相続回復請求権

  • ●意義

表見相続人に相続財産が帰属している場合,真正相続人がその返還を請求する権利(民法884条)。


○表見相続人
  :法律上の相続人ではないのに,相続財産を占有するニセ相続人
  ⊃共同相続人?

★「884条半殺し」最大判昭53・12・20百選77
<事実>
被相続人であるAの死亡により,XとYらが遺産を相続したが,YらはXに無断で遺産である不動産の所有権移転登記。そして,この10年後に,Xは自己の共有持分権に基づき所有権移転登記の抹消を請求。Yらは884条の時効の抗弁。
<判断>
884条の相続回復請求権の制度は,真正相続人に,早期に相続権を回復させようとするものである。
また,相続人が複数いるときは,各相続財産は相続開始のときから共有に属する(896条・898条)から,共同相続人のうち誰かが相続分を超える相続財産を占有している場合が生じるが,これと共同相続人でないものが相続財産を占有している場合は,理論上異なるところはない。これらの場合,相続権の争いを早期に解決する要請があることも,やはり変わりはない。
したがって,共同相続人であっても884条の適用は否定されないが,しかし,善意かつ合理的な事由のない表見相続人は,実質において物権侵害者・不法行為者であり,消滅時効の援用を認められるべき者ではない。
さらに,一般に共同相続人は各共同相続人の相続分を知っているものだから,884条が問題になるのは特殊な事例である。本件でも,Yらが知らないことにつき主張・立証されていないのだから,結局,知っているとすることができる。
<整理>
この判決により,実務的に884条の利用は封殺されるにいたった。

  • ♪趣旨

♪個別権利の一括請求
  相続権⊃物権・債権等
  このメリットのゆえに
    →消滅時効(5年20年)がある

何者? 884条は,相続回復請求権の内容を定めているわけでもなく,書いてある事といえば消滅時効くらいである。では,個別権利の一括請求が認められるとして,個別権利と相続回復請求権はいかなる関係に立つのだろう。
独立請求権説は,相続回復請求権を個別的請求権と異なる特別の請求権とみる。これに対しては,集合債権説が,単なる個別的権利が便宜上,相続回復請求権として構成されているに過ぎないと批判する。
  • 行使

遺産占有を失っている真正相続人が,表見相続人に対してする。
   ⊃第三取得者?

最判平7・12・5
<判断>
悪意または合理的事由の存否は,第三者がいるときであっても,表見相続人について判断すべきである。
<整理>
判例は相続回復請求権の被告適格を第三者に認めないが,そうすると,消滅時効の援用をすることができなくなり,相続財産が表見相続人の下にある場合と,第三者の下にある場合とで不均衡が生じる。もっとも,取得時効は第三取得者に限り合算OK(判例)。