将来債権譲渡

  • ?問題点

?●将来債権譲渡とは
将来債権譲渡の法的構成
?▲有効要件
?▲対抗要件
?●集合債権譲渡担保


:将来発生する予定の債権の譲渡契約
   将来:?=これから来ようとする時。未来。(広辞苑第5版)
      ・・・将来とは「不確実」である
         ∴将来債権譲渡契約は有効ではない?
            ∵契約⊂法律行為の要件↓
               ①△当事者
                  ↑行為能力が必要
               ②△意思表示
                  ↑意思の欠缺および瑕疵がないことが必要
               ③△目的  ←あやしい
                  ・確定可能性
                  ・実現可能性
                  ・社会的妥当性
                  ・適法性
            →治癒=要件の検討が必要になる(後述)
○具体例
   ・法律上の発生原因がある
      利益配当請求権
      賃料請求権
      残余財産分配請求権
      代金債権
      診療報酬
   ・事実上の発生原因がある
      来月の小遣い
   ・純粋な予想
      食材宅配オイシックスの野菜・卵セット欲しい!


  • 法的構成

1 ○契約=処分
   契約時点で有無を言わさず将来債権が移転する
      ∴債権の移転=契約時
2 ○停止条件付債権譲渡
   ある条件が成就したときに債権が移転する
      ∴債権の移転=条件成就時
3 ○予約
   契約は将来債権移転の予約にすぎない
      ∴債権の移転=本契約締結(予約完結権行使の意思表示)時(559条→556条)


  • ▲有効要件

譲渡可能性があること
1 △発生可能性
   必要=最判昭和53・12・15
   不要=最判平成11・1・29

★「未来予想図Ⅰ」最判平成11・1・29百選Ⅱ28重判平11民法9
<事実>
医師のAは,将来,社会保険診療報酬支払基金から受ける支払予定の債権の譲渡契約をYとした。一方,Xはその後,その債権について国税滞納処分として差押えを行った。結果,YとXの譲渡と差押えは競合,YとAの将来債権譲渡契約が無効であれば,Xの差押えが有効になることになった。
1審2審とも,将来債権譲渡が有効である場合について,「当該債権の発生が一定額以上の安定したものであることが確実に期待されるそれほど遠い将来のものでないときに限る」として,債権譲渡の日から6年7か月経過後に発生する債権の譲渡の効力を否定した。
<判断>
破棄自判。
将来債権譲渡契約においては,契約当事者は,基礎事情・債権発生可能性・発生しなかった場合のリスク等を織り込んで契約するものであるから,債権発生可能性が低かったからといって,それが契約の効力に影響を及ぼすことは,当然にはない。ただ,契約内容が社会通念上著しく問題があるものであれば,契約は公序良俗違反として,一部または全部が無効になることがある。
本件契約では,期間・額は明確に特定されていて,対抗要件の具備も問題ない。
<整理>
この判決以前にも,将来診療報酬債権に関する判例があった。その判例である最判昭53・12・15は,診療報酬債権の特殊性(高度の発生可能性)を前提として,将来債権の譲渡を限定的に認めたものであると評価されていた。したがって,この判例は,使い勝手としては,若干問題があった。ところが,本判例は発生可能性の程度を,客観的には問題としなかったことにおいて特徴がある。


2 △特定可能性

★「未来予想図Ⅱ」最判平成12・4・21重判平成12民法4
<事実>
A社はX社から借りている資金の担保のため,Y社に対して将来発生することのあるこたつ等の売掛代金債権の譲渡予約契約をX社とした。この契約の内容は「A社に履行遅滞等があれば,X社は直ちに予約完結できる」というものである。
そうこうしているうち,A社は倒産。早速,X社が予約完結の意思表示をし,A社から預かっていたA名義の債権譲渡通知書を郵送,Y社に到達した。その通知書を受け取ったY社は,「A社の住所と違う?」と思い譲渡の有無をA社に聞いたところ,A社は譲渡を否定。このため,Y社は代金をA社に支払ってしまった。XがYに対して譲受債権の支払い請求をしたのが本訴である。
争点は,譲渡目的となる債権の特定性である。1審はこれに対して,債権が特定されておらず,契約は公序良俗に反するとしてXの請求を棄却。が,原審は逆に「無限定の包括的債権譲渡予約ではない」としてXの請求を認容した。
<判断>
1 債権譲渡の予約にあっては,予約完結時において譲渡の目的となるべき債権を,譲渡人が有するほかの債権から識別することができる程度に特定されていれば足りる。これは,将来債権譲渡予約でも一緒である。本件ではこの特定がある。
2 被担保債権の額が予約時点で特定されていなくても,予約完結の時点では特定されるのだから,問題ない。
3 Xは公序良俗に反する方法で自己の債権の保全に走ったとはいえないから,本件予約も,公序良俗に反するものではない。
<整理>
○特定性→第三者の便宜のため。
○YがAを信じたのは軽率だった。

   1) 期間
   2) 金額
   3) 発生原因
   誰のための特定可能性?
      第三(債務)者?
      債務者(譲渡人)?


3 △公序良俗
   譲渡・特定とは独立の要件?


現在債権譲渡の対抗要件は,債務者への通知・債務者の承諾(467条1項)である。これに対して,将来債権譲渡対抗要件はどのように解するべきか。ここでは対抗要件具備のタイミング,契約形態,個数が問題になる。


△通知・承諾
   ・事前通知
   ・事前承諾
      いまだ譲渡はしていないのに,譲渡人(467条1項)といえるのか?
      債務者がいいっていってるんだからOKなのか?

★「information center」最判昭和49・3・7百選Ⅱ32
民法467条1項が,債権譲渡につき,債務者の承諾と並んで債務者に対する譲渡の通知を以って,債務者だけでなく第三者に対する関係においても対抗要件としたのは,債権を譲り受けようとする第三者は,普通は,まず債務者に債権の存否・帰属を確認し,債務者としても,それに素直に返事をし,第三者もその表示を信頼して,債権を譲り受けることがあるという事情による。このように,民法の規定する債権譲渡についての対抗要件制度は,債務者の認識を通じて,情報が第三者に表示されることを根幹として成立している。

   ・事後通知
   ・事後承諾

★「未来予想図Ⅲ」最判平成13・11・22重判平成13民法8
<事実>
XはBに対して有する債権を担保するため,AがCに対して有する継続的取引債権の譲渡担保契約を締結した。これに伴い,AはCに「AのCに対する債権に,Xを権利者とする譲渡担保権を設定しましたので,民法467条に基づいてご通知申し上げます。XからCに対して譲渡担保権実行通知(書面・口頭)がなされた場合には,この債権に対する弁済をXに行ってください」と連絡。その後,担保権実行事由が発生したので,Xは書面でCに対して譲渡担保権の実行を通知。が,それから遅れること数日,Y(国)も同債権を国税滞納処分を理由に差し押さえた。困ったCは代金を供託。この供託代金の帰属の確認を,Xが求めたのが本件訴訟である。
1審は,民法467条2項の第三者対抗要件の効力につき,XがCに通知をするまではAが弁済受領権を有することを根拠に,AのCに対する債権がXに移転するのは実行通知のときであると判断し,Xの請求を棄却。控訴審は,債権の移転時期については明言しなかったが,Cの立場に立って考えると,Cは担保権実行通知をXから受け取るまでは,Aに弁済すればよいことになっているのだから,通知によって債権の帰属に変動が生じたと認識することは期待できない,として第三者対抗要件の効力を否定し,やはりXの請求を棄却した。
Xは,Cに対する通知はAとXの合意内容をCに知らせるためのものにすぎず,債権譲渡の事実を否定する意味になるのではない,として上告。
<判断>
破棄取消自判。債権はXのもの。
本件契約はいわゆる集合債権譲渡担保契約といわれるものと解されるが,この場合は,将来債権はすでに確定的に譲渡されており,ただ,取立て権限が設定者に付与されていて,その代金の引渡を担保権者にすることを要しない,とされているだけにすぎない。したがって,対抗要件の具備は指名債権譲渡の方法(民法467条2項)によることができるのであり,AのCに対する協力要請も,その効力を妨げるものではない。

★「未来予想図Ⅳ」最判平成13・11・27重判平成13民法9
<事実>
AはYのゴルフクラブ会員権を取得し,Bに対して有する債務の担保として,この後ゴルフクラブ会員権の譲渡を予約,Bが予約完結権をAが債務不履行のときに行使すれば,本契約を成立することができる旨を合意し,Yも確定日付ある証書によりこれを承諾した。その後,Bはこの予約完結権を行使したが,確定日付ある証書による通知・承諾はしなかった。そして,さらにこの後,XはAに対する滞納処分としてゴルフクラブ会員権を差押え,差押え通知書をYに送達した。そして,さらにさらにこの後,このゴルフクラブ会員権は期間満了により単なる債権となり,Aはこの債権を取得したが,この債権の帰属をXが主張。
<判断>
債務者は債権譲渡制度の第三者対抗要件における情報センターである(最判昭和49・3・7)が,譲渡予約の段階では,債務者は債権の帰属が将来変更される可能性を了知するにとどまり,債権の帰属に変更が生じた事実を認識するものではない。したがって,予約の確定日付ある証書では,第三者に対抗することができない。
<整理>
そして,勝負は確定日付のある証書×確定日付のない証書,になり確定日付のある証書(X)が勝ちとなる。
この判決によれば,予約型担保は存在できなくなるため,実務上の影響が大。債権質(364条)類推もできなくはないが,債務者の負担が増えるからだめ。最高裁は,本契約はいいが(5日前の最判),予約型はだめ(本件)といいたい。

△特別法
   ・債権譲渡特例法
      http://www.galliaplus.com/rbl/sp.html
      登記でOK・・・債務者インフォメーションセンター説とのジレンマ


  • 集合債権譲渡担保

:債務者が有する集合債権を担保として譲渡する
○集合債権
   :将来債権+既成債権
   ⇔集合動産(集合物)
   ⇔無体財産権(知的財産権
○譲渡担保


?債権の譲渡担保の必要性
   ・債権譲渡・・・所有権は完全に移転
      しかし,取立権留保
   ・譲渡担保・・・所有権は不完全に移転
      =担保権的構成
      ≠所有権的構成
         しかし,清算義務+受戻権
   ・債権質・・・所有権は移転しない

★「停止条件付債権譲渡と否認権」最判平成16・7・16重判民訴8
<事実>
AはYとの間で,破産手続き申立て等の開始を停止条件とする債権譲渡契約を締結。その後,A社は倒産(平成12年3月31日)。このためA社は第三債務者らに,確定日付のある証書による債権譲渡の通知をした。一方,6月16日に破産管財人Xが選任され,Yに対し破産法72条1号2号に基づく金員の返還等を求めた。1審原審ともXの請求認容。
<判断>
破産法72条2号の趣旨は,債権者間の平等,破産財団の充実を図ろうとするものである。そして,債務者の支払い停止等を停止条件とする債権譲渡契約は,このような趣旨の潜脱を予定している。そうすると,上記契約を実質的にみれば,債務者に支払い停止等の危機時期が到来したあとに行われた債権譲渡と同視すべきであり,上記規定に基づく否認権行使の対象となる。

  • 参考文献

・池田真郎「将来債権譲渡の効力上・下」NBL665・666号
・同「債権譲渡に関する判例法理の展開と債権譲渡取引の変容」『転換期の取引法』商事法務
・三林宏「集合債権譲渡担保」NBL766号
・鳥谷部茂「一括支払システム」NBL788号
・同「集合債権譲渡予約と目的債権の特定性(最判平成12・4・21)」重判平成12民法4
・山本和彦「停止条件付債権譲渡と否認権」NBL794号
・石田剛「指名債権の譲渡予約に対する債務者の確定日付のある承諾と譲渡の第三者対抗力(最判平成13・11・27)」重判平成13民法9
・角紀代恵「集合債権譲渡担保の第三者対抗要件最判平成13・11・22)」重判平成13民法8
・同「将来債権譲渡の包括的譲渡の有効性(最判平成11・1・29)」重判平成11民法9
・高木多喜男「将来診療報酬債権の譲渡性(最判昭和53・12・15)」ジュリスト増刊(担保法の判例2)