人権

国家が領域内の人間をどのように統治しようともそれは自由であり,他国はこれに干渉してはならなかった(不干渉原則)。しかし,二次大戦のジェノサイドは,人権は国内問題ではなく国際問題であることを認識させる契機となり,国連を中心とした国際人権保障の機運が高まった。

人権外交 逆にいえば人権は国際政治においてマジックワードとして機能し,大国は他国の運命を人権侵害を理由に左右しうる。そうはいっても,やはり口出ししないわけにはいかない。ということで,人権の普遍性は文際的視点からの観察が不可欠と考えられる。北朝鮮のちびっ子も,あれはあれで幸せなのかもしれないし。
ちなみに,日本は戦争責任問題への発展をおそれ,人権外交に消極的とされる。その代わり,ODAの供与対象選出にあたっては対象国の人権状況を調査する。

■ 人権保障規定

人権保障には世界全体への適用がある普遍的人権保障と一定の地域のみに適用がある地域人権保障がある。前者が形式的意味での国際法

第1条【目的】
国際連合の目的は、次の通りである。
3 経済的、社会的、文化的又は人道的性質を有する国際問題を解決することについて、並びに人種、性、言語又は宗教による差別なくすべての者のために人権及び基本的自由を尊重するように助長奨励することについて、国際協力を達成すること。
第2条【原則】
この機構及びその加盟国は、第1条に掲げる目的を達成するに当っては、次の原則に従って行動しなければならない。
7 この憲章のいかなる規定も、本質上いずれかの国の国内管轄権内にある事項に干渉する権限を国際連合に与えるものではなく、また、その事項をこの憲章に基く解決に付託することを加盟国に要求するものでもない。但し、この原則は、第7条に基く強制措置の適用を妨げるものではない。

1条3項の人権規定は,国内管轄事項への干渉禁止を定める2条7項との関係が問題となるが,アパルトヘイト以降,人権問題の処理は不干渉主義に優越するようになった。今は中国が問題。

  • 世界人権宣言

http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/udhr/index.html

第1条
すべての人間は、生れながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利とについて平等である。人間は、理性と良心とを授けられており、互いに同胞の精神をもって行動しなければならない。

内容的に,また時期的なことによりに全地球的な正統性は問題かもしれないが,世界に人権を宣言したという社会学的意味は大きい。

http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kiyaku/index.html
世界人権宣言を基礎として,条約化したもの。
社会権規約(A規約)と自由権規約(B規約)があるが,この条約が途上国のアピールによるものであることもあり,アメリカはA規約を批准していない。しかし,この規約は多くの国々の参加で作成されたため,世界人権宣言より正統性は高いとされる。
社会権規約(A規約)
   ・社会権規約委員会
自由権規約(B規約)
   ・自由権規約人権委員会
      一般的意見の送付義務。


■ 保障される人権

  • 生存・自立

すべての人間は,生命に対する固有の権利を有する(B規約6条)ため,国家は恣意的殺人をしないだけではなく,殺人の防止や殺害者の処罰,強制失踪*1の防止等の義務を負う。さらに,乳児死亡率の減少や平均寿命の伸長,核兵器製造など大規模暴力行為の除去に努める必要があるが,中国が問題。
障害者や子どもの自立も課題だが,研究途上。

  • 労働関係

労働への権利と労働者としての諸権利は,A規約B規約ともに規定を持つ。
国連の専門機関はILO
途上国から先進国への移住労働者の保護を主眼として,1990年に移住労働者権利保護条約が採択されたが,先進国はほとんど批准していない。

  • 迫害からの自由

拷問は今でも頻繁に起こるが,政治的な干渉の口実にされることもあり,アムネスティなどの人権NGOの活躍が貴重。
政治犯罪は一般の犯罪とは違い,そもそも何が犯罪なのかが明らかでないばかりか,一方的に犯罪者とされる場合も多い。このため,政治亡命は国の庇護権による保護を受けうる。この庇護権は保護を求める権利ではないが,生命・自由が侵害される国へ強制送還・追放する処分を受けた場合は,国内裁判で争うことができる(難民条約など)。逆に,国は平和に対する罪などを犯した者に庇護を与えてもならないし,これらはむしろ引渡犯罪になる(ジェノサイド条約,ハイジャック防止条約。

犯罪人引き渡し 他の国家に対し,自国にいる犯罪人を引き渡すこと。
基本的に義務はないが,条約を結んでいればそうともいえない。
どのような犯罪でも引き渡すことはできるが,重大犯罪であり,双方の国で犯罪とされるものに限るのが通例。
さらに,国際慣習法政治犯不引渡し原則がある。
日本の場合,裁判所や検察庁も関係するが,陣頭指揮をとるのは外務大臣法務大臣(逃亡犯罪人引渡法)。

戦争やレジームチェンジは大量の難民を発生させたため,UNHCRが設立され,難民条約が採択された。しかし,脱植民地化により今度は国家未成熟による新たな難民(構造難民)が問題となったため,UNHCRは人道援助機関へ変容。

  • 差別からの自由

黄色人種への差別をはね返すため,一次大戦後に日本は国際連盟に人種平等提案をしたが却下。これに対して二次大戦後は世界的な人種差別禁止の高まりが目立った。
・人種
・性別
・国籍
   自国民と外国人を区別しない。
・民族
   アイヌなど。


■ 人権保障の履行確保

相互主義的履行確保
   国力の違いにより,微妙。
・非相互主義的履行確保
   報告・通報・国際機関の主導。
   報告の公表・調査団派遣・勧告・調停・人権外交。
・国連による履行確保
   1235,1503手続。
   人権侵害のテーマ別に部会を設ける。
   重大なのは総会・安保理へ。

国際法―はじめて学ぶ人のための

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*1:誘拐・拉致