名誉に対する罪

  • ●意義

名誉毀損
  :公然と事実を摘示し,他人の名誉を毀損する罪(刑法230条)
○侮辱罪
  :事実を摘示せず,公然と他人を侮辱する罪(刑法231条)


♪人の外部的名誉←名誉毀損
♪人の内部的名誉←侮辱罪
  ∵①法定刑の違いが保護法益の違いにつながっている
  ∵②死者の侮辱罪の規定がないのは,死者に名誉感情が存在しないから

★「侮辱罪の保護法益」最決昭・58・11・1百選Ⅱ19(団藤裁判官意見)
 侮辱罪(刑法二三一条)の保護法益名誉毀損罪(同法二三〇条)のそれと同じく客観的な社会的名誉(人格的価値の社会による承認・評価)とみるか、それとも主観的な名誉感情とみるかについては、学説の対立があるが、通説および大審院判例が前説を採つているのに対して、わたくしはかねてから後説を支持している(団藤・刑法綱要・各論四一三頁以下)。
 ただし、何よりもまず、名誉毀損罪の法定刑が三年以下の懲役・禁錮を含む相当に重いものであるのに対して、侮辱罪のそれが単なる拘留・科料にとどまつていることは、事実摘示の有無というような行為態様の相違だけでは説明が困難であつて、より本質的な保護法益そのものの相違にその根拠を求めなければならないのである。のみならず、侮辱罪の規定では「事実を摘示せずして」ではなく「事実を摘示せずと雖も」とされているのであるから、行為態様の相違としての事実摘示の有無ということも、文理上どこまで強く主張されうるか、疑問の余地がないわけではない。しかも、実際に、侮辱罪の事案の多くは、なんらかの意味における事実の摘示を伴つているのである(現に本件もそうである。)。そこで、事実摘示の有無に両罪の区別を求める立場からは、「事実」の意味を限定する以外にないのであつて、大審院判例によれば、たとえば、「侮辱罪は事実を摘示せずして他人の社会的地位を軽蔑する犯人自己の抽象的判断」を公然発表するものであるのに対して、名誉毀損罪は「他人の社会的地位を害するに足るべき具体的事実」を公然告知するものであるとされる(大審院大正一五年七月五日判決・刑集五巻三〇三頁)。この判旨を突きつめて考えれば、「他人の社会的地位を害するに足るべき具体的事実」にかぎつて両条にいう「事実」にあたるものとし、「他人の社会的地位を軽蔑する犯人自己の抽象的判断」を支えるにすぎない程度の事実は、ここにいう「事実」にはあたらないものと解するわけであろう。したがつて、事実摘示の有無という標準も、その限界はかなり微妙なものになる。さらにいえば、「他人の社会的地位を軽蔑する抽象的判断」の公然発表という行為は、社会的名誉そのものを保護法益とみるかぎり、保護法益の侵害に対して遠い危険性を有するだけの、きわめて間接的な関係に立つにすぎないことになる。わたくしは、もつと端的な保護法益を他に求めることができるとすれば、それによるべきものと考える。そうして、名誉感情を保護法益とみる考え方が、この点ではるかにすぐれているとおもうのである。

  • ▲構成要件

△公然
  =不特定or特定多数人が知ることのできる状態
    ∵外部的名誉=社会(不特定・特定多数人)的名誉
    ⊃↑への伝播可能性*1

★「噂話」最判昭34・5・7百選Ⅱ16
<事実>
被告人Xは庭先でが燃えているのを発見,たまたま現場付近にいたYを犯人だと思い,「Yの放火を見た」と問われるままに確証もないのに村議会議員らに発言。その発言が村中に広がったため名誉毀損罪に問われた。第1審,控訴審とも公然性を肯定。Xの弁護人は「対談の中で質問に答えただけなのだから積極的な事実の発表ではなく,公然性はない」として上告。
<判断>
質問に対する答えであるかどうかということは犯罪の成否に影響がない。発言は不特定多数の人の市長に達せしめうる状態において行われたものであり,公然と事実を摘示したものということができる。

△人
  ⊃幼児,法人,権利能力なき社団
    ∵①団体の社会的評価はありうる
    ∵②団体構成員の感情もある
△事実の摘示
  =社会的評価を低下させるに足りる具体的事実の摘示
    要具体性←なければ「意見表明」
△毀損行為
  ↑立証が困難∴社会的評価の低下は必要ない


  • 230条の2

△①公共性

★「池田大作の私生活の公共性」最判昭56・4・16百選Ⅱ17
<事実>
月刊誌の編集長である被告人は創価学会批判の一環として,会長と女性議員の性的関係を暴露する記事を掲載,これが名誉毀損に問われた。1審,控訴審とも「名誉を毀損される者が一般社会の利益にかかわるべき地位・立場ある」ことを公共性のメルクマールとし,名誉毀損罪の成立を認めたため,被告人上告。
<判断>
破毀差戻し。
私人の私生活のことであっても,社会的活動の性質及び影響力の程度などの如何によっては,公共性が認められることもある。

△②公益性
△③真実性

★「実は真実ではなかった場合」最大判昭44・6・25百選Ⅱ18
<事実>
被告人は「夕刊和歌山時事」の中でライバル紙の経営者を具体例を挙げて批判したため,名誉毀損罪に問われた。被告人はこれを真実だと証明しようとした。が,失敗(誤認だった)。
<判断>
本条の規定は人格権としての名誉の保護と,憲法21条による正当な言論の保障との調和を図ったものである。であるために,事実が真実である証明がなくても,確実な資料・根拠に照らした誤信である場合には犯罪の故意がなく,名誉毀損の罪は成立しない。

*1:例外につき百選Ⅱpp.35