共同正犯

  • ●意義

2人以上のものが共同意思のもとに,共同して実行行為を行うこと(60条)。
≠同時犯


  • ▲要件

1 △共同実行の意思(主観的要件)
   =共同者全員が仲間の行為を利用・補充して実行する意思
   ⊃暗黙の意思
   ⊃順次共謀
      必ずしも全員が同時に共謀する必要はない
      AとB→BとC
   ⊃突発的な共謀


2 △共同実行の事実(客観的要件)
   =共同者全員が仲間の行為を利用・補充して実行すること


  • ?問題点

共謀共同正犯
   :共謀は全員により行われたが,実行は一部の者が行った場合において,残りの者も共同正犯とする理論。⇔実行共同正犯

ポアしてこい?? 条文を文理解釈すれば,共謀共同正犯は認められる気がしない。が,これを認めようとするのは法感情,価値観に他ならない。自ら殺害行為に加担しているわけでもなく,殺害行為の指示が「ポア」では,客観的にどこに実行行為があったといえるのだろうか。
?このような理論は認められるか
認められる。「共同して犯罪を実行した」には全員共謀個別実行の概念を読み込むことができる。したがって,共謀に参加したが,実行行為を行わなかったものも含まれる。
?では要件は何か
まず,①共同意思(主観的要件)が必要で,それは「正犯の意思」でなければならない。次に,②共同実行の意思の確認として,役割分担の共謀が現に行われ,最後に,③その共同実行の意思の発露としての「実行」が行われなければならない。
①みんなでやろう。②じゃあ,おまえがやって。③(実行)

★「練馬労働争議最大判昭和33・5・28百選Ⅰ73
<事実>
練馬の製紙工場の労働争議で,2つある組合のうち1つに属するXとYは,他の組合に属するBをボコボコにしようと計画(共謀)。Yがこれを指揮し,Zらが実行した結果,Bは死亡してしまった。XとYの実行行為性如何。
<判断>
共謀共同正犯の成立には,2人以上のものが,特定の犯罪を行うため,共同意思のもとに一体となって互いに他人の行為を利用し,各自の意思を実行に移すことを内容とする謀議をなし,よって犯罪を実行した事実が認められなければならない。つまり,共謀に参加すれば,直接実行行為をしなくても,他人の行為を自分の行為として犯罪を行ったという意味において,刑責の成立に差異は生じない。
同時共謀でなくても,順次共謀でよい。


承継的共同正犯
   :先行行為者の実行行為が全部終了しないうちに,後行行為者が事情を知りながら関与する共犯形態。

?このような形態は認められるか
認められる。後行者と先行者に共同実行の意思と共同実行の事実があれば,一般共同正犯の場合となんら差異はない。
?後行者は関与以前の先行者の行為に影響を及ぼしていないではないから,共同実行がないではないか
後行者はそれを債務として承知しながら実行に加わっているのだから,関与以前の共同実行が存在しない点は,共同実行の意思が発生した時点で治癒される。

★「承継的共同正犯」大阪高判昭和62・7・10百選Ⅰ80
<事実>
ZとYは共謀し,組事務所でAに暴行を加え,傷害を負わせた。一方,同事務所にいたXは,血を流して倒れているAを見て事の成り行きを察知,Aの顎を軽く小突いた。Xは傷害罪か,暴行罪か。
<判断>
暴行罪。
承継的共同正犯の成立根拠は,先行行為者の行為を,自己の行為として積極的に利用した点にある。それには積極的な意思の存在と,実行の事実が必要である。したがって,後行者が先行者の行為を単に認識・認容したというだけでは,特段の事情のない限り,積極的な意思が存在したとはいえない。
本件の場合,Aの傷害のほとんどは被告人が加担する前に生じていたことが明らかでもある。

先行者と後行者に同時の共同が必要か
必要ではない。少なくとも,共同実行の意思のもとに実行行為がなされればよいのであって,同時の共同実行が行われなくとも,時間的間隔がある場合においては,共同実行の意思が実行行為のかすがいの役割を果たしていればよい。


過失の共同正犯
   :2人以上の者が共同して一定の行為を行い,その過失により構成要件に該当する結果を引き起こすこと。

?この場合の主観的要件は何か
「共同の注意義務」の存在である。つまり,お互いに注意をしなければならない関係がある場合においては,「過失を犯さない」という目的へむかう主観的共同関係がある。
?では客観的要件は何か
「共同の注意義務」に「共同して違反」することである。

★「世田谷ケーブル火災」東京地判平成4・1・23百選Ⅰ78
<事実>
被告人両名は地下の電話ケーブル工事の際,トーチランプを各自使用していたが,その消火を確認せずに立ち去ってしまった。このため,どちらのランプの消え忘れかは定かでないが,延焼により世田谷電話局者が危うく燃えそうになった。
<判断>
業務上の注意義務が共同作業者に課せられていたことが認められ,また,被告人両名は相互にこれに違反したことが認められる。そうすると,被告人両名が過失行為を共同して行ったことが明らかである。


4 結果的加重犯の共同正犯
   :2人以上の者が基本的行為につき共同の意思があったが,一部の者の行為により重い結果が生じた場合に,共同者全員がその結果につき共同正犯とされること。

?このような共犯類型を認めるのは責任主義に反するのではないか
確かに,基本的行為から完全に乖離した行為にまで,共犯を認めるのは妥当ではない。ただし,基本的行為と相当因果関係にある行為は,基本的行為のうちに潜在的に含まれるものだから,責任主義には反しない。
  • ◆効果

◇全員が正犯としての罪責を負う
   =「すべて正犯とする」
   =「一部実行全部責任の原則
   具体的な処断は,関与・責任の度合いに応じて個別的になされうる。

「一部実行全部責任」の根拠は,物理的因果性のみならず,心理的な因果性が重要。
∵心理的な一体感が,共犯者の人格性を一にする(一心同体)。
→犯罪を犯した「手」だけが悪いんじゃない。脳も,目も,耳も,鼻も・・・