公権力の行使に基づく賠償責任
● 意義
公務員が公権力の行使に際し,その職務について故意・過失によって違法に他人に損害を加えたときに,国または公共団体が負う損害賠償責任(国家賠償法1条,憲法17条)。
第一条 国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。
代位責任である(通説)。
民法の特則である(4条)。
使用者責任(民法715条)との違い ①公権力の行使×事業の執行 ②免責事項 ③求償権の明定 ④違法要件×権利侵害要件 ∵適法性推定←「法律による行政」 →あえて「違法に」という しかし,両責任とも,結局不法行為責任の特則,という面においては然して変わりがない。したがって,根底にあるのは「被害者救済」「損害の公平な分担」である。
▲ 要件
△公権力の行使
公権力=行政権+立法権+司法権
⊃不作為
☆不発弾の処理懈怠(最判昭59・3・23)
☆警察官のナイフの一時保管懈怠(最判昭57・1・19)
・狭義説
権力的な活動に限る
⊃課税処分
・広義説
狭義+非権力的な公行政
☆中学校の課外クラブ活動の教諭の監督(最判昭58・2・18)
☆公立学校の(体育)教師活動(最判昭62・2・6)
・最広義説
すべてを含む
⊃行政指導
⊃行政契約
△公務員
⊃公務員に委託を受けた私人
★「個人特定の要否」最判昭57・4・1百選148
<判断>
具体的にどの公務員の,どのような違法行為が損害を生じせしめたのかがわからなくても,抽象的に,つまり,どちらかの公務員の行為がなければ被害が生じなかったであろうという状況があり,その行為について国または公共団体が,法律上賠償の責任を負うべき関係にあるときは・・・
<整理>
個人特定が不要,ではないが,上記要件のもとでは不要になる。
△職務を行うについて
★「外形標準説」最判昭31・11・30百選139
<事実>
東京都の巡査が,非番の日に制服を着用し,職務を装って強盗を行おうとして殺人を犯した事件。
<判断>
公務員が主観的に意思をもってする場合に限らず,客観的に職務執行の外形をもって,他人に損害を加えた場合には,国または公共団体に損害賠償の責を負わしめて,広く国民の権益を擁護することをもって,その立法の趣旨とする。
△故意・過失
=抽象的過失
→被害者救済
①予見可能性
②回避可能性
③その懈怠
を職務執行全体において判断
☆合意体の過失は構成員の過失ではなく合議対の過失(札幌地小樽支判昭49・12・9)
=組織的過失
△違法に
☆社会通念等に反し客観的正当性を欠くこと(東京地判51・5・31)
「不当性」との関係 行政権は私人と違い「適法に」「権利侵害」をする場面もあり,また,「法律による行政」の原理により,その行為には適法性が推定されるため,国家賠償の要件には「違法」が必要とされる。しかし,その要件に,常々「違法」を要請していたのでは,「不当」ではあるが「違法」ではない「権利侵害」に救済措置が与えられないことになってしまう。したがって,学説判例は,この「違法」は「不当」を含むものとして,違法概念を内側から拡張しようとする。
★「パトカー追跡」最判昭61・2・27百選142
<事実>
Y県警の巡査であるAら3名は,Bが車で逃走したため,それをパトカーで追いかけていた。一度は捕まえた・・・と思ったが,再びBの車が逃走を開始したため,Aらも追跡を再開。その途中,ひょんなことからサイレンを消していたが,Bの車が赤信号の交差点に進入し,青信号で通行中のC車に衝突,Cの同乗者は死亡。そして,追突されたC車とさらにX車が衝突し,X負傷した。XがYに国賠請求。
<判断>
警察官は犯罪者の検挙・逮捕を職責とするのであって,この職責のためには,被疑者を追跡することはもとよりなしうる。そして,この追跡が,交通法規に違反して行われ,第三者が損害を被った場合,これが違法であるというためには,追跡の方法が不相当であることを要する。
信頼への裏切り(国立マンション1審)
委任・期待権構成?
¬⊃公訴提起(最判昭53・10・20)
¬⊃検察官の不起訴処分
∵¬法律上保護された利益(最判平2・2・20)
¬⊃立法不作為(最判昭60・11・21)
∵国会議員は国民全体(≠個別の国民)への責任を負う
⊃行政指導(最判平5・2・18)
△損害発生
要因果関係
◆ 効果
◇(国・公共団体の)損害賠償責任(1項)
被害者は加害公務員に直接請求できない(最判昭30・4・19)
◇(国・公共団体の)加害公務員への求償権(2項)
故意・重過失があるときに限る(軽過失の場合はなし)