取消訴訟

● 意義

行政処分,もしくは裁決の取消を求める訴訟(行政事件訴訟法2章1節)。


▲ 訴訟要件

処分性の存在
   →cf.行政行為


原告適格(9・10条)
   1) 法律上の利益を有すること(9条1項)
      ※裁判所の解釈指針(9条2項)
         :法令の趣旨+目的←(考慮)→利益の内容+性質

★「ジュースに果汁が主婦」最判昭53・3・14百選178ケース12-1
<判断>
法律上の利益がある者とは,法律上保護された利益を侵害され,またはされそうな者をいう。
法律上保護された利益とは,反射的利益とは区別される。
主婦(⊂一般消費者)が景表法で受ける利益は,反射的利益・事実的利益であり,法律上保護された利益ではない。
<整理>
この後の新潟空港判決(最判平1・2・17百選201ケース12-2)は,個別的利益が行政法規の保護の対象となる場合,その判断は,当該行政法規+目的を共通する関連法規の関係規定によって形成される法体系の中において,当該処分の根拠規定が,当該処分を通して右のような個々人の個別的利益をも保護すべきものとして位置づけられていると見ることができるかどうかによって決すべきである,とした。
=規範拡張①

法律上の利益 の解釈が,原告適格の広狭にダイレクトに影響するため,元来ここは論争の的であった。最高裁は主婦ジュース判決で「法律上保護された利益」と解することにより,一層原告適格を狭く解した。対抗する学説としてあるのが「法的保護に値する利益説」「適正性保障説」だが,判例よりも,原告適格を広く解している。原告適格を広く解するメリットはいうまでもないが,デメリットは判断基準の不明瞭化であろう。適法性保障説って・・・
また,最近の最判によれば,処分法規の保護法益が直接に対象にしないものでも,生命・身体に侵害を及ぼす可能性がある場合,原告適格が肯定される傾向がある。

★「もんじゅ〜20キロ〜60キロ」最判平4・9・22ケース12-4
<事実>
もんじゅ設置場所から数キロ〜60キロ以内に居住する原告らが,設置を許可した総理大臣を訴えた事件。争点は原告らの訴訟適格だが,原審は半径20キロ以内の住民にのみこれを認めた。
<判断>
法律上の利益を有する者については前言がある(最判昭53・3・14)が,当該行政法規が,不特定多数の具体的利益をそれが帰属する個々人の個別的利益としての保護すべきものとする趣旨を含むか否かは,当該行政法規の趣旨・目的,当該行政法規が当該処分を通して保護しようとしている利益の内容・性質等を考慮して判断すべきである。
<整理>
規範拡張②

★「危険建物の近隣住民」最判平14・1・22重判平14行政法2ケース12-9
<事実>
東京都は訴外会社の申請により,地上110m,22階建てのビルの高度緩和許可を,建築基準法59条の2第1項によりなした。このため,近隣住民が日照権の問題等を理由に本訴を提起。
<判断>
59条の2第1項は個々人の個別的利益を保護する趣旨を含む。
<整理>
生命・身体。

★「近鉄特急料金」最判平1・4・13
<事実>
近鉄がした特急料金の値上げについて,被告である大阪陸運局長が認可を行った。これに対し,沿線住民が取消訴訟を提起。
<判断>
地方鉄道法21条に基づく認可処分は,鉄道利用者の契約上の地位に直接の影響を及ぼすのもではないし,同条の趣旨は公共の利益を保護するところにある。そうすると,利用者の個別的利益を保護することを同条は念頭においていないから,沿線住民には原告適格がない。
<整理>
じゃあ300円の特急料金が1万円に値上げされても,原告適格は否定されるのだろうか。運賃認可制度の目的=独占的企業からの利用者利益の保護。

★「伊場遺跡」最判平1・6・20百選204ケース12-3
<事実>
浜松にある伊場遺跡は,学者やその筋の住民にとっては貴重な場所だったが,駅前再開発によりその史跡指定が解除された。このため,学者らが静岡県教育委員会を相手取り処分の取消を求めた。
<判断>
根拠条例の根拠法の目的(1条)や各規定には,県民・国民などの個々人の個別的利益を保護すべきものとした趣旨のものは見当たらない。そうすると,個々の利益は公益の中に吸収され,その中で実現されるものと解される。

★「大阪墓地」最判平12・3・17重判平12行政法2ケース12-8
<事実>
宗教法人Aは,墓地埋葬等に関する法律10条1項に基づいて,大阪府知事に経営許可を申請,許可を得た。ところで,この法律とは関係のないところで,大阪には条例があり,そこには墓地設置は住宅から300メートル以上離さなければならない,と書いてある。このため,300メートル以内に居住する住民らが,本訴を提起。
<判断>
法の趣旨は墓地経営の公益性や,観衆等の存在により一律の規制になじまないことにかんがみ,許否の判断を都道府県知事の広範な裁量に任せたものである。そうすると,法が個別的利益を含む趣旨であると破壊せられない。これは,条例に関しても同様であるから,近隣住民には原告適格がない。

   2) 狭義の訴えの利益があること
      処分の消滅→狭義の訴えの利益の消滅
      ・具体例
         建築確認の取消の主張
            @対象建築物の工事完了(最判昭59・10・26百選213)
         免停処分取消主張
            @免停期間終了
         工事許可処分取消
            @工事完了
         皇居外苑使用不許可処分の取消主張
            @時間の経過(最大判昭28・12・23百選71)
         原告死亡
         東京12チャンネル事件
      ×例外:回復すべき法律上の利益を有する者(9条1項括弧書)



△被告適格(11条)
   国・公共団体(11条1項)


△裁判管轄(12条・13条)
   事物管轄・・・無し→地裁へ
   土地管轄・・・処分庁の所在地→(遠い・・・)→近くの地裁へ


5 △出訴期間(14条)
   処分を知った日から6か月以内(1項)or処分から1年以内(2項)
      知った日=社会通念上知りうべかりし日(最判昭27・11・20)


本案審理

民事訴訟規定の補充的適用(7条)
   ex.弁論主義


・実質的証拠法則


・違法の判断時期
   =処分時


・第三者の訴訟参加(22条)
   ∵権利保護+適正審理


・行政庁の訴訟参加(23条)
   ∵適正審理


・職権証拠調べ(24条)
   →公益のため
   ↑証拠調べのオプションにすぎない(最判昭28・12・24)


・釈明処分の特則(23条の2)(ハンデ戦
   裁判所「証拠提出してください」→行政庁(1項)
    〃 「先の裁決の資料を・・・」→ 〃(2項)


・執行不停止の原則(25条1項)
   例外:執行停止制度(25条2項)
      ↑裁判所による執行停止
   内閣総理大臣の異議(27条)
      合憲違憲の問題は生じない(東京地判昭44・9・26)
         ∵本条の規定(司法権への執行停止権授与という)特則(25条2項)の特則


・立証責任の配分
   ◎原則:原告
      ⊃裁量処分
   ×例外:(資料が全部行政庁に)=立証責任の転換→事実上の不合理推認(伊方原発
      ↑立証の難易,証拠への距離を衡量(利益衡量)


・文書提出命令


・教示制度(46条)
   ・方法
      書面処分←書面教示
      口頭処分←書面教示でなくてよい
   ・内容
      ①被告
      ②出訴期間
      ③「不服申し立て前置主義」の場合


■ 訴訟の終了

□判決によらない終了
   1) 訴えの取下げ
   2) 裁判上の和解
   3) 請求の認諾
   4) 原告の死亡

 
□判決による終了
   ・却下判決
   ・請求棄却判決
   ・請求認容判決
      =取消判決
   ・事情判決(31条)

★「ダム作っちゃった」札幌地判平9・3・27重判平9行政法8ケース14-7
<事実>
北海道収用委員会は,二風谷ダム建築のため土地収用裁決をなした。が,アイヌ民族アイヌ文化に対する影響を考慮していないとして,原告らが本訴を提起。一応,本件裁決に先立つ事業認定は違法の評価を受けたが・・・
<判断>
すでに,ダム本体は数百億円もの巨費を投じ完成している。しかも,できたダムに水をためないとかえって危険でもある。ダムを撤去する,というのも公の利益に著しい障害を生じる。また,すでにポロモイチャシ跡,ペウレプウッカ,カンカンレレケヘのチノミシリは破壊されており,その他の事情も考慮すると,本件収容裁決を取り消すことは公共の福祉に適合しない。
そこで,本件では行政事件訴訟法31条1項を適用する。

◆ 請求認容判決の効力

形成力
   判決により,行政処分は,処分時にさかのぼって効力を失う
   →当事者(当然)
   →第三者32条1項)
      ☆「花巻温泉事件」最判昭42・3・14百選230ケース14-2
         判決の第三者効を確認

三者 処分が取り消されても,処分のせいで第三者が影響を受けていたらどうなるか,という物権変動的な問題がある。要するに,取消判決を得た当事者と,第三者のどちらを優先的に保護すべきか,という価値観の対立が根幹となっているが,ここはやはり,取消判決を受けた当事者を優先すべきであろう。しかし,第三者の権利といえども,完全に無視してしまうわけにもいかないだろう。一応は,例外的に,考慮にいれるべきである(相対的効力説)。

★「相対的効力」東京地決昭40・4・22ケース14-1
取消訴訟は自己の法律上の利益の救済のために認められた制度だから,それとは関係ない部分については,取消を請求し得ない。つまり,立法行為が取消訴訟の対象となっても,取消を請求できる部分は,原告に関係する部分だけであり,行政行為一般は取り消されるのではない。

★「絶対的効力」大阪地判昭57・2・19ケース14-4
・・・仮に,本件認可処分が取り消されれば,利用者が1日10万人もいる近鉄特急の運行に多大な混乱を生ずるから,事情判決が必要である。


◇既判力(行訴法7条→民訴法114条)
   請求棄却判決にもある
   →国賠訴訟の材料にもなる


◇拘束力
   →行政庁等(33条)
      ①同じような処分はもうできない
         反復禁止効
      ②やってしまった処分をやり直す
         作為義務

★「同じ処分?」大阪高判平10・6・30ケース14-8
<事実>
原告である滋賀県の県民Xは,滋賀県公文書公開条例に基づき,文書の公開を請求。知事Yは,理由①により非公開を決定。このため,Xはこの決定の取消判決(前訴)を得,再度公開を請求したところ,今度は理由②により,またもや非公開決定を受けてしまった。
<判旨>
取消判決のあとの再処分は,判決の趣旨に従いなされるべきだから(行訴法33条2項),必ずしも申請認容処分をしなくてもよい。
取消判決の拘束力は,前訴の趣旨に従うと理由①にしか及ばない。そして,理由①と理由②は保護法益を異にしているから,理由①への拘束力が理由②に及ぶとすることもできない。

!ポイント

!審査請求と取消訴訟の関係(8条)
   基本的には「自由選択主義」(1項)。
      ただし,例外的に「不服申立て前置主義」(但書)。
         ただし,例外有り(2項)。
   両方同時にもできるが,審査請求中は訴訟中断可能(3項)。

  • cf.

第24章 取消訴訟
第四節 取消訴訟