
      →取締役・監査役自身も設立検査をする(173条の2)
        「検査役の調査までは必要ないが,一応調査したほうがいいな」
        検査の結果・・・
          →発起人への報告(173条の2第2項)
  @「募集設立
    株主募集(174条)
      「うちの株買いませんか」
      申込に関するルール(175条)
        申込には民法93条但適用なし(175条9項)
    申込者の株式引受
      「買います」
      ↑発起人が申込者に株式を割り当てる
        ↑自由に割り当てできる
          =「割当自由の原則
    申込者の払込義務(176条)
    発起人が払込を申込者にさせる義務(177条1項)
      「ちゃんと払い込んでください」
      現物出資も同様(177条3項→172条)
    払込がなければ失権(179条1・2項)
      →損賠ありうる(179条3項)
      発起人の補充可能に
    創立総会召集(180〜187条)
      変態設立事項の調査は募集設立準用(181条)
        ↑「裁判所」は「創立総会」に読み替え(181条3項)
      発起人の経緯説明(182条)
      取締役・監査役の選任(183条)
    

設立登記(188条1項)
  内容(188条2項)
  これによって◇会社成立(57条)
    そして↓
      株式引受の無効・取消主張制限(191条)
      株券発行(226条)
        →権利株概念消失
          →権利株譲渡制限(190条)の解除


  • 設立中の会社

会社は設立登記により成立する。逆に考えると,登記以前には法人格が存在しないことになる。ところが,発起人は会社成立のために,事務所を借りて企画立案をしたり,広告をなしたり,会社のコネクションを作るために飲み会を開催したりしている。会社の設立登記により,会社が無から有が生じるように成立し,発起人とはまったく関係が断絶してしまうとすれば,発起人の会社に対する活動を評価しえず,また,会社成立を背景として発起人に協力した債権者の信頼を無視することになり,妥当ではない。
そこで,このような会社成立のためになされた発起人の活動と,登記により成立した会社の連続性確保のため,「設立中の会社」という概念が認められなければならない。設立中の会社と,設立後の会社は,前者は権利能力なき社団であり,後者は法人であるという法人格の有無一点のみしか差異は存在しない。このように解すれば,発起人は設立中の会社の執行機関であると観念でき,その活動から生じた権利義務は,設立後の会社に当然に承継されるため,連続性の確保に資する。


発起人組合
  :発起人らによりなる,会社設立を目的とする組合
  ≠設立中の会社

発起人組合も設立中の会社も,実在する「人」ではない。このため,実際の手足となる「人」が必要となるが,その手足が(組合・設立中会社の)権利能力の範囲内で行動をすることが要件となる。でなければ,手足が暴走した場合に発起人組合や設立中の会社を害することになる。
?設立中の会社の権利能力とはどのようなものか
設立中の会社は法人格がないため,権利能力も存在しない。ここで問題となるのは「実質的」権利能力である。
?範囲はどこまで及ぶか
設立中の会社であるために,設立後の会社の業務である営業行為には及ばない。ただし,営業をなすに必要たる行為には一切及ぶものとしなければ,設立中の会社たる目的を達成し得ない。したがって,範囲としては,設立準備行為はもちろんのこと,開業準備行為にも及ぶ。つまり,コネ作りのための飲み会も設立中の会社の実質的権利能力の範囲内である。
?発起人組合の場合はどうか
発起人は設立中の会社の執行機関であると解しうるから,その権利能力も設立中の会社と同様に扱うのが妥当である。しかし,この範囲内といえども,発起人の権限を認めてしまうと,それが濫用されてしまう危険性を否定できない。この点,法は財産引受を変態設立事項として規定(168条1項6号)し,この防止を図っているため,一定の安全は確保される。これ以上に,財産引受以外の開業準備行為にも168条を拡張・類推適用し,定款への記載を要求する見解(弥永)もあるが,このような手続が発起人の権限濫用を防止しうるとしても,その煩瑣性が発起人のモチベーションを削いでしまうデメリットのほうが大きいと考えられるため,妥当ではない。
?財産引受が定款に記載されない場合,当然に無効なのか
無効である。そうでなければ法の趣旨が没却される。追認もなしえない。
?法の趣旨は会社の実質資本毀損防止であると解される。であるならば定款に記載のない財産引受といえども,会社に害を及ぼさないことも考えられる。現に当該財産の評価額が上昇し,会社には利益が生じるような場合であっても追認はなしえないのか
なしえない。確かに法の趣旨は会社保護にあるため,そのように解すること自体は矛盾ではない。しかし,そのような「例外」を認めることは,法的安定性を害し,まじめに手続きを踏んで定款に記載した者の労を無視する結果となる。
?追認を認めなければ相手方に履行を拒む口実を与える結果となるのではないか
財産引受を定款に記載しないことと,履行を拒む口実を与える問題とは,別個独立の問題である。そのようなものには,不法行為等の責任を追及すればよい。


・設立費用
  :発起人が会社設立のために,設立中の会社の機関として支出した費用(168条1項8号)

?設立費用の弁済が会社成立時においてもなされない場合,債権者は誰に支払いを請求できるか
設立後の会社,もしくは当時の発起人である(重畳責任説)。設立中の会社と設立後の会社は連続性が観念できるため,債務も当然承継され,また承継されたとしても,債権者が発起人と設立中の会社の関係について善意であった場合,設立後の会社にしか支払いを請求できないとすれば,まったく落ち度のない債権者に手間を負わせる結果となり,妥当ではない。
?会社が一切の債務を承継するのであれば,今度は会社の債権者を害することになる
このため,定款に記載のない設立費用については,会社が発起人に対し求償できる。
  • cf.

法務省