法の下の平等

人権の内容は,簡単に言えば自由と平等である。日本国憲法において,自由を定めたのが13条の「幸福追求権」であるとすれば,平等を定めたのは14条1項他の「法の下の平等」であると解される。


● 意義

いろいろな要因による人と人との違いを前提としつつも,法的な取り扱いの面では平等を要求する原則(憲法14・24・44条)。
法内容の平等相対的平等の趣旨を包含すると解される。


違憲審査基準

法の下の平等が相対的平等を指向するものであるとすれば,実際の差別的事例において,合理的な差別・非合理的な差別の区別を行うのは困難である。そこで,「人種、信条、性別、社会的身分又は門地」を単なる例示と解し,それ以外の事由にあっても,二重の基準を用い,「(立法)目的」と「(目的達成のための)手段」の側面から合理性の有無を判断すべき,ということになる。

二重の基準
「自由」を経済的自由と精神的自由とに分解し,前者には緩やかな審査基準,後者には厳格な審査基準を用いる考え。精神的自由は民主制の根幹を支えるために不可欠のものであるため,経済的自由に対し優越的地位があるという思想に基づき,審査基準において,両自由を区別する。厳格な審査基準にあっては,目的が必要不可欠なもので,手段が最小限度のものである必要があるが,緩やかな審査基準では,目的が正当であり,手段に合理的関連性があればよいとされる。もっとも,経済的自由の審査でも,「積極目的」「消極目的」の違いにより,審査基準に違いが出る。

■ 事案

前述のように,14条1項の列挙事由は単なる例示であると解される。社会的身分・門地については若干の争いがあるが,先天的な身分,すなわち,自分で努力してもいかんともしがたい・免れがたい身分と解すべきだろう(たとえば,「被差別部落出身」など。したがって,「パートタイマー」はこれにあたらない)。
法の下の平等が争点になった事案は,古くは尊属殺重罰規定が争われた事件があり,最近では非嫡出子の法定相続分問題,議員定数不均衡問題がホットな争点である。

  • 尊属殺重罰規定

★「栃木県父親殺し事件」最大判昭48・4・4百選30
<事実>
「あんたらずいぶん年が違うみたいだけど」
「だって親子だもの」
近所では夫婦と思われていた男女は,実は親子であり,女はすでに5人の子どもを生み,4人を妊娠中絶していた。この関係は女が14歳のとき,父親が強制的に迫ってきたことに始まる。以後,女が母に「父ちゃんがへんなことしてくるよ」と訴えても,父が家族に刃物を持ち出し,暴力を振るったため,なくなることはなく,むしろ暴力騒ぎが起こるとそれを慰めるために,「いいよ,父ちゃん,寝よう」と女が泣く泣く応じる有様だった。母親もこの状況に耐えかねず,男を見つけて娘を駆け落ちさせたが,結局連れ戻され,以後父親が借りた市営住宅に軟禁状態になった。これが女が16歳のとき,ここから12年間,父親を殺すまでここで暮らすこととなる。
5人の子どもは,2人が生後まもなく死亡し,残り3人はすくすく育っていた。上の子2人が小学校に上がり,手がかからなくなったため,女は稼ぎに出ることになった。そこで,恋が生まれた。彼は女を理解し,すでに女がしていた不妊手術に対しても理解を示した。やっと幸せになれる・・・そう思われたが,父は彼を憎く思い,「家に火をつけてやる」と女に告げ,家から出さないようにした。「売女め。おれは苦労をしながらお前を育ててきたっていうのに」・・・いつものように,娘を犯したあと,焼酎をあおりながら父がこういうと,さすがに女もかっと来た。だが,父は,「男のところに行きたければ行け。子どもを始末して,どこまでも追いかけてやるからな」といいながら,またもや娘を犯そうと負いかぶさる。それを女は反射的に払いのけ,逆においかぶさるようになった。そして,浴衣の腰紐を取り,父の首を締め付けた。今までのことが思い出されたのだろう,女は嗚咽しながら父の首を締め付けた・・・父の鼻から血が噴き出すと,長年女を苦しめてきた原因はなくなったが,尊属殺という事実が新たに生まれた。

第200条 自己又ハ配偶者ノ直系尊属ヲ殺シタル者ハ死刑又ハ無期懲役ニ処ス

父を殺した女は,親子と勘違いされた雑貨屋の女将の家に駆け込み,事実を告げた。そして,警察に連行された。その後姿を見て,女将は「ごめんね,すまなかったね」と何度も泣き叫んだ。
この顛末を聞いた大貫大八弁護士は,被告人の弁護を無報酬で引き受けることにした。国選弁護人では,一貫した主張ができないと危惧した末の配慮である。
<1審>
被告人に対する刑を免除する。
刑法200条は憲法14条に違反し無効であり,199条適用となり,被告人の過剰防衛・心神耗弱を考え合わせれば,刑の免除が相当である。

第14条  すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。

<原審>
被告人を懲役三年六月に処する。
刑法200条が違憲でないことは,過去の最高裁判断に照らして明らかであり,本件でもそれを覆すような材料はない。
<判断>
被告人を懲役二年六月に処する。
この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。
尊属殺という規定を設け,それを普通殺と区別し,刑を加重すること自体は違憲ではない(目的は正当)が,加重の程度が極端すぎる(手段は正当ではない)ため,刑法200条は違憲無効である。

★「民法900条4号但書の合憲性」最判平16・10・14
(合憲)
横尾
甲斐中
島田「規定の根拠である国民感情等は失われているために,違憲の疑いが濃いが,違憲判断は社会的混乱を招くゆえに,躊躇せざるを得ない」
違憲
泉「法律婚の尊重という目的は正当だが,この規定がそれに寄与する重要な役割を果たしているとはいい難い」
才口「非嫡出子という身分は,自分ではどうにもならない身分であり,これによる差別は十分な合理的根拠とはいい難い」