財産犯(総説)

  • 意義

個人の財産を保護法益とする犯罪(刑法2章36節〜40節)。


  • 客体

財産犯の客体は,「財物」と「財産上の利益」からなる。


財物

?財物とは何を言うか
「財」のある「物」,すなわち物として管理可能性のある物をいう。

   主観的に財産的価値があればよし
      ex.思い出の○○○○
   身体・身体の一部の財物となりうる
      ex.研究者垂涎のミイラ

死体だからといって・・・ すべて「財物」となるわけではない。埋葬されている死体は,すでに「物」として実質的所有権が放棄されているから,死体損壊罪規定があるものと考えられる。だから,「研究者垂涎」というのは,必要な枕詞である。

   情報の財物性・・・
   禁制品の財物性・・・


財産上の利益


第二百四十二条  自己の財物であっても、他人が占有し、又は公務所の命令により他人が看守するものであるときは、この章の罪については、他人の財物とみなす。

242条を文理解釈すれば,刑法が保護するのは占有している財物のことをいう,と採るのが素直である。しかし,そうしてしまうと,盗まれた財物を取り返した場合にも,窃盗・強盗が成立してしまうことになり,問題がある。そこで,保護法益を「占有」として捉えるのか,それとも「本権」として捉えるのかが議論の的になる。

★「窃盗罪の保護法益」最決平1・7・7百選Ⅱ23
<事実>
被告人は自動車の譲渡担保(買戻し約款付自動車売買契約)形式で,自動車の所有者と契約を締結し,金融を行っていた。この契約の締結の際,被告人は「譲渡担保だからといっても,ちょっと遅れたくらいじゃ自動車を処分することはないですよ」と話しておきながら,実際には,ちょっと遅れただけで(返済期限の翌日には),客の自動車保管場所に赴き,自動車をレッカー移動していた。
<判断>
被告人が自動車をレッカー移動した時点では,確かに被告人に所有権があったかもしれないが,やはりこの行為は,他人の占有に属するものを窃取したものとして窃盗罪を構成するというべきであり,かつ,社会通念上借主に受忍を求める限度を超えた違法なものというほかない。
<整理>
占有の侵奪=窃盗罪,そして,違法性阻却事由として「社会通念上借主に受忍を求める限度を超えていなければ」OK。

?財産罪の保護法益は何か
確かに本権説として捉えたほうが,窃盗者と本権者との関係をうまく処理しうる。しかし,本権は抽象的概念で,この権利が不確定であれば,権利者の保護も不確定となってしまうため,権利者の保護には結局のところ資さないのではないかと考えられる。権利者が本権の存在を法的に立証する必要があるからである。そうすると,占有説に立ち返らざるをえないが,すべての占有を保護するのもまた問題である。したがって,一応の理由のある占有が,保護法益となると解するべきだろう。
  • 不法領得の意思